会議も終了し、今日は第一拠点で夜を過ごすことになった。そんな僕はちょうどシャワーを浴びようと、簡易シャワールームに向かっていた。これはつい先日できたのだが、近くに流れている川の水をろ過してそのままシャワーから流しているものだ。もちろんこれは魔法によって維持されているが、僕はこんな風には魔法を使うことはできないので、素直に感心する。

「あれ、ノア?」

「ユリアさん。どうも」

ぺこりと頭を下げるノア。親もいなく、友人もいなく、天涯孤独な彼だがそれでもこの生活に適応してきたのか、今のところは何の問題も上がっていない。むしろ、その魔法の技量は確かなものだとして特級対魔師に本格的に抜擢しようかという声もあるほどだ。

「ちょうどいいや。一緒に入ろうか。まぁといっても個室だから、隣り合わせだけど」

「えっとその……」

躊躇している。別に何の問題もないだろうが、それは僕がそう思っているのだけあってノアはまだ恥ずかしい年齢なのかもしれない。

「えっとまぁ、別にいいかな。うん……」

「そう? なら行こうか」

僕らは着替えを持ってそのまま脱衣所に行って、服を脱ぎ去り個室のシャワールームへと入っていく。ノアは妙に脱ぐのに手こずっていたようだが、僕がシャ

ワーを始めると隣の個室に彼が入ってくる。

「ノアはもう慣れた?」

「うん。まぁ孤児院にいた時よりは、充実しているかな。黄昏での生活も悪くないよ」

「そっか。なら良かったけど……」

「孤児院の時はずっと独りだったけど、今はユリアさんもいるし、それに他の隊員の人も優しくしてくれるし……僕は十分に満たされているよ」

「……」

居場所が軍の中にしかない。それに、ノアが必要とされているのはその魔法の技量からだ。もし彼に何の能力もなければ、きっとずっと孤児院にいたままだろう。今は食糧生産がかなり改善されたとはいえ、全ての人間が満たされているわけではない。やはりその供給は軍が多くなるし、階級が高い人間ほど、食にありつける。いや食だけじゃない。衣食住全てにおいて、完璧に満たされている人間など、本当にごく少数だ。

そんな中で、ノアは自分の居場所をこの軍の中に見出した。それはきっと良いことなのだろう。でも彼も、そして僕も同じだと思うと少しだけ悲しくなる。僕も人のことは言えないが、その若さで戦うしかできないのは……やはり虚しいことなのかもしれない。

僕は戦うしかないと分かっているし、その覚悟はすでに背負っている。今まで数多くの死に触れ、その度に心が折れそうになったが、それでも立ち上がって来た。もちろんそれは、僕だけの力ではない。みんなが、仲間がいたからこそ、ここまでくることができた。ならば僕もささやかながら、ノアに力になりたい……そう考えていた。

「そろそろ上がろうか」

「うん」

その後、僕らはそのままシャワールームを出た。今は人が少ないとはいえ、あまり占拠しては悪い。そして僕らは脱衣所に戻って下着と服を着ようとするも……僕はあることに気がついた。

「……」

「どうしたの、ユリアさん?」

ない。そう、ないのだ。いや、僕の見間違い……しかし何度見てもない。そう、あるべきものが、ないのだ。もしかして僕はとんでもない勘違いを……。

「ねぇノア」

「? どうしたの、僕の下半身を見てさ」

「こんなことを尋ねるのは失礼だと分かっているけど……」

「別に何でも聞いてもいいけど?」

「その……女性なのか……?」

「そうだけど」

そうか……女性だったのか。いやあまりにもボーイッシュな見た目に、口調も僕と言っているので完全に男だと思い込んでいた。声も声変わりの前の男の子なら普通だと思っていたし。

でも僕は見てしまった。あるべきものが、ないことに。ということは、僕は幼いとは言え無理やり隣のシャワールームに招いてしまったわけか……。

「どうしたの、頭を押さえて」

「いや……自分の愚かさに絶望してて」

「もしかして、僕のこと男だと思ってた?」

「すまない……思ってた」

「まぁよく勘違いされるけど、僕は女の子だからね〜」

「そっか。うん。ノアちゃんて、呼んだほうがいい?」

「え。今更それは、気持ち悪いかも」

「ならいつも通りでいいか……」

「うん! そもそも別に女だからと言って、接し方を変える必要はないと思うけど」

「……そうだな。あぁ全くもってその通りだ」

僕はノアと会話をしながら周囲を見渡す。いつもなら、ここら辺で知り合いと出会ったりするのだが……いないようだ。僕はすぐに着替えると、ノアもまた同じように手早く着替えをすませる。

「そう言えば、ユリアさんに話があったんだった。時間いい?」

「構わないけど、大事な話?」

「そうだね。エルフの件、て言えばわかるかな」

「……それなら向こうで話そうか」

「うん」

僕はノアの顔つきが少し鋭くなったのを見て、悟った。やはり僕だけではない。リアーヌ王女も、そしてノアもまた何かを感じ取っているのだ。