Another Life

Death Room

俺達は次の階層を目指して、螺旋階段状の通路を進んでいた。

この階層は比較的楽だ、真ん中は大きな空洞で下が見えないがモンスターの接近が比較的早くから解るし、弓矢や魔法で近付く前に遠くから攻撃出来て、俺達に近付けるのはごく少数であったからだ。

そして通路の横には数々の部屋が連なり、何も無い部屋や宝箱のある部屋が在ったのだが、少ないながらもトラップの部屋も在った。

トラップと言っても宝箱がモンスターになっているトラップだったが、それはラナの盗掘者のスキルで全て回避する事が出来た、盗掘者のスキルはどうも宝箱や、何かの中身のトラップ等を見極めるスキルであった様であった。

「ラナのお姉ちゃん、このままなら楽勝だね」

金貨を回収しながら、クレアが言った。

「でも何だか張り合いが無いんだよなぁ」

確かに、ラナの言いたいことは解る、今までの階層はこんなにも簡単な階層じゃ無かった、通常はゲームでも何でも先に進むにつれて、難しくなるものだが1階2階と来て3階であの石のトラップだけとは考えにくい……わざと油断させているのか?

「そう言えば、クレアは運搬屋になってこのダンジョンで何回目ですか?」

「私はこのダンジョンが初めてだよ、今まで誰も私の事を相手にしてくれなくてさぁ、やっと雇ってくれたのがあんな奴等で本当に最悪でしたよ。

でもこうやってお兄ちゃんのパーティに雇ってもらえたのは、ラッキーだったけどね」

マジかよ……ステータス確認しなきゃ!

名前:クレア 種族:人狼《ワーウルフ》 レベル3

職業:運搬屋《ポーター》 村人

レベル3だと!マジかよ、今までよく生きてこれたな。待てよ、って事は初陣は今回になるのか?それとも戦わないと初陣にはならないのか?これは職業が勇者の実験台になるんじゃないか?よし、誘ってみるか。

「アイリス、訳してくれ。

クレア、俺達は傭兵業もやっているのだが、良かったら俺達の専属の運搬屋にならないか?」

「旦那様!」

「良いんだ、訳してくれ」

「……解りました……」

「え?……どうしようかな?でもこのままフリーでやっていても、また変な奴に雇われるのも嫌だし……うん、良いよ。これからもよろしくね、お兄ちゃん」

お兄ちゃんは破壊力有るから、止めてくれ……でもお兄ちゃんか……良い響きだな。

そんな時だった、ラナが部屋の前で立ち止まり少し悩んでいた。

「どうしたラナ、何か有ったのか?」

「旦那様、この部屋何か変なんだよね」

「変とは?」

「あそこに見える宝箱の中に有るのは、多分だけどオリハルコンなんだよ……でもさ最近出来たダンジョンにオリハルコンって変じゃない?オリハルコンってのは中々手に入らない素材で、ダンジョンでも80階層からしか出ないって言われてるんだ」

