部屋から出てあるくことしばし。私は急に立ち止まった。

「兄様」

「何」

「院長に書類渡すの忘れた」

「……………………あ」

院長のインパクトがありすぎて、すっかり忘れてました。兄もいきなり攻撃魔法ぶっぱなすとは思わなかったらしく、忘れていたようです。

「どうしよう」

けっこう歩いたし、私を案内すると事前に話を通してある兄はともかく、私は初日から遅刻したくない。

「おや可愛らしいお嬢さん、何かお困りかい?」

「奥方様!」

「サフィア様、お久しぶりです」

男装の麗人こと賢者の奥方様が現れました。事情を話すと、奥方様は私を案内するから兄に書類を届けるようにと話しました。

「いや、サフィア様の手をわずらわせるわけには…」

「かまわんさ、私とロザリンドちゃんの仲だ。ついでにロッカールームや風呂場なんかの異性では案内しづらい部分も教えておくよ。幸い今日はこれから休みで時間もある。君は君の仕事に戻りなさい」

「…では、愚妹をよろしくお願いいたします」

「任された。では行きましょうか、お姫様」

まるで騎士みたいな…いや魔法騎士なんだけど…洗練された動作で私をエスコートする奥方様。

「まあ、ロザリンドちゃんは大体知っていると思うが大まかに説明しておこうか」

「お願いいたします」

魔法院は大きく2つに分けることができる。1つは開発・研究者が所属する知。兄・私はこちらの所属となる。もう1つは魔法騎士や治癒術師が所属する武。奥方様とミルフィはこちらの所属だ。

知は更に魔具研究の第1、魔法植物研究の第2、魔法真理・開発の第3に別れる。

武は回復魔法の緑、支援魔法の青、攻撃魔法の赤、最近新設された魔法騎士の紫がある。

ややこしいが、パッと見てわからないようにしてあるそうだ。

「基本的に職員は制服は使わないな。汚すから。逆に研修生や新人職員が着ていることが多い」

奥方様に制服を渡された。研修生は白。さらに腕章を渡された。

「制服は着なくても大丈夫だが、腕章は着用が義務づけられている。その腕章には魔法無効化(マジックキャンセラー)の効果があるから、罠にかからない」

「え」

つまり、兄は要らないのに魔具を受け取ってくれたのか…よく考えてみれば、冒険者をたまにしてる兄と違い、ミルフィや普通の人も居るんだから、救済措置がないとやっていけないよね。

「身分証がわりにもなるから、なくさないように」

「はい」

ん?なんか人気がない方に進んでませんか?奥方様?

「…ロザリンドちゃん、結界を」

「はい」

ないしょ話ですね?すぐに結界を展開する。

「…ここだけの話だが、この数年…上手く言えないが知の連中がおかしいんだ。いや、元より頭はイカれてるんだが…すまない、説明が下手くそで。無理はしないでくれよ?君は私の大切な友人なのだから」

「はい」

わざわざ忠告してくれたらしい。奥方様は親友…いや、心友ですよ!

異変はどうやら知にあるようですね。心のなかにメモしとこう。

ようやく第1開発室に到着です。奥方様が開発室の人に話しかけた。ひょろっとした眼鏡の人が良さそうなおじさんが奥方様と話していた。

「では友よ、幸運を」

カッコいい心友(奥方様)に見守られ、ロザリンド=ローゼンベルクは魔法院生活をスタートしたのでした。