第八兵舎。第3会議室。

「主・・・皆様、帰って来ませんね。」

「あ~。」

ミアとビエラがオレンジを食べながら「来ないね」と言っている。

昼前に第3皇子一家の執務室から戻って来たのだが、まだ皆は散策中のようだ。

そして室内はタケオ、ミア、パナ、ビエラと会議室で留守番をしていた初雪が居た。

彩雲は昨日の打ち合わせの通り、朝一でニール殿下領に向かっている。

「こんな日々が理想です。

 ・・・ミア・・・」

武雄は先ほどからミアのオレンジを貰おうと手を伸ばすが阻まれていた。

「・・・主。あげませんよ。」

「あ~・・・」

ミアとビエラが自分の分を腕で囲っている。

「・・・仕方ありませんね。」

と武雄がリュックから数枚の紙を出して机に並べ始める。

「・・・主。これ地図ですよね?」

「あ~?」

「・・・」

ミアとビエラと初雪が眺める。

「?・・・タケオ。色々な形(?)の絵が描いてある。

 でも・・・何だか変。」

初雪が首を傾げながら言ってくる。

「変ではありませんよ。

 これはアズパール王国が(・・・・・・・・)中心に描かれている(・・・・・・・・・)地図になります。

 これはカトランダ帝国が中心。これはウィリプ連合国が中心・・・

 全部が全体像を描かれています。」

「あ~。」

ビエラが「そうそう。こんな感じ」と頷いている。

「主。雰囲気が違いますね。」

「うん。タケオ。中心にくる国によって違う?」

ミアと初雪が聞いてくる。

「地図の意味合いは同じですが、印象が違うのは当然です。

 こうやって他方からの視点を見ることでいろいろな考えが・・・特に国が何を見ているのかを考えるのに一役買います。」

「「ふ~ん。」」

2人が頷く。

「さて・・・」

武雄が3枚を重ねて行く。多少の誤差は出るが綺麗に並べる。

すると武雄が立ち上がりカトランダ帝国側に立つ。

「・・・広いのか。」

そしてウィリプ連合国側に立つ。

「・・・カトランダ帝国が小さい?・・・

 そして・・・深いのか。」

「「?」」

ミアと初雪が武雄の呟きに首を傾げている。

ビエラは我関せずのようだ。

「ニール殿下領からは・・・広く、クリフ殿下は小さい。

 逆にニール殿下には端、クリフ殿下には全面。

 王都は・・・等距離に・・・広い。

 エルヴィス領は・・・遠く。魔王国が深い・・・

 ゴドウィン伯爵領は・・・脅威以外の何物でもないか・・・」

武雄がアズパール王国内の各拠点に顔を乗せて他国を見ている。

が、すぐに席に戻り紙にノートに何か書いていく。

「?・・・主。昼寝して良いですか?」

「ええ。構いませんよ。

 皆さんが帰って来るまでここで考えていますからね。」

「わかりました。

 ビエラと初雪も寝ます?」

「あ。」

「私は平気。」

「なら・・・主。毛布ください。」

「はいはい。」

武雄がリュックから毛布を取り出し2人に与えるとビエラが羽織り机に突っ伏すと毛布の端をミアが体に巻き付けてビエラに寄りかかる。

「じゃ。主。おやすみなさい。」

「あ~。」

「はい。おやすみ。」

ビエラ達はすぐに寝息をたて始めるのだった。

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王城の会議室。

外交局と軍務局と総監局の幹部が打ち合わせをしていた。

「軍務局はドローレス国まで進攻すると試算を?」

総監局長が聞いてくる。

「ええ。あの話を聞いたならばドローレス国の全域とは言わないまでも少しは切り取らなくては向こうの国力低下は望めないでしょう。」

「・・・それは無理でしょう。」

外交局長が軍務局の言い分を否定してくる。

「それは何故でしょう?

 外交局長はキタミザト殿の話を聞いて何とも思わなかったのですか?」

「悲しい事でしょうし、苦難を強いられている方々を少しでも救いたい。

 出来る事なら元凶を叩きたいというのはわかります。」

「なら!」

「ですが、国力の差、ドローレス国までは距離と兵站、ファルケ国の占領政策等々・・・

 外交局としてはファルケ国の7割程度の占領しか出来ないだろうと試算しました。

 前の会議で財政局からも言われたではないですか、人も資金も潤沢にある訳ではないと。

 ・・・確かにちゃんとは言われていませんが・・・はっきり言えばそれ以上の占領は無理だと言われたと認識しています。」

外交局長が言ってくる。

「・・・一国すら占領出来ないのでしたね。

 だが、向こうの国に何かしなくてはいけないと思っていますが・・・」

「それは誰しもが思う事。

 ですが、金も人もない状況で敵国深くまで侵攻し占領政策が失敗したらどうするのです。

 私達はただ闇雲に敵兵を倒しただけの無能者としか映りません。」

「・・・何とかならないのですか?」

「財政局に泣きついて出れば良いですが・・・そんなに都合良く出ないでしょう。

 それに軍務局として『しっかりとした当初の目標を立てる』というのが先の会議の宿題です。

 ・・・『どこまで侵攻するのか』・・・各局(我々)は、しっかりと想定して欲しいと依頼しているのです。

 でないと我々の仕事があやふやになる。どこまで行くのかどこには行かないのか。

 しっかりと線引きを行ってください。

 それによって私達の外交戦略が変わるのです。事前準備が変わるのです。」

「・・・」

外交局長の言葉に軍務局長が難しい顔をさせる。

「はぁ。軍務局の言い分はわかりますが・・・

 しっかりと現実を見て想定を出してきてください。

 約100年ぶりに国家間の正面衝突になるのです。

 本格的な防衛戦と侵攻戦をする・・・甘えなど許されません。

 さらに侵攻時は略奪・殺戮は厳禁です・・・女性を戦利品として扱う事はしません。

 国民を徴用していない理由の1つに兵の意識の低下があります。

 軍務局長。貴族領の兵であろうと王都の兵であろうと破る者は許しません。

 厳命し教育しておいてください。」

「はい。その辺の規律は当たり前です。

 ・・・侵攻想定は再考いたします。」

軍務局長が頭を下げるのだった。