Another Arcadia Online

Misaki's Nostalgia

ある日、コンビニに行った。

飲み物を買おうかと思ってやってきたのだが、後悔した。

「あっれぇ? 懐かしい顔がいるぞぅ?」

と、入ってきた男性がいる。

茶髪で身長が高い活発系イケメンの人。私は、その人が嫌いだ。

「原田、くん」

「おお? 見ねえ間にブスに磨きがかかってんなー。嫁の貰い手いねえだろ。彼氏いねえなら俺可哀想だからなってやるよ」

原田、と呼ばれる男は、私を苛めていた張本人でもあった。

顔を見た瞬間に、過去の痛い思い出がよみがえってくる。……辛い。いやだ。逃げたい。逃げよう。私は、もういじめられたくない。

「なんつってな……ってなんで逃げんだよ。思い出話でもしようぜえ?」

と、服を引っ張られた。

逃げたい。いやだ。

「ごめんなさい」

私は、振りほどいて、全速力で走っていく。

できるだけ遠くに行きたい。珠洲に助けてほしい。私の想いがごっちゃ混ぜになりながら必死に遠くまで走っていく。

息を切らし、止まるころにはもう誰もいなかった。

……左手首が、痛い。

家に帰り、部屋に戻る。

ギアをかぶり、A2Oにログインした。

「よーっす。ミキー」

「う、うん」

エルルゥとあいさつを交わす。

……ゲームにログインしても、左手首がいたい。なんだろう、この痛み。幻肢痛ってやつだろうか。昔の古傷が、開いたんだろうか。

…………。気分が優れないや。

「ごめん。エルルゥ。ちょっと気分悪いから落ちるね」

「え? あ、うん。お大事に?」

笑顔で手を振りながらログアウトする。

今日は、なんだか気分が乗らない。疲れているからだろうか。それとも過去の嫌な記憶の性だろうか。きっと、どっちもだろう。

忘れたい記憶というものは、何かがトリガーになるものだ。

原田と再会したことが私の嫌な記憶をよみがえらせる引き金になったんだろうな。

「……この傷が、痛いの、か」

私は、左腕を抑えながら、眠りについたのだった。

私のこの傷は自殺しようとした証。

辛かった。人間不信になった。珠洲以外信じられる人がいなかった。学校にも行きたくなく、親に行きたくないっていうと頑張れって言われた。

私は、頑張っていたのに、頑張れって、何だろうと思った。

頑張っていたんだよ。でも、頑張れって。

そのことが引き金となったかな。カッターナイフで左手首を切った。

死ねなかったよ。知識もなかったしこれで死ねると思っていた。

親は泣いていた。そこまで追い込んじゃったのかって。

お母さんは、しばらくの間なにもできなくなった。お父さんも、仕事が手につかなくなった。私のせいだと自分を責めた。

なんで、こうなったんだろうって。小学校の頃思った。

中学に入ってもいじめは続いた。

大人になるにつれいじめの内容がエスカレートしていく。最初は物を隠すことや暴言だったりした。が、次第に殴られたりもし始め、挙句には閉じ込められたこともあった。

そして、もう一度、死のうと決意した。

橋から川に飛び降りて死のうとした。

水死というのは楽に死ねないと聞く。苦しく死んでいくっていうことは知っていた。だけれど、死ねるのなら、それでいい。

そう思い、飛び込んだ。

だが、失敗に終わった。

また、親が泣いた。美鈴も泣いた。

担任や珠洲もお見舞いに来たが、担任だけは突っぱねた。担任もクズ。いじめがあることは知っていたくせに止めることもしなかったから。

お母さんは教育委員会に訴え、担任は転勤、いじめっ子たちも転校させられた。いじめっ子の母親たちが謝りにも来てくれたし、慰謝料ももらった。けれども、私の傷は癒えることがなかった。

すべてあの原田達いじめっ子から、私の人生は狂ったと思う。

忘れたいよ。あの記憶は。