「さて、案内を頼むぞっ!」

意気揚々とした様子でそう告げるサンドラ女王。

僕たちは今はそんな彼女から少しだけ距離を取って話し合っていた。

「リアーヌ王女。このまま連れて行ってもいいんですか?」

「まぁ想定はしていたことなので」

「そうですか……」

「でも、大丈夫なの? 相手は一応サキュバスの女王でしょ?」

「そうですね。とりあえずは二人とも無礼なことはしないように。特にエイラは言葉使いに気をつけてね?」

「……はーい」

どこか納得がいかない、といったような顔で先輩はぶっきらぼうにそう答えた。

そして何故かサンドラ女王は僕の隣に立つと、妖艶な手つきで僕の体を触ってくる。

「ひいっ!!」

「ふふふ……いい体をしておる。よく鍛えてあるのお……」

「恐縮です……」

「そうじゃの。お主ならば──」

そう言いかけた瞬間、サンドラ女王は急に何かを思い付いたかのように声をあげた。

「むむ! そういえば、私だけが人間の国に行くのは文句が出そうじゃのぉ……リアーヌとやら、人数は増やしてもいいかの?」

「そうですね……十名以下でしたら、こちらでも対応できると思います」

「あいわかった」

サンドラ女王はそのまま消え去ると、すぐに何人かのサキュバスを連れて戻ってきた。

「うわぁ〜。近くで見ると可愛い〜」

「だよね〜!」

「ふふふ……食べちゃいたい」

「ちょっと抜け駆けはなしだって!」

「とりあえず人間の国についてからよ!」

ひ、ひぃいいいいい! と声にあげることもできずに僕はブルブルと震えていた。それに後ろにいる先輩に背中をギュッと抓《つね》られている。

前も後ろも、大変なことになっているが……とりあえずまとまった僕たちはやって来た道を戻っていく。

今回は手探りに進む必要もないので、それほど時間はかからないだろう。きっと泊まり込みなる必要もないはずだ。

と言うよりもこのメンバーで泊まり込みになると、きっと僕の精神が保たない。いや……本当にいろいろな意味で……。

そして僕たち一行はそのままスムーズに進行していくと、すぐに結界都市が視界に入ってくる。

「ほぉ……なかなかの規模じゃのぉ……」

「おっきい!」

「すごーい! あんなに大きいんだぁ……!」

「ふふふ……すでに男の匂いがするわっ!」

サンドラ女王を含めて、サキュバスの人たち全員が騒ぎ始める。

そんな中リアーヌ王女は全員を通すために、検問の人のもとに向かってしまったので今は待機中である。

「ねぇユリア」

「はい。どうしました?」

「あんた、妙な期待してないでしょうね?」

じっと半眼で見上げてくる先輩。

い、一体何のことを言っているんだろうか……。

「き、期待ですか? 何のことでしょうか?」

「まぁ気にしてないならいいけどっ!」

プイっと顔を背ける先輩。本当に乙女心は複雑怪奇というか、僕には全く理解できなかった。

そうしていると、リアーヌ王女が戻ってくる。

「許可が下りました。それでは案内いたします」

こうして人類と亜人の本格的な交流が始まるのだった。