Another Arcadia Online
Moon and Night is Cold and Mocking Him
イナリの背にまたがり、野原をかける。
すると、門の前には月下狐が一人。プレイヤーと戦っていた。その月下狐は本気モードになっている。うわぁ、やっぱかっこいい、あれ。
「おお、やっとる。今日は群れの大移動の日やったもんな。災難なことに人間に襲われたか」
「手助けは?」
「しないでええやろ。死んだらそれまでのもんや。うち月下狐が勝つほうに賭ける。ミキはどないする?」
「プレイヤーしかないじゃん」
「よっしゃ。うちが勝ったら油揚げ十枚な」
油揚げ好きなんですね。
遠くから観戦していると、プレイヤーの一人がポリゴンと化して消えていく。剣で斬りつけて体力を削ってはいるけれどものすごく苦戦しているようだった。
そして、結果は狐の勝ち。
「よっしゃ! うちの勝ちやで!」
「ずっるいなぁ。じゃんけんでどっちにが最初に賭けるか決めたほうが公平だったのに」
「こういうのは普通、言い出しっぺが負けるもんやで?」
いや、そうなんだけど。
まぁ、油揚げぐらいどうってことないしね。でも油揚げってどこに売ってるんだろう。
「あれ、ミキ?」
と、後ろから声をかけられた。
そこにいたのはロトとチリンだった。チリンは勉強終わりかな。ゲーム休憩だろう。たしかにログイン時間減ってるし勉強もちゃんとしてるのかな。たまに私の病室に来て宿題してるけど。
「その隣のは……今回の討伐対象モンスター?」
「うん。名前はイナリ」
「うちはイナリ。テイムされたんや」
「「……」」
二人は黙ってしまった。
何がいけないんだよ。
「テイムできるんだ」
「確率が低いだけか? それとも条件が……」
え、なかなかテイムしにくいのか?
むしろ仲間になるって自分から言った。もしかしてアクアの存在の有無なのかな。それで仲間になるかどうか決まるとか? いや、それはなさそうだけど。補正ならありそうだけどそれだけで仲間になるのかな?
「チィも頑張ってテイムしようとしてるところをミキは……」
「チィちゃん羨ましがるだろうな……。俺もちょっと羨ましいんだけど?」
単に確率が低いだけかな。
「なんや。うちの仲間を仲間にしたいんか?」
「え、あ、うん。そうだけど」
「そっか。ならうちが口聞いたるわ」
「いいの!?」
「ええで。ここで無視したらミキ恨まれそうやからな。ただ、うちが説得しても無理なら諦めるんやで」
優しい。
イナリはそういって今頑張って戦っている月下狐たちへと向かっていく。チィが誰かわかってるんだろうか。と、見ていると必死に攻撃を避けているチィの姿。月下狐は続けて攻撃をしている。
すると、イナリが割り込んだ。そして、何かを話している。
この距離じゃきくこともできない。と、その戦っていた月下狐はチィに近づいて、顔でチィの顔に触れた。あ、テイムできたんだ。チィは嬉しそうに撫でている。
と、イナリがやり切った顔で戻ってきた。
「ふぅ。いい仕事したわ」
「お疲れ」
チィも嬉しそうにしていた。すると、こっちに気づいたのかおーいと手を振ってくる。
私たちはチィの元に駆け寄っていった。