Another Life

End of Dream

「で、そんな理由で私を呼んだのですか?」

そう言って呆れたバッシュは、左近と正成の後に続きながら言ったのである。

「何を言っている、俺達は本当にボルの容態が心配で来たんだよ。これはついでだ」

「そうそう、今回は我等右近衛府が、原因の様なものだからな、やはりボルには謝罪しておかねばならん」

「いや、良いんですけどね、親父も涙を流して喜んでいたし……で、何でこの流れで娼館に行く流れになっているんですか?」

そう言ったバッシュは、呆れて頭をポリポリとかいて言ったのであった。

「まぁそう言うな、お前の気分転換に、なってくれれば、良いんだからさ」

そう言った左近は、バッシュに笑顔で言ったのであった。

ダメだ、この人達は完全に楽しんでる……諦めるしかないか。

しかし、左近衛大将と右近衛大将がこんなんで、ルタイ皇国大丈夫か?

バッシュは、何とも言えない不安な気持ちになりながらも、二人について行ったのであった。

ナッソーに空間転移で到着した左近達は、そのままリザードマンの居住区に在る、バッシュとボル親子の邸宅に行き、左近はボルの容態を心配し、正成は今回の事を謝罪したのであった。

ボルは、ザルツ王国のフランド辺境伯の反乱で、ザルツ王国の専属勇者ジュダース公の攻撃を受けて、喉を剣で刺されたのだが、左近が助けた事で何とか一命を取り留めたのだが、後遺症で声が出せなくなっていたのであった。

その戦の後で、バッシュは左近の好意で、ずっと看病していたのであったが、左近がボルに「毎日看病は辛いだろうから、チョッと息抜きに連れて行く」と言って、連れ出したのであった。

もちろん二人には、崇高なる目的の為に、バッシュと言う隠れ蓑が欲しかっただけだが、そんな事を知らないボルは、涙を流して何度も二人に頭を下げて、快く送り出したのであった。

こうして3人は、ナッソー新市街地に在る、高級娼館にやって来たのであった。

「諸君、ここが目標の建物であ~る」

そう言ってかっこよく前髪をかき上げた左近が、振り替えり正成とバッシュに言った時であった、左近の目線の先には、こちらを見てドサッっと買い物袋を落とした、蘭の姿が見えたのであった。

ら、ら、ら、ら、ら、蘭だとぉ!何でアイツがこんな所に……ヤバい、このままなら、確実にアイリス達にチクられる。

そう思っていると蘭は、慌てて買い物袋を拾い上げて、ペコペコと左近の方に頭を下げて、旧市街の方向に行ったのであった。

か、確実に見られとるやんけ!

まずい、ここは二人を楽しませて、俺は蘭を捕まえねば…一時の快楽より命が大切だ。

「さ、さあ諸君、入ろうか」

左近は動揺しながらも、二人の背中を押して、娼館に入って行ったのであった。

―――――――――

その頃、左近を見た蘭は足早に旧市街に行き、すぐに路地裏に入ると、顔の皮をペリペリと剥がし、その下の顔は、全くの別人になっていたのである。

この女性は、桔梗の配下のくノ一の一人、霞であった。

彼女は、普段からナッソーに潜伏しており、桔梗からの連絡を受け取ると、蘭に変装して、わざと左近の前であの様な事をしたのであった。

ふう、左近衛大将様は頭が良いから、これで大丈夫か……それにしても、本当に男って最低!

そう思った霞は、そのまま壁を思いっきり殴ったのであった。

―――――――――

その頃、左近達は娼館に入ると、左近は店の太った女性に「用事が出来たので、この二人を頼む。こいつには俺の分の女の子を、つけて、3人にしてくれ」と頼み、正成とバッシュにお金を渡し、終わったらオヤジさんの店に集合と伝えて、蘭を追いかけたのであった。