「偽物とか?」

「それは無いよ、宝箱のオリハルコンは本物ってスキルで出た、でもこれって……」

「そうだな、トラップの可能性が在るな。クロエ!ここから考えられるダンジョンでのトラップの可能性は何がある?」

「はっ!このダンジョンは通常では考えられないトラップが有りますが、このパターンはもしかするとデスルームかと思われます」

「で、そのデスルームとは?」

「はい、中の宝箱のオリハルコンを取ると発動して、入り口が塞がり部屋の中から新しい通路が出て来て、そこから夥しいモンスターが出て参ります。

しかしそれに打ち勝てば宝箱の中身は手に入り、更にショートカットが出来ると言われております」

このままチマチマと進むより良いか。

「セシル、セシリー!魔力はどうか?」

「……さっき魔丸を飲んで満タンです」

「私は今から飲みます」

「蘭、どうだ行けるか?」

「はい、いざという時の魔丸も十分に有ります」

「頼むぞ、クレアの事も頼む。クロエ!行けそうか?」

「はい、矢の残りが少ないので短期決戦は望む所です!」

「アイリスとラナは……聞くまでも無いな」

「旦那様、解ってるじゃん。チマチマと進むより早く行こうよ!」

「旦那様の行く所には何処にでもついて行きます」

「では各自慎重にな」

そう言って俺達は、警戒しながら部屋の中に入って行ったのであった。

部屋の中に入ると、中には何も無い部屋でただ真ん中に宝箱が置かれていたのであった。

落とし穴等のトラップが無いか警戒しながらラナが進み、宝箱をゆっくりと開けるとそこにはオリハルコンの原石が置かれていたのであった。

「クレア、準備は良い?取ったらすぐに渡すよ」

「はい、準備は出来ています!」

その言葉を聞いて、その場全員に緊張が走った。

ラナがゆっくりとオリハルコンを持ち上げると、ゴゴゴと言った音と共に何かが作動する音が鳴り響いていく、すぐにラナがクレアにオリハルコンを渡した時であった、部屋の入り口が轟音を立てて塞がりそれと同時に今まで壁であった複数の場所に通路が出来たのであった。

こんなにも通路が出来るなんて、何処に行けばショートカットになるんだよ!しかしモンスターが来ない……いや来る。

そう、各通路の奥からはスケルトンであろう鎧の音とゾンビの呻き声がしてきたのであった。

「みんな、入り口の壁を背に陣形を取れ!最後尾は蘭とクレア、その前にセシルとセシリー!クロエとアイリスとラナはみんなを守れ!」

「お舘様は?」

「俺か?俺は思う存分暴れさせてもらう!」

そう言って俺は出てきたモンスターの群れに斬り込んで行った、俺の武器は朱槍がメインだ、このリーチの長い朱槍だと乱戦で味方が近くにいると使いにくい。

この様な状態であったら、ただ朱槍を振り回すだけでも相手にかなりのダメージを与えることが出来る、それを見越してか俺に斬られて倒れたゾンビやスケルトンの弱点の場所に、ピンポイントでセシルとセシリーが攻撃をしてとどめを入れる、この流れが定着していき、俺達は出てきたモンスター達をおおかた倒していった時であった、クロエが叫んだ。

「お舘様、弓兵です!危ない!」

そう叫んだ先には、スケルトンの弓兵がに照準を付けていた。

ダメだ、皆からは他のモンスターが邪魔で攻撃できない、俺はそう思った瞬間に朱槍をスケルトン目掛けてぶん投げた。

すると、必中のスキルのおかげか、見事に朱槍は胸の核を貫き放たれた矢は天井に刺さったのであった。

一瞬安堵したのもつかの間、次は俺に向かって近くのスケルトンが、剣を降り下ろすが俺は腰の村正を抜いてその剣を防いだのであった。

コイツら、筋肉が無いのに力は強い!押されていたスケルトンの剣からはヌメヌメした物が着いている。

コレが毒の正体か?俺はそのまま村正の刃先に籠手を当てて押し返した、その時であった。

突然、村正の刃が炎に包まれるとスケルトンが炎に包まれて崩れ落ちたのであった。

そうかコレが村正のスキルの魔法附属攻撃か!籠手に当てた事により、甲冑の火炎魔法も発動されたんだ、なるほどこうやって使うのか。

触れた物は全て燃やす紅蓮の刀……良いぞ、俺の中の中二病が目覚めてくる!さあ、どんな奴でもかかってこい!全て燃やしてくれるわ。

そう思っていると通路の奥からドスン、ドスンっと言った音が聴こえてきた。

これ……まずい音じゃね?そう思った時であった、クロエが叫んだ。

「蘭!クレアの眼を塞げ!」

「はい!」

クロエに言われて蘭が、クレアの眼を塞いだ時であった通路の奥から現れたのは、杖を持ち、黒いローブを纏った禍々しいスケルトンの様な、しかし腐敗した肉体も一部残っているモンスターであったのだ。

