「本当に助かりました……なんとお礼を申し上げて良いか……」

 アレイドの地についてそのままの足でマロンにミッドガルド商会本店まで招待されていた。

 ミッドガルド商会の本店は一階が大規模な店舗スペースになっており、建物の上が応接室を含むいわゆるVIPルームとなっているようだ。

「いや、たまたま通っただけだから」

「そのたまたまのおかげで命を救われたのですから……いやはや私の運も捨てたものではない。ですがそれも、お二方の規格外の強さがあってのものでしたからな」

 マロンにおだてられてそわそわする。

 そもそも今座ってる椅子も、目の前の机も、周囲のものすべてが場違いに思えるほどの高級品に囲まれた部屋だ。落ち着けと言う方が無理な話である。

 ひたすらそわそわする俺を落ち着かせるように、マロンがどんどん話しかけてきてくれるのが救いではあった。

「ところで、今回はどのようなご用件であのような場所へ?」

「ああ。装備を整えたくてな」

「おお! それはそれは! ランド様は長らくテイマーとしてご活躍でしたが……道中で見た使い魔を見るに、相当レベルがあがっていらっしゃるご様子。それなら我々もお手伝いできることがあるかと!」

 マロンがパッと表情を明るくする。

 そのまま言葉を続けた。

「ランド様には以前からお世話になっておりました。今回の件、装備一式くらいはぜひうちのものをお出しさせていただければと思っております」

 装備一式って結構な額だよな……? と思って驚いているとマロンが笑いながら答えてくれる。

「お二方はいまや飛ぶ鳥を落とす勢いといっても過言ではないご活躍。我が商会の商品を使っていただくだけで十分すぎるほど私にメリットがありますので」

 大商人であるマロンは無意味にそんなことをする人間ではないということか。

 ただ……。

「ずいぶん正直に明かすんだな」

「ええ。商売は信頼が大切ですからね」

 ニコニコと悪意なくそう言うマロン。

 まあ腹のさぐりあいで勝てる相手じゃない。もらえるものはもらえばいいだろう。

 でもそうするとあのお金を使う当てがなくなるか……?

「十分かはわからないけど、金はあるんだ。できるだけいいものを揃えたいとは思っている」

 流石にタダで渡すと言っている相手に最高級のものを寄越せとはいいにくい。

 それでもミッドガルド商会を代表するようなある程度のものは来ると思うが、どうせならミルムにもなにか一つくらい、今より良いものが用意できればありがたい。

 もしマロンがそういったものを用意できるというのなら、ここであの金を使うのも悪くないはずだ。

 【宵闇の棺】から革袋を取り出す。

「おお……さすがはSランク冒険者。これほどの量の金貨、私でもお目にかかる機会は早々……」

「それがどうも、何枚か虹貨らしい」

「虹貨!?」

 マロンですら驚くのか。

 すごいな虹貨。いやこの場合これだけの予算を出してきた辺境伯とそれだけの脅威だったあのドラゴンゾンビがすごいということになるか?

「なるほど……そういうことでしたら……」

 マロンはなにかぶつぶつと呟きながら計算を始める。

 俺は黙ってその様子を見守った。

 ミルムはいつもどおり出されたお菓子をもきゅもきゅ頬張るのに忙しそうだった。