Alice Tale in Phantasmagoria

Think about money

晩御飯はシチューを作った。

ルーが見当たらなかったので、ルーを使わないシチュー。

バターを引いて、食材を炒める。

味付けは塩、コショウでした。

火が通ったら、そこに小麦粉を加え、更にコンソメスープでとろみを出す。

最後に牛乳を加えて煮込みます。

いや、リンナル同様名称は同じではないかもしれないが、味が一緒なら食材に問題はない。

何も問題ない。

基本的に家事に抜かりはない。

面倒だと思わないし、きちんとすれば、気分良く毎日過ごせる。

「おいし! 何これ? 食べたこと無いけど、おいし! アリス、あんた料理上手なんだ?」

「まぁ、苦手ではないです」

シオンさんに絶賛された。

「ほんとにアリスちゃんは、女の子っぽいわねぇ」

「そ、そうですか? 男の人だってすると思いますよ?」

目の前にいますよ?

「いつでもお嫁に行けるわねぇ」

おばさんは遠い目をした。

いやいや、送り出そうとするなよ?

売り込むなよ?

「……嫁、だぁ?」

おっさんがぶるぶる震えていたが、華麗に無視した。

俺だけじゃないですよ?

皆スルーしてるんですもん。

「ところでお姉ちゃん、ちょっと聞きたいことが」

「ん、どした?」

お代わり、と皿を渡されたので、満杯によそってシオンさんに渡す。

食べられるかなー?

「奴隷って、買えるんですか?」

「あぁ~、昼のね。そういえば噂になってるよ。見たんだ、アリス?」

「ちょうど街道にいましたから」

他人事と思えないしなぁ。

最初の段階で、仮におっさんが悪人だったとしたら、奴隷とかに売られてたんじゃないだろうか?

俺もあんな、子牛のような目で荷馬車に揺られていたかもしれない。

そして、俺みたいな奴隷の末路って何だろう?

あ~。

まぁ、考えなくても分かるわ。

「ふ~ん? ま、買えるよ。金を払えば、誰だってね」

お金か。

昼のお使いのお釣りをお小遣いとして貰ったんだが、これじゃなぁ。

「ん~~、いくらくらいするんですか?」

「そりゃ、奴隷によって違うけど……そうだねぇ」

そこでシオンさんは舐めるように俺を見て、邪悪な顔をした。

「例えばアリスだったら……金貨50枚、50万ルークって所かな?」

「……顔が邪悪です、おねえちゃん」

しかしちょっと待てよ?

それってどのくらいの金額だ?

今日の晩御飯で使った額は20ルークと言った所だ。

いや、それを考えると大分俺の小遣いが多いんだけども、ありがとう、おばさん。

で、お昼も20ルークくらい、朝は……まぁ、ここは単純に20ルークとしよう。

そうすると家族4人で1日に生きていく為の食費が60ルーク。

水は地下水。

光は魔鉱石、これは蛍光灯みたいな消耗品だが自力発光しているから、電気代のようなものが掛る訳ではない。

火は薪と、火鉱石。

火鉱石とは魔鉱石みたいなものだが、熱を発する石で、台所に使われる。

お風呂を沸かしたりするのは薪だ。

おっさんが割ってます。

「え~~っと?」

考え込んでいる俺を見て、シオンさんがにまにま笑っている。

その顔、似合うなぁお姉ちゃん。

消耗品は毎日取り換えるものでもないから、一日でそこまで食費以外の出費があることはない、か?

もちろん税金なんかはあるだろうが、今は良いだろう。

とすると、大目に見積もっても1日80ルークで計算すれば、消耗品も平均が取れるだろうか?

「1年って、何日ありましたっけ?」

「365日に決まってる」

「世界は丸かった?」

何言ってんだこいつって目か、そうですか。

火あぶりはよして下さい。

「とすると」

80ルーク×365日で、29,200ルークで1年生活出来るということになる。

ざっと金貨3枚か。

「……」

金貨3枚で、1年4人家族が生活出来る。

で?

「私が……いくらでしたっけ?」

「50万ルーク」

楽しそうですね、お姉ちゃん。

「……4人家族で、約17年間分?」

え、何そのおっそろしい金額?