「お舘様、リッチです!レベルの低い者はその姿を見ただけでも死んでしまいます!」

マジかよガチでリッチかよ、アニメやゲームで出てくるよりもグロテスクじゃ無いか!しかしリッチがこんなにも大きな足音をさせるか?……もう1体いるな。

そう言っている間にリッチの背後から音の正体が現れた。

何だあれは?死体を合体させたゴーレムだと!大量の死体で出来た大きなゴーレムが俺達の目の前に現れたのであった。

その驚いた俺達を嘲笑うかのように、リッチがカタカタと音を立てていた。コイツ俺達を見て笑ってやがる、絶対に泣かせてやる。

「お舘様……このゴーレムはフレッシュゴーレムです、ゾンビの集合体で身体を形成しているモンスターですが、一番変なのはリッチです」

「何が変なんだ?」

「リッチは魔導師の最終形態であって、肉体を全て取り去り魔力のみで生きている不死の者です、つまりは元は人間です」

「……あんなのが魔導師の最終形態?嫌だな」

「私も、あんなのになるのなら魔法使いを辞めようかな……」

あれが魔法使いの最終形態かよ!それは二人は嫌だろう……って何で不死になったとは言え、こんな所に人間がいるんだ?ダンジョンはモンスターしかいないはずだろう。

このダンジョンは何かが変だ、それにリッチは不死って言ってたがどうやって攻撃するんだ?

「クロエ、どうやってリッチを倒すんだ?」

「解りませんし倒す方法なんて無いですよ!」

「アイリス!帝国では何か方法を発見していないのか?」

「残念ながら帝国でも何も……」

マジかよ……だからあんな余裕を噛ましてやがるんだな…………待てよ、ゲームではアンデット系のモンスターは回復の呪文がダメージにって、回復職がいないし!どうする、どうする?

ちょっと待て、肉体を全て取り去り魔力のみで生きているってクロエは言っていたよな、じゃあ体力のHPは無くて魔力のMPだけで生きているって事か、ならばそのMPを吸いとったら死ぬんじゃ無いか?確か俺の朱槍と、クロエのアスカロンと、蘭のロンゴミアントだけか、よしここで死ぬよりは良いだろう。

「クロエ、蘭!その剣と槍で俺と3人で、リッチに肉弾戦を挑むぞ!残りはフレッシュゴーレムをぶち殺せ!セシリーはクレアを頼むぞ!」

『はい!』

そう言って俺は、突き刺さった朱槍を引き抜き、朱槍を左に右には村正の二刀流でリッチに向かって走り出した。

リッチは余裕の表情で……ガイコツなんで正確には解らないが、蘭の槍を身体に受けた瞬間であった、リッチが声にならない叫びをあげて苦しんだのであった。

俺の予想は当たっていたな。

これに驚いたリッチが慌てて俺達と距離を取ろうとしたのだが、そんなのを許す俺達ではない。

「やはり効いているぞ!叩きまくれ!詠唱の時間を与えるな!」

俺の掛け声で蘭は、槍をもう一度リッチに突きだしたのだが、やはり槍を扱うのは素人なのか、当たったのは最初の一撃のみであとは全てかわされていた。

だがそれで良かったのだ、素人の槍さばきは攻撃の予測がしやすい、俺とクロエはそれに合わせて避けるで有ろうポイントを攻撃すれば良かったのだ。

魔導師等の魔法職は本来後衛で攻撃するのが、アニメやゲームでも常識でありそれはこの世界でも当てはまる様であり、おそらくはこのリッチは俺達の事をナメきっていたのであろう。

本来ならば、フレッシュゴーレムを前面に出して、攻撃するのがコイツらの戦法だったのだが、俺達の唖然とした姿を見て油断したのだ。

ごぉぉぉぉ!

その時であった、フレッシュゴーレムの断末魔が部屋の中には鳴り響いたのである。

俺がチラリとフレッシュゴーレムの方向を見ると、フレッシュゴーレムは全身炎に包まれており、その傍らには不敵な笑みを浮かべているセシルがいたのであった。

「フハハハハ!燃えろ!燃えろ!燃え尽きてしまえ!」

……あいつ普段口数が少ない分、キレたらヤバそうだな……怒らせないでおこう。

俺がそんな事を考えた事により、リッチに対して一瞬の隙が出来てしまった、リッチはその隙を突いて持っていた杖で蘭を攻撃してきたのであった。

「蘭、危ない!」

俺が蘭を庇うのよりも先に、クロエが蘭の襟を掴み後ろにぶん投げたのであったが、その瞬間、次にリッチは、俺に対して無詠唱で火炎魔法を放って来たのであった。

ドン!