「なんだアイツ?急いで何かあったのかな?」

「何かあったのかな?じゃありませんよ……右大将殿って、何だか今日は緊張してません?今日は口数が多い様な」

「何を言っている大膳、そんな事は無いぞ。それにここでは右近だ」

「御館様の真似ですか?まぁここに居る事がバレたらまずいでしょうが」

「き、今日はいつになく辛口だな」

そう言って二人が話していると、太った女性がやって来て、二人に言ったのであった。

「準備出来たよ、先ずはルタイ人のあんたからだ。リザードマンの兄ちゃんは、その後で。

左近の旦那から言われているので、2階に上がったら、3人の好きな子を選んで、その後は女の子に任せりゃ良いから。

リザードマンの兄ちゃんは一人だよ、もしも二人が良いなら、サービスするけど」

「いや、いいよ」

「そうかい、じゃルタイ人の兄ちゃんからだ、ついてきな」

太った女性はそう言うと、正成を連れて言ったのであった。

しかし、俺は何でここに居るんだろうか?まぁ御館様の好意でもあるから、無下には出来ないし……適当に女の子と話をしてやり過ごすか。

俺達リザードマンには、そもそも他種族との交配なんて無理な話だしな。

そう思っていると、太った女性が戻って来て言ったのであった。

「次はリザードマンの兄ちゃんだよ」

「早っ!」

「あのルタイ人の兄ちゃんは、一瞬で3人を決めたからね」

右大将殿って、実はかなりの遊び人では無いだろうか?

いや、この場合は決断力が有ると言っておこう。

そう思いながらも、バッシュは太った女性について行き、2階に上がるとその廊下には、5人の女性が並んでいたのであった。

「好きな子を一人選びな」

そう言われたバッシュは、女の子を吟味していったのである。

正直、交配なんてどうでも良いけど、話しやすい子が良いな。

そう思いながら女の子を見ていると、一番端に立っている、目の不自由な女の子に目が行った瞬間、バッシュの目線が釘付けになったのであった。

ティナ、何でここに!

