「ああ、そうだな」
「ふふ……楽しみね! 人間の冒険者」
「大丈夫か? ヴァンパイアハンターって主に冒険者ギルドがやってたはずだけど……」
「今も多いのかしら?」
「いや、最近はそもそもヴァンパイアがいないし、国としてヴァンパイアを見たら殺せというものでもなくなったから、今はいないけど」
「なら良いじゃない。ま、いたとしても──」
スッと立ち止まるミルム。
その目が金に輝いた。
「私に勝てるかしら?」
「……無理だろうな」
少なくとも俺が知るSランクパーティーの面々はまず、勝てない。
あの【剣聖】ならどうだろうか?
どちらも本気を見ていないからわからないが、少なくとも逃げられはするだろうしな。
「そういえばヴァンパイアってやたら弱点が多かった記憶があるけど、普通に日中でも出歩けるんだな?」
「だから私をその辺のと一緒にしないで欲しいと言ったのよ。日光も水も銀も十字架も効かないわよ」
「木の杭を胸に刺されるとってやつは?」
「それについては逆に木の杭を打たれて死なないためのスキルが必要な話でしょう? 貴方も死ぬわよ」
「それもそうか」
あれ? そう考えると……。
「無敵だな」
「ふふん。そうよ? 私に敵うものはいないわ」
「あれ? でもそうなると俺、眷属にされてたら昼間動けなくなってたのか?」
「あ……」
冷や汗を流して顔を背けるミルム。
「ま、まあ、その可能性もあったかもしれないわね? 良かったわね。してなくて」
「本当にな……」
流石にそれは不便だった。
「ただ、場合によってはその辺りもなんとかする方法はあるわ」
「そうなのか」
「ええ。ま、必要になったら話しましょ」
そういうとパタパタ羽根を動かして飛んで移動するミルム。
いいな。あれ。
いや待てよ?
「【黒の翼】」
おお……!
「え? まさか……」
「ああ。吸収してたみたいだ」
背中に翼が生えていた。
ミルムと同じようなコウモリやガーゴイルを連想させる割と大きな翼だった。
「飛べるんじゃない?」
「やってみるか……」
翼に力を入れようと意識してみる。
「おお?」
意外なほどあっさり飛ぶことに成功した。
「その翼は闇魔法で飛ぶためのものだから、使えさえすれば飛ぶのは簡単なのよね」
「そうなんだな」
「気をつけないといけないのは魔力切れね。空中で解けたら人間は死ぬわよ」
「そうだな……」
慎重に使うことにしよう。
少なくとも移動のために使えるほど魔力効率が良いようには感じなかった。戦闘時やちょっとした移動に便利というくらいだろうか?
「そう考えると、移動手段があるといいわよね」
「ああ……」
「まあこの子に乗れば多少は早くなるでしょうけど、少し小さいわよね」
フェンリルになったレイを撫でていう。
特に見た目は大きく変わってないからな。ただちょっとなんというか、神々しくなった気はするけど。
「まあ、そのうち馬車でも買うか」
「影移動を覚えれば早いかもしれないわね」
「影移動……か」
パッと思い浮かべるがあの声は響かなかった。
すぐには難しいんだろう。
「ま、いまはゆっくり行けばいいわ。色々と人間の話を聞かせて頂戴」
「はいよ」
そんなこんなで、割と賑やかな雰囲気のまま、帰り道を二人と二匹の仲間と歩いて行った。