そんな轟音が鳴り響いて、俺の身体を炎が包んだのだが不思議と俺にはダメージが全く無かったのである、これは甲冑と陣羽織のスキルのおかげか?しかし反撃するなら今だ、今しかない。

俺はそう思って炎の中から、リッチに朱槍を突き立てたのであった、それを見たクロエもリッチの背中を斬りつけて、そのまま剣を突き刺した。

それを見た蘭も槍を手にして、走って近付きリッチに突き刺したのであった。

まだ人間の機能が残っていたのか、ここでリッチは奇声をあげて最後の力を振り絞りセシリーとクレアに向かって火炎魔法を繰り出したのであった。

「セシリー!」

「キャー!」

セシリーはとっさにクレアを庇い、リッチの放った火炎魔法を全員に浴びたのであったが、リッチから放たれた炎はセシリーのローブに吸収されてしまったのであった。

それを見たリッチは悔しそうに、断末魔をあげて塵となっていったのであった。

良かった……あれがローブのスキルのMP吸収だったのだのか、しかしリッチの奴、泡にならなくて塵となったと言う事は、本当に元は人間だったのか、これでこのダンジョンは、ますます謎になってきたな。

「あれ?生きてる?」

セシリーは、無事であった自身の身体を確認をして不思議そうに言った。

「そのローブは魔法を吸収するんだ、しかしそれを知らなくてクレアを守ったお前のその勇気は素晴らしいよ」

「そ、そうですか?何だか照れるな……」

「アイリス、そっちは終わったか?」

「ラナと二人でフレッシュゴーレムの両足を斬ってやり、セシルが倒れた身体で火遊びをやっておりますので、もう少しで終わります」

おい、中々にエグいことをやっているなぁ。

「そうか、では今のうちに装備の確認と、セシルは魔力を補給しておけ」

「……御主人様、あれ不味い」

「そう言うな、また新手が来れば戦わなくちゃいけないから、補給出来るときに補給しておかないとな」

そう言って各自が補給と点検を済ませた時に、フレッシュゴーレムは力尽き、泡へとなって大量の金貨が後に残ったのであったが、その時である突如リッチ達がやって来た通路が塞がってしまったのであった。

「一体どうしたんだこれは!クロエ、ショートカット出来るんじゃ無かったのか?」

「解りません!もしかしてリッチとフレッシュゴーレムを倒した事により、何か別のトラップが発動したのかも!」

二重のトラップかよ!そう思った瞬間であった、部屋の全ての床が崩壊し俺達は部屋の下へと落とされたのであった。

失敗した、もう少し慎重になるべきであった、この下に槍の様な物が並べられていたら、俺達は全員が串刺しじゃないか!いや、それ以前にこんなにも落下すれば地面に激突して全員が死亡確定だ、やってしまった……みんなすまん。

俺が後悔の念を抱きながら落ちていると、途中から氷のチューブの様な場所に滑り落ちて行くことになっていくのであった。

1回転、2回転して落下の勢いが殺されて、俺達はようやく地面へと辿り着いたのである。

「痛ったぁ……みんな無事か?」

「はぁ~い!」

「はい、何とか……」

「……死んだと思った」

「あれはヤバかったね、お姉ちゃん」

「左近様、蘭は無事です」

「ラナ姉ちゃん楽しかったねぇ」

みんな無事の様だな、あれ?クロエは?