そう思ったバッシュは、すぐにでも話し掛けたい衝動を抑えて、太った女性に言ったのであった。

「決めたよ、この子にする」

「え?すみませんが、その子は見ての通り、目が不自由でして……それでも?」

「ああ、それでも良いさ」

「分かりました、では部屋はこちらになります」

そう言って案内された部屋に、バッシュはティナの手を引っ張り、入ったのであった。

部屋に入るとティナは、声を少し震わせながら言ったのであった。

「本日は御指名頂き、有難う御座います、私は……」

「ティナだろ?」

そうバッシュに言われたティナは、少し首を傾げて、言ったのであった。

「申し訳御座いません、以前に来られたお客様でしたか?」

「違う……覚えていないのか?ウルクの街の近郊で、サンドワームに襲われていただろ?」

「はい、確かにその経験は……まさか、バッシュさん?」

「ああそうだ、バッシュだよ」

バッシュがそう言うと、ティナの目から涙がボロボロとこぼれ落ち、ベッドのシーツを手探りで探すと、身を包んで言ったのであった。

「お願いです、見ないで下さい。ここに私がいた事は忘れて下さい」

「……何があった、教えてはくれないか?もしかすれば力になれるかも知れない。

こう見えても俺、ルタイ皇国の名字と官位も貰ったんだ、絶対に力になれるさ」

そう言ったバッシュの言葉に、ティナは警戒を少し緩め、話し出したのであった。

「実は……1年前に貴方の前から、別れを告げずに姿を消したのは、両親が死んで残した借金の為に、ここに売られたんです。

目の不自由な私に奴隷だと、買い手は居ないだろうから、娼館なら大丈夫だろうと……

でも良い事もあったんですよ、こんな私ですが、ルタイ人の人で、引き取ってくれるって人が出来たんです。

その人は本当に優しくて、俺がお前の目の代わりに、なってやるって言ってくれたんです。

でも戦争が終わったはずなのに、まだ私の所に来てくれないんですけどね」

そう言ったティナは、微かに涙が溢れていたのであった。

バッシュは、胸が締め付けられた様な感覚に陥っていた。

あの砂漠で、ティナを助けて、種族が違い叶わぬ恋だとは知っていても、あの時は本気で惚れていた。

いや未だ惚れているのだが、その想いは伝えられずにいたのである。

この状態で、惚れた女性の恋の話は、正直心臓を握り潰されている様で、かなり辛い。

だがバッシュは、ここでティナの為にと、惚れた女性の為にと、その想いを殺して言ったのであった。

「名前は何て言うんだ?俺が手を回して、連れてきてやるよ」

「佐之助さんです」

「それだけか?官位とか、何処の所属とか、名字とかは?」

「そこまでは……でも三好の殿様に仕えているって言ってました」

三好の殿様?……左近衛少将殿の事か。

何だ簡単じゃないか、左少将殿に聞けば……チョッと待てよ、左少将殿はルゴーニュで一度敗戦して甚大な被害を出している。

それに左近衛府軍は、ルタイ皇国三軍の中でも、一番被害が少ないと言っても、死人は出ている……もしも戦死していたら、俺は何て言えば……。

いや、このままティナを待たせるのは良く無い、俺が何とかしてやらなきゃ。

「分かった、何とか調べられるかも知れない。調べてみよう」

「本当ですか?有難う御座います。

でも、バッシュさん何でこんな私に優しくしていただけるのですか?」

「まぁ……そうだ、泉龍寺の和尚様が言っていたのだが、この世には縁と言う、不思議な繋がりが有るそうだ。

その縁を大切にしないと、いつかは巡りめぐって、自分に返ってくると言う。

人の為に何かをすれば、いつかは自分に返ってくるって話だ、だからこれは俺のためでもあるんだよ」

誰が惚れているからですって言えるかよ。

「縁ですか……その和尚様って人は、良い事を言いますね。

バッシュさん、本当に有難う御座います。良かったら、その和尚様の御言葉を、私にも教えて下さい」

「ああ良いよ」

そう言ってバッシュは、院元和尚の事を話し出したのであった。

―――――――――

一方左近は、旧市街を蘭を探していたのだが、蘭の姿は何処にも無く、半ば諦めた状態でオヤジさんの店に入ると、カウンターの隅っこにポツンと座って、落ち込んでいる蘭を発見したのであった。

