黄昏危険区域に再び赴くということで、準備期間が与えられた。でも、別に僕は特別な準備をすることはなかった。

あの場所は慣れているが、必要なのは生存するだけの能力だ。

それに今の僕は睡眠も食事もそこまで必要はない。最低限あれば、今の体は大丈夫だ。

「ユリア。準備は進んでいるの?」

「先輩」

基地の中でエイラ先輩と出会う。確か、エイラ先輩も別の任務で黄昏に赴くことになっている。だがそれは、僕らとは違って最前線ではない。

特級対魔師の中でもレベル5の先に向かうのは、上位のメンバーだけだ。エイラ先輩はそこから漏れている。

だがきっと、いつか先輩の力が必要になる時が来るだろう。

「準備はそうですね。僕の場合は最低限でもいいので、それほど時間は」

「そっか。ま、しばらくの間は会えなくなるわね」

「そうですね。寂しくなりますね」

「本当にそう思ってる……?」

じっと僕を見上げてくる先輩。その際に、微かに桃色のツインテールが微かに揺れる。

「はい。思ってますけど」

「ならもうちょっと、情緒を持って欲しいもんだけど……」

「はぁ。そうですか」

「まぁいいわ。それがユリアの良さでもあるから」

「? 恐縮です?」

そして、話題は任務へと移る。

互いの表情は真剣そのもの。わずかに緊張が張り詰める。

「……ついにここまできたわね」

「そうですね」

「ベルの想いも、この先に持っていかないとね」

「はい。ベルさんはきっと、青空から見ていますよ」

「そうね。それにベルだけじゃない。今まで犠牲になってきた仲間のためにも、私たちは前に進み続けないといけない」

ふと外の景色を見つめる先輩。そんな彼女の横顔を見つめる。先輩は小さくて、とても可愛らしい容姿をした人だ。見た目も、僕よりも年下に見える。

だけど、どうしてだろうか。

先輩はふと、とても大人っぽい振る舞いを見せる。それは僕にとって、やけに魅力的に思えた。

「先輩。綺麗ですね」

「はぁ……っ!? 急にどうしたのっ!!?」

と、思ったことを口にしてみると、顔を真っ赤にして慌て始める。

「あ、すみません。ちょっと、ふと思ったのが声に出てしまいました」

「もう! 唐突に変なこと言わないでよっ!」

「すみません。緊張感に欠けましたね」

「ま、まぁ……別に嫌ってわけじゃないけどっ! それはその……時と場合を考えないさいよねっ!」

「? はい。わかりました」

桃色の艶やかなツインテールをぴょこぴょこと揺らしながら、先輩はそういった。

そうだ。またいつか、こんな風に笑いあえる日を迎えるためにも……僕らは、自分に課された任務をこなすしかないのだ。

「じゃあユリア。またね」

「はい。また会いましょう」

踵を返す。

後ろを振り返ることは、もうなかった。