Alchemist Yuki's Strategy
Episode 35: From Swamp to Meadow
接続した状態の制御核(コントロールコア)から奪った沼地の支配権は、直ぐに侵略核(インベードコア)へ移譲した。
これによって沼地の支配は一気に進み、侵略率は80%を越えた。
残りの十数%は迷宮核(メイズコア)本体の支配範囲だが、それも最長で4日以内には支配が完了するだろう。
沼地は既に魔物も殆どいないし、経験値効率が悪いので、次のエリアに進む事とする。
◇
沼地の防衛はクレヴィドラグに任せ、進化したポイズンスライムを全て回収してから沼地を発った。
次に侵略するのは、南方の森エリア。
途中草原エリアで戦力の再編を行い、それが終わり次第森エリアへと進出する。
最低でも明日の昼までには森エリアの中枢に侵略核(インベードコア)を設置したい。
「ますた。かに、おいてくの?」
クレヴィドラグ達を置いて沼地を出ると、クラウがローブの袖を引っ張り、そう聞いて来た。
「うん。沼地の防衛を任せるからね」
そう答えると、クラウは少ししょんぼりしながらセロの肩によじ登って行った。
クラウの代わりに食いついて来たのは白鬼。
「ほ、本当に置いてくのか?」
彼女は小心者だが情が移りやすい様で、数日間世話をしたクレヴィドラグ達と、この危険な情勢で離れるのが嫌らしい。
世話するのが嫌とか何だかんだ言って、手ずから餌をあげたり水を掻き混ぜて空気を送り込んだりと自ら進んで世話をしていたので、こうなるのも宜なるかな。
「心配しなくても一番危険な敵は山から降りて来ないし、彼等だけでも十分沼地を守り通せるさ」
山の上にいる筈のヒドラ・亜種は、どうやら迷宮から吸い上げられる地脈の魔力を直に浴びて力を蓄えている様なので、比較的弱めのクレヴィドラグくらいなら見逃すだろう。
寧ろ危ないのは、強い個体が複数いる僕等の方だ。
僕が気付いている様に、ヒドラも僕等の存在には気付いているだろうからね。
「むむむ……」
勿論そんな事を言ったら、臆病な彼女の事だから真っ先に逃げ出そうとするだろう。
無駄な心労を増やしてやる事も無いので、黙っておく。
唸る白鬼は赤鬼に背負われ、鼻歌を口ずさみながらあやとりをするクラウはセロの肩に乗っている。
ロニカは生真面目にも回復役で装甲の薄いリーンに張り付き、当のリーンは逃がれようと暴れるプチジェムゴーレムの二体をその胸元に抱えあげて愛でている。……案外怪力だな。やっぱり胸元に2つも重りを付けているから鍛えられているのだろうか?
大した敵も出ない道中。ドールの集団に防衛されている為、主力陣はやる事が無い。
この間に、宝箱から出たアイテムを確認しておこう。
魔結晶 品質B レア度5 耐久力A
備考:魔力の高密度結晶体。
ブムルのインゴット(大) 品質B レア度3 耐久力B
備考:青鋼(ブムル)のインゴット(大)。
微睡みのナイフ 品質C レア度3 耐久力C
備考:眠属性の魔力を宿したナイフ。斬りつけた対象を眠りに誘なう。
魔物召喚板(モンスターカード):『ワイルドヒポポタマス』 品質A レア度4 耐久力B
備考:ワイルドヒポポタマスの魔物召喚板(モンスターカード)。
一抱えもある大きなインゴットが5個に魔結晶が2個。ナイフが一本と魔物召喚板(モンスターカード)が一枚。沢山入っていた賞味期限切れのポーションは全て廃棄した。
沼地は今まで全く攻略されていなかったので、宝物が溜まっていたのだろう。
差し当たってモンスターカードの内容をカバから馬に書き換えた。
ついでに木材とブムル希少鋼で馬車を作り、移動の自動化を図る。
道は殆ど平らなので、車輪にスライムを潜ませて揺れなどをゼロにし、処理に困っているネズミの革をふんだんに使って豪華な椅子を拵えた。
乗車するのはドール以外の全メンバー。
如何に通常の馬より強靭なワイルドホースとは言え、馬一頭ではこの馬車を引けないので、山車を引かせる様にドール達に引っ張って貰う事にした。
◇
青の装甲車 品質A レア度5 耐久力B
備考:青鋼(ブムル)を使った装甲車。様々な魔法が刻まれている。
殺戮蟷螂の蛇毒鎌 品質A レア度4 耐久力B
備考:キラーシックルの鎌とレッサーリトルヒドラの毒を用いて作られた鎌。
重剛河馬の柔軟小盾 品質B レア度4 耐久力B
備考:グラニタマスの素材を用いて作られた重い小盾。
ブムルの弓 品質A レア度3 耐久力B
備考:青鋼(ブムル)を用いて作られた大弓。
重剛河馬の剛牙矢 品質B レア度3 耐久力C
備考:標的に刺さると小爆発を起こす矢。
殺戮蟷螂の先鋭矢 品質A レア度3 耐久力C
備考:斬属性を宿す矢。刺さりやすい。
多頭毒蛇の毒牙矢 品質A レア度3 耐久力C
備考:刺さると毒を分泌する矢。
目的地への道すがら、新しい素材で装備の新調と強化を行った。
新しい武器である弓は支援型のリーンに装備させ、10個程作れた小盾と鎌はドール達に与えた。
リーンには矢筒っぽく加工した収納袋(マジックバック)を持たせてあるので、矢の補給に困る事は早々ないだろう。
また、既に作成していた武具も、金属で補強を行い、強化した。
一つだけ作った装甲車は、ブムル希少鋼を全て使い切り、魔結晶をコアとした強力な自動車である。
移動の足として使える他、側面には迎撃用の針杖が取り付けられ、正面には鋭い衝角が装備されている。
運転手はブムル希少鋼と相性の良いプチサファイアゴーレム君だ。
車輪や座席にはスライム加工が施されているので、どんな悪路も走破可能である。
そんな様々な装備を作りつつ、辿り着いた草原にいたのはーー
ーー暇そうに草を食む2匹の大鹿と、ほぼ無傷のゴーレム達だった。
……森から敵が殆ど来なかったのかな?