A Banished Failure Survives in the Borderland and Becomes an S-Rank Exorcist
Chapter 190 Preparation Period
黄昏危険区域に再び赴くということで、準備期間が与えられた。でも、別に僕は特別な準備をすることはなかった。
あの場所は慣れているが、必要なのは生存するだけの能力だ。
それに今の僕は睡眠も食事もそこまで必要はない。最低限あれば、今の体は大丈夫だ。
「ユリア。準備は進んでいるの?」
「先輩」
基地の中でエイラ先輩と出会う。確か、エイラ先輩も別の任務で黄昏に赴くことになっている。だがそれは、僕らとは違って最前線ではない。
特級対魔師の中でもレベル5の先に向かうのは、上位のメンバーだけだ。エイラ先輩はそこから漏れている。
だがきっと、いつか先輩の力が必要になる時が来るだろう。
「準備はそうですね。僕の場合は最低限でもいいので、それほど時間は」
「そっか。ま、しばらくの間は会えなくなるわね」
「そうですね。寂しくなりますね」
「本当にそう思ってる……?」
じっと僕を見上げてくる先輩。その際に、微かに桃色のツインテールが微かに揺れる。
「はい。思ってますけど」
「ならもうちょっと、情緒を持って欲しいもんだけど……」
「はぁ。そうですか」
「まぁいいわ。それがユリアの良さでもあるから」
「? 恐縮です?」
そして、話題は任務へと移る。
互いの表情は真剣そのもの。わずかに緊張が張り詰める。
「……ついにここまできたわね」
「そうですね」
「ベルの想いも、この先に持っていかないとね」
「はい。ベルさんはきっと、青空から見ていますよ」
「そうね。それにベルだけじゃない。今まで犠牲になってきた仲間のためにも、私たちは前に進み続けないといけない」
ふと外の景色を見つめる先輩。そんな彼女の横顔を見つめる。先輩は小さくて、とても可愛らしい容姿をした人だ。見た目も、僕よりも年下に見える。
だけど、どうしてだろうか。
先輩はふと、とても大人っぽい振る舞いを見せる。それは僕にとって、やけに魅力的に思えた。
「先輩。綺麗ですね」
「はぁ……っ!? 急にどうしたのっ!!?」
と、思ったことを口にしてみると、顔を真っ赤にして慌て始める。
「あ、すみません。ちょっと、ふと思ったのが声に出てしまいました」
「もう! 唐突に変なこと言わないでよっ!」
「すみません。緊張感に欠けましたね」
「ま、まぁ……別に嫌ってわけじゃないけどっ! それはその……時と場合を考えないさいよねっ!」
「? はい。わかりました」
桃色の艶やかなツインテールをぴょこぴょこと揺らしながら、先輩はそういった。
そうだ。またいつか、こんな風に笑いあえる日を迎えるためにも……僕らは、自分に課された任務をこなすしかないのだ。
「じゃあユリア。またね」
「はい。また会いましょう」
踵を返す。
後ろを振り返ることは、もうなかった。