そして、なんやかんやあったが合唱祭は開催され、次々と色んなクラスの合唱が披露される中、とうとうラナとシアのクラスが合唱を披露する番がやってきた。

「ほら。サヤさん。ラナちゃんとシアちゃんの出番ですよ」

「わ……分かっています……」

コロナは隣で座っているサヤに声をかけると、サヤは何故か緊張しているのか上擦ったような声で応答する。そんなサヤの反応にコロナは呆れた溜息をつく。

「いや、歌うのはラナちゃんとシアちゃんなんですから、サヤさんが緊張する必要はないですよ……」

「親とはそういうものなんですよ」

コロナのその言葉に、サヤはそれだけ返した。サヤの言葉を受け、コロナはふと自分が合唱祭に出た日を思い出してみたが、アロマはいつも通りだった気がする。ディアスはボロボロ涙を流していたが……けど、アロマも顔に出さないだけでサヤと同じように緊張した面持ちで見守っていたのだろうか?

コロナがそんな事を考えていたら、ついにラナとシアのクラスが壇上に上がる。ラナとシアは位置がセンターというのもあるが、2人は10歳にしてかなりの美少女なのですごく目立っていた。

そして、ラナとシアのクラス担任が指揮棒を振って合唱が始まる。最初はラナとシア2人だけの歌声から始まった。その歌声は、身内贔屓を差し引いても上手いとコロナは素直にそう感じた。そして、2人の歌声から始まった合唱は、クラス全員での合唱に切り替わり、その歌声に思わず聴き入ってしまいそうになるコロナ。

しかし、コロナにはじっくりと歌声を聴く余裕はなかった。実は、サヤに猿轡は止めるように説得した際にある事を頼まれたのだ。それは……

「もし……2人の歌声を聴いて私が歌い出したら……私を殴ってでも止めてください。いいですね?」

と、懇願され仕方なしに了承したのだ。「スタンピードクラッシャー」の異名を持つサヤを、自分が殴った程度で止められるとは思えないが、やらなければ色々崩壊してしまう。コロナはチラリと横を振り向くと……

「うぅ……ラナ……シア……みんなを引っ張っていける程に成長して……」

サヤは滝のような涙を流していて、思わずギョッとするコロナ。常に親バカ親バカとは思っていたが、まさか学校の催し物で、娘達の成長を見て感涙する程とは……流石のコロナも予想外だった。

「って!?サヤさん!流石にちょっと落ち着いて!?って!!?マスク!ビチョビチョじゃないですか!!?これ涙だけじゃなく鼻水も!!?一旦トイレ行って顔を洗ってきましょ!!?」

「嫌です!!!私には母親として2人を見守る義務があるんです!!!絶対にここから動きません!!!!」

サヤは宣言通りラナとシアのクラスの合唱が終わるまで椅子から離れず、コロナではそれを引き剥がす事が出来るはずもなく、コロナは深い溜息をついた。

結局、ラナとシアのクラスの合唱が終わった後、コロナとサヤは急いでトイレに行き、サヤにはしっかりと顔を洗ってもらい、もうビチョビチョになったマスクは捨てる事になった。