Another Arcadia Online
One of the bullies.
――うっわ、ぶっさ!
――近づかないで、不細工が移る
遠い、記憶が蘇る。
また、過去の記憶。不意に、こういう夢を見るのは嫌だ。この夢を見ると決まっていいことがない。私は夢から目覚めた。
朝の七時。いい時間だ。
「悪い夢だった」
そういって私は学校へ行く支度をする。
教科書をカバンの中に突っ込んで朝食を食べないで学校に向かった。珠洲はどうせ寝坊するだろうし……と思っていると、私の目の前を女子高生が通り過ぎた。
その女子高生は立ち止まる。そして、私に声をかけてきた。
「あっれー、もしかして広瀬ちゃんじゃね?」
その少女は、私を苛めてきた一人だった――
逃げたい。そんな気持ちが私の中にあった。
この場から逃げたい。目の前の少女は私を見ている。そして、少女――名前は霧崎(きりさき) 朱音(あかね)という少女は、頭を下げてきた。
……ん?
「ごめん。今まで。その、自殺未遂とかあって、私は考えたんだよね……。そこまで追い込んでたのかって。ふざけてただけなのにとか思ってたこともあった。けど、改めて考えると……最低なことをしてたなって。だから、謝りたい」
「…………」
意外だった。原田……とかは謝りもしなかったのに、霧崎さんは謝ってくれた。それが意外だった。霧崎さんは女子グループのトップで、女子で率先して私を苛めていた張本人。彼女もまた、私を苛めていた。そんな子が素直に謝る……。どうにも胡散臭い。
「……許してもらえるとは思わない。けど、謝りたかった。それだけ。ごめんね。引き留めて」
と、霧崎さんは苦笑いを浮かべた。
許せるか許せないか……といえば許せないだろう。けど、謝ってきてくれたということもあって怒る気にはなれなかった。
もう過去のこと、そう思っているから……。
「……正直、許せないけどいいよ。許すよ」
「……ありがとう。お詫びはするよ。私はバイトしてきてお金も貯めたんだ。慰謝料として受け取ってほしい。もっとも、足りないと思うけど」
「い、いや、そこまでは……」
「これはあたしなりのけじめなんだ! 受け取ってくれ!」
いやいや。受け取れないよ。
通帳を手渡してきて、それを受け取って金額を見てみたら百万はあっただろうか。ものすごい貯めたな……。と感心しつつ、これはさすがに受け取れない。
いや、そこまでしてもらう必要ないし。
私は無理やり霧崎さんのカバンの中にいれた。
「お金で解決できるものとできないことがあるからね」
「……ごめん」
霧崎さんはしゅんとした。
「……まぁ、いじめられた私にも悪いところあったかもしれないしお互い様ということで」
「広瀬ちゃんは悪くない。悪かったのは私たちのほうだよ!」
「いや、よく世間でも苛める方も悪いけれど苛められる方にも原因があるって。私の顔とか気に食わなかったのなら本当ごめんね」
「……不細工っていったこと、根に持ってる?」
「……少しは」
「ごめん……。で、でもあの時不細工っていったのは嘘で……」
「……嘘、ねぇ」
私自身はもう不細工ということを受け入れている。
私は可愛いと思っていても周りの評価は私の評価と違う。周りが不細工だと思えば不細工だ。だから、もう不細工ということは受け入れてるし撤回してもらう必要もない。
「嘘とかもうどうでもいいよ。不細工なのは事実だし勝手に傷ついた私が悪いよ」
「……いや、本当に可愛いよ。少なくとも、私はそう思ってた。嫉妬して……不細工って心にもないこと言ったんだよ」
「いやいや。不細工っていってたのは霧崎さんだけじゃないし。周りが不細工って思ってるんだから私は不細工だよ」
「……本当に、ごめん」
「謝らなくていいよ」
謝られると逆に困る。
「…………」
「っていうか、学校はいいの? 私そろそろ行かないと遅刻というか、もう遅刻してるんだけど……」
「ご、ごめん! 引きとめちゃって! その、私のせいにしていいから。私を嫌ってもいいから。ごめん。あの時は、本当に……。本当に悪いことしたなって……。自分でも子供だなって……。本当に、昔の自分を殴りたい気分だよ」
と言っていた。
うん、まだ後ろめたいのだろう。なら、それを解消させてあげようかな。ちょっとこのままだと気分も悪いし。
私は、霧崎さんに近寄る。
「歯、食いしばって」
そういって、私は霧崎さんを思い切りビンタした。
昔なら、これでキレられていただろう。そして、またいじめられる。が、今ビンタして、霧崎さんは頬をさするだけだった。
「これでいいでしょ。私も暴力振るったからお相子、ね?」
「広瀬ちゃん……。いい人すぎない……?」
「まぁ、そこまで鬼畜じゃないからさ。じゃ、私は行くよ」
「ま、待って! れ、連絡先だけ交換しよ……?」
と言われたので私は連絡先を交換した。