サヤはエイーダの拘束を解き、クリステアとエイーダに応接間へと案内される。応接間の椅子に腰かけるエイーダとサヤ。そして、いつの間に用意したのか、クリステアは2人分のお茶とお菓子をテーブルの上に置いた。

「さて、もう正直に話してしまうと、お前さんの娘であるラナとシアじゃが、どっちかか……あるいは両方とも『神子』である可能性が高い」

「『神子』……ですか……?」

エイーダはクリステアが用意したお菓子をボリボリ食べながらそう答える。そのエイーダの言葉を受け、サヤは首を傾げる。彼女は「はじめての冒険者適正職業入門」も読んだ事があるので、冒険者適正職業の事は全部覚えているが、『神子』という職業は書いてなかったし、冒険者からも噂等で聞いた事もない。

「冒険者適正職業の事だと思っておるのなら違うぞ。『神子』とは、神に愛された子を略して『神子』と呼ばれており、エルフ族の一部の者に与えられる力のようなものかの」

エイーダはそう言ってお茶を啜りながら『神子』について説明を始めた。

『神子』とは、いるだけでその地を豊かにしてくれる存在である。『神子』がいれば、その地の実りは芳醇で、しかも、魔物への被害も少なくなると言われている。

「その『神子』がラナかシアか、あるいは2人共だと?何故そう断言出来るのですか?」

「元々、ラナとシアが産まれる前は別のエルフが『神子』じゃった。しかし、そのエルフは……」

「……10年前に亡くなっているはず……そう言いたいんですね……」

10年前、自分がエルフの里を救えなかったあの日を思い出し、苦い表情になるサヤ。

「まぁ……そういう事じゃ……で、話を変えるが、10年前に『神子』は亡くなったはずなのに、この「テリュカ」は未だに実りは良く、魔物の被害も少ない」

「普通に魔物被害はありますよ。スタンピードだって起きてますし」

「お前さんも「マリステル」の出身だったら分かるじゃろ。明らかにこの「テリュカ」は「マリステル」よりも魔物被害が少なすぎる事に……」

エイーダの言葉にサヤは沈黙する。その沈黙は肯定を表す沈黙だった。

「マリステル」では、頻繁に高ランクの「迷宮」が出現し、高ランクの魔物被害や、スタンピードの多さは尋常ではなかった。それに比べたら確かに「テリュカ」はそれらの被害が極端に少なかった。

「ラナとシアが『神子』であると判断した理由は?アロマさんの可能性だってありますよね」

「アルテミスの奴が認めたのもあるが、1番はグラニフが起こしたあの騒動じゃ」

グラニフがスバルを誑かしてラナとシアを攫った時、「テリュカ」では3つのスタンピードが起きるという大惨事が起きた。そして、その際にラナとシアは「テリュカ」を離れていたが、アロマら「テリュカ」にいた。故に、エイーダは2人がやはり『神子』ではないかと判断したのだ。

「……とりあえず、ラナとシアが『神子』である可能性が高いのは分かりました。しかし、『神子』という力が本当に存在するんですか?もし、存在していたらあのような悲劇は……」

10年前の出来事を再び思い出し、サヤは俯きながら呟くように言った……