「クロエ?どうした、何処か痛めたのか?」

俺の問いにクロエは、震えながら眼を丸くし、指を指して言った。

「お、お舘様……あ、あれ」

クロエが指差した方向を見ると、豪華な造りの神殿か王宮の様な建物が俺達の目の前に建っていたのであった。

何だこりゃ?アンデットばかりの似つかわしくもない、豪華で美しい造りになっている、これはどうみてもラスボスの居場所の様に見えるな。

結果的俺達は一気にラスボスの場所まで来たと言う事か、ショートカットは当たっていたんだ……クロエ、疑ってすまん。

「旦那様、これはもしかして……」

「あぁ、アイリス。俺達はどうやら一気にラスボスの所まで落ちて来た様だな、各自武器の点検をしろ、何処か壊れた所は無いか?」

俺の掛け声で各自の武器の点検を始め異常が無い事を確認し、みんなが俺の方向を見て頷くと、皆が覚悟を決めたのか全員が立ち上がり引き締まった顔になっていた。

「さぁて、ラスボスの御尊顔でも拝みに行きますか」

そう言って俺達は大きな入り口の扉に向かい、手をかけると扉は思いの外に力を入れずに扉が開き、俺達の目の前には玉座と大きな広間が広がっていた。

「旦那様、何ですかここは?」

「玉座の間だな……しかしもう魔王になったつもりか?…………何かいる!」

俺のその言葉を聞いて全員が戦闘体勢に入ったのであった。

その時であった、柱の陰から夥しい黒色の人間の様なモンスターが出てきたのであった。

「お舘様……あれは屍食鬼《グール》です!普段は屍しか食べないので生きてる我等には無害のはずなのですが、あの数は尋常じゃ無いですよ!」

「旦那様、クロエは無害と言っておりましたが、帝国ではグールに殺されて食べられたと言った被害が数件あったそうです。

ですので、一概にはそうとは言えないようです」

「そんな……」

「クロエ、どうやらアイリスの言葉が正しい様だな、奴等は俺達を狙っているようだな」

「旦那様、さすがにあの数は無理があります……どうしますか?」

確かにアイリスの言う通り、こんなにも広い場所でこの人数差で戦うのは無謀しか無い……どうする?俺は扉が開くか確認すると、鍵が掛けられたかの様に動かない。

完全に閉じ込められたのか、どうやら戦うしか無いようだな。

俺がそう思った時であった、グール達の群れがモーゼの十戒の様に割れて奥から黒い鎧を着た騎士が馬に乗ってこちらにやって来た。

騎士?何でこんな所に……違う、騎士じゃない!騎士だと思っていたが、首が無い!馬もよく見たら骨のみだ、スケルトンの馬だ。

「あ、あれは……」

「何だ、セシリー知っているのか?」

「はい、おばば様が言っていた首無騎士《デュラハン》では無いかと」

そう言っていると、デュラハンは俺達の近くにやって来て、頭に直接響く様な声で話し掛けて来たのであった。

『お主達の将は誰じゃ?』

こいつは俺達と交渉しようとしているのか?今、戦っても勝てても犠牲が多すぎるだろう、乗るしかないか。

「俺だ!俺は左近と言う、このパーティのリーダーだ」

『お主か?ここまで来れた者は初めてじゃ。どうであろう、お主が望むならばこのダンジョンから出してやってもよいぞ』

ルタイ語が解るのか?いや頭に直接響いて来る感じは、最早言語を卓越しているのかも知れないな。

「……すまんが答えは否だ。ここは俺達の住む場所の目と鼻の先に在る。そんな場所からモンスターが出て来ては生活も安心して出来ない」

『ならば御互いに不可侵協定を結ばぬか?』

何か変だ、何故こんなにも優位な状況で交渉を持ち掛ける?早く俺達を殺してしまえば良いものを……これは何か裏が有るな。

「その様な約定、信用できると思うか?それに何故ここで不可侵協定と言うのだ?お主の心が見えんので信用はできんな」

『信用は出来んか……お主よそんな事が言える状況と思っているのか?』

やはり、こちらが圧倒的に不利なので難しいか、こちらのカードが圧倒的に少ない。ここは他のみんなの命を優先するべきだな。

「ふん、お主は見たところ騎士の様だが、騎士がこの様な人数をなぶり殺しにするような真似はせんだろう?だからこそ我等をダンジョンから出してやろうと持ち掛けた、違うか?」

『……痛い所を突いて来るな、確かにその通りだ。しかしながら、このままでは我の慈悲を無下にした者を放っておく訳にもいかん』

やはり何かが有るな、一応は騎士道を忠実に守る騎士を演じる様だ……それならば有り難いが、さて乗ってくれるかな?

「こちらとしても、退けと言われて素直に退くのは武士道に反する、そこでどうだ、御互いの騎士道、武士道に沿って正々堂々と……俺とお主で一騎討ちをせんか?それならば御互いの道を踏み外す事もあるまいて」

『お主、勝てると思っているのか?』

「それは解らんが、御互いに退くわけにはいかんのなら、こうするしか無いであろう」

『良いだろう一騎討ちにて我が勝てば、そこの者達を好きにさせてもらおう、お主が勝てばこのスレイニプルを呼び出す笛をやろう』

「解った、では始めるか!」

そう言って俺は、デュラハンに向かい槍を構えたのであった。