いやいや、でもこれは本当に生活費だけであって、冒険者は装備にお金がかかるし、他の職業だって細々と必要なものはある訳で。

人間には嗜好品が必要な訳で。

誰もかれもが悟りを開いてる訳ではありませんし……

「……私、売られませんよね?」

「え~~、どうかなぁ? あんまり馬鹿だと、分っかんないなぁ~」

ダメだ、お姉ちゃんはSモードに入っている。

おばさんを見た。

にっこにこしてた。

読めない。

これが大人か。

最後の手段、おっさんを見た。

「っ!」

びくっとしてた。

目が泳いでた。

大人って、汚い。

「お金って、怖い……」

守りたい、純粋な心。

でもそうか、あの子を買うには50万ルークくらい必要なのか。

……すっごい美人だったしなぁ。

次の日、俺はシオンさんと遺跡に来ていた。

どうやらシオンさんは、俺がこの遺跡をクリアするまでは自分の冒険を置いて付き合ってくれるらしい。

「アリス、あんた思った以上に強いかもね? 虚弱だけど」

「一言多いですし……」

入口から入り、クマを数度退けて、俺たちは出口ではなく遺跡の中心部に向かって足を進めていた。

サンダー:詠唱10秒 クールタイム10秒 (熟練度8)

後ろに付いて行きながら、手持ちの魔法をチェックする。

熟練度8では、まだ何も変化が無いように思う。

威力が変わっていたとしても、元々クマは一撃だから、正直良く分からん。

「それで、この遺跡には何があるんです?」

「ここは中央の部屋に、祝福の泉があるんだよ」

「祝福の泉?」

「ああ、LV10の見習いがそれを飲んで祝福を受けると、クラスアップ出来る。晴れて冒険者の第一歩って所さ」

クラスアップの為の場所だったのか。

いや、俺もいつになったらこの見習いが取れるんだろうとは思ってたんだが。

「へ~~。こういうのって、世界中にあるんですか?」

「まぁね。ここでしかクラスアップ出来ないなんて事になったら、大変なことになるよ」

そりゃそうだ。

「大体はこういう遺跡の近くに街を立てることが多いからね。見習いにはちょうど良い試練って所かな」

絶対絶命に陥りましたがねぇ。

「それは冒険者の為に、そうなってるんですか?」

「いや、さすがにそれはない。祝福の泉がある遺跡の周りは地下水が豊富でね。人が暮らしていくのに、ちょうど良いんだよ」

なるほど、それで。

「でも、あの庭の地下水は、祝福の泉とは関係ないんですか?」

あれ飲んでも、ダメ?

「はは、そりゃそうだ。遺跡の中の、中心の部屋。やたら魔鉱石が輝いてるんだけど、そこでしか祝福は受けられない」

「ズルは出来ないってことですか」

「だね」

マンイーターLV11

雑談している内に、新しい敵と遭遇した。

恐ろしい名前だが、あれは緑色のグミ。

っていうか、そうか、スライムか。

ついにスライムが出たか。

「こいつは物理攻撃が効き難いんだ、あんたの出番だよ」

言いながらシオンさんが剣を抜いて前に出る。

スライムの攻撃は、自分の身体を変化させて鞭のような腕を振るって来るといったものだった。

単純な体当たりじゃないんだ?

こわ。

シオンさんはそれを相変わらず軽やかな身のこなしで避けていく。

何という安心感。

しかし、当たれば終わり、なのでは?

今は良い。

いずれは躱せない敵も出てくるのでは?

体力1 守り1 のシオンさんは、その時、どうなる?

(食らう前に、私が倒す!)

そう決意した。

初めての敵なので、もちろん詠唱付きの、全力だ。

「天を裂く一筋の光となって、我が敵を撃て――サンダー!」

スライムに雷光が直撃。

ちなみに、パーティメンバーに俺の攻撃魔法は当たりません。

と、シオンさんにご教授頂いたので、特に味方の動きを気にする必要はない。

助かる。

「うわぁ……」

そしてスライムは俺の一撃で、ぐちょっ!

っと四散した。

グロイ……

ドロップアイテムは無し。

「ふぅ、で、もうすぐ遺跡の守護者の部屋なんだけど、あんた今LVいくつ?」

守護者って、それ明らかにボス戦じゃないですか?

まぁ、シオンさんがいれば大丈夫だろうが。

「あ? LV9ですね」

「ちょうど良い、守護者で10に上がるでしょ。行くよ、アリス」

「お姉ちゃん、楽しそう……」

やっぱり冒険者は、冒険が大好きなんですねぇ。

いやいや、俺もだけど。

急いでシオンさんの後を追って、中央の部屋に向かった。