いた!だが何だ、あのどんよりとした空気は?先ずは距離を取って、探って見るか。

そして、頃合いを見て、偶然を装って話し掛け、誤解を解く……完璧なプランだ。

そう思いながら、左近はカウンターの蘭とは反対側の隅の席に座ると、早速オヤジさんが左近の前に来て言ったのであった。

「いらっしゃい。何だ珍しいな、飲みに来たのか?」

「ああそうだ。オヤジさんエールをくれないか」

「エール?お前、なにガキみたいな事を言っているんだよ。男ならこれだろ?」

そう言ったオヤジさんは、左近の前に小さなショットグラスを置くと、そこに並々と酒を注いだのであった。

「オヤジさん、これは?」

「珍しい酒が手に入ってな、ラム酒って言うんだぜ、まぁ飲んでみろよ」

おい、ラム酒ってかなり強烈な酒じゃないか。

それに何かで割るのでは無くて、ストレートって……即死するぞ。

そう思いながらも、左近はショットグラスを持つと、意を決して胃袋に流し込んだのであった。

喉が焼ける様に熱いのと同時に、ラムの香りが口の中に充満する。

「こ、これは……」

「ハハハ、ルタイ人のお前には、これは少々キツかったか。

で、少しは元気が出たか?入って来た時のお前の顔は、珍しくかなり落ち込んでいたぞ。

良かったら話してみろ、聞いてやる」

「……誰にも言うなよ」

そう言った左近は正直に、今までの高級娼館に行けなかった事を、話し出したのであった。

「プッ!……お前、俺を殺す気か?……ダメだ、我慢が出来ねえ、腹筋が痛え」

そう言ったオヤジさんは、カウンターの向こう側で、笑いを必死に堪えて、崩れ落ちてしまったのであった。

「笑うなよ、こっちは真剣だったんだぞ」

一瞬でもオヤジさんを信じた俺がバカだった……でも普通に考えたら、俺もオヤジさんの立場なら、爆笑もんだよな。

そう左近が、赤面していると、オヤジさんは何とか立ち上がり、左近に涙目で言ったのである。

「それとな左近よ、俺はもう1つ面白い事を発見したぞ」

「……何だよ」

「お前、蘭に見られて止めたって言ってたけど、あいにく蘭は開店してから、あそこにずっと座ってやがるんだよ。

って事は、お前が見た蘭は人違いって事だ。

……人違いで…金だけ渡して……結局出来なかったって……すまん笑って良いか?」

「ダメだって言っても、笑うんだろ?」

「すまん、その通りだ……」

そう言ったオヤジさんは、そのまま倒れて、爆笑したのであった。

ダメだ、恥ずかし過ぎる……穴があったら入りたい。

今更、戻っても無理なんだろうな……良いな正成とバッシュの奴。

でも、あの時に俺が見た蘭は、絶対に本物だった、見間違う筈が無い……まさか?

左近の脳裏に横切ったのは、アデルの言っていた、スカーフェイスと言う暗殺者の存在であった。

まさかスカーフェイス?

しかし、そいつは確かアデルが、顔の皮を剥いで、自分の顔に貼り付けて、その者になりかわると言っていた。

って事は、顔の皮を引っ張れば、本人か分かるんじゃないかな?

でも、もしもその暗殺者だったら蘭は……ダメだ、そんな事を考えるんじゃ無い。

……よし、警戒しながらも、それでいて自然に、いざとなったらスキルで何とか、切り抜ける。

覚悟を決めた左近は、笑い転げているオヤジさんを放置して、蘭の所に行ったのであった。

はぁ~、私何やってるんだろ?あの人の近くに居たくて、十字軍に入ったのに、気が付けば私だけ何か取り残された気がする。

でも、一緒にいても、肝心な時に何も話せなくなっちゃうし…これからどうしようかな……

そう思いながら、持っていたミルクの入ったコップを見つめていた、蘭の隣に左近は座ると、蘭の顔を覗き込む様に言ったのであった。

「どうした、何か悩みごとか?」

「お、御…館様、どうして…ここ……に?」

そう言った蘭は、左近を見ると顔を下にして、モジモジとしたのであった。

よし、自然な流れで話し掛ける事が出来た。

だが、いつもの蘭の反応だ、俺に対してだけする反応…これは真似出来ないだろうが、念のために確認しておくか。

自然に、自然に…

そう思いながら、左近は蘭のほっぺたを引っ張りながら、言ったのであった。

「ほれ、笑え。蘭は笑ってる方が可愛いぞ」

「ふにぃ~チョッと止めて下さいよ、思いの外、強いです」

そう言った蘭は、左近の両手から逃げると、引っ張られたほっぺを擦りながら言った。

「何をするんですか!」

「やっと目を見て話してくれたな」

「…あ……」

そうだ、私今まで御館様の顔を見て、話して無かった……これじゃ嫌われても仕方がないか……

「ほら、また下を向く……俺って、そんなに嫌われる事を、したかな?覚えが、有りすぎるけど」

「そんな事は、ありません!むしろ私が嫌われていると……」

「それは、無いな。俺は、蘭の事は好きだぞ」

「す、好き…わ、私も……です…」

顔の皮に異常は無い……スカーフェイスでは、無い様だな。

やはり俺の思い過ごしか……あれ?って事は、オヤジさんの言っていた様に、俺の勘違いで……マジでへこみそう。

そう言えば蘭は、大陸に来てレンヌでバイトをやっていたよな、もしかしたらルタイ語とキリバ語の両方、読み書きが出来るんじゃ、無いだろうか?

よし、秘書に誘ってみよう。

「ん?何か言ったか?」

「い、いえ…」

「そうか。そう言えば蘭は、ルタイ語とキリバ語の両方、読み書きが出来るのか?」

「で、出来ますけど」

「そうか出来るか。それなら、今度新しく俺の秘書をやって見ないか?」

「秘書?何ですかそれは?」

「俺の予定等の管理や、書類作成、まぁ後は身の回りの世話等だな。もちろん一人じゃ大変だろうから、クロエと二人でやって貰う。

それと、魔族語の出来る秘書も欲しいし、念話の出来る秘書も欲しいから、これから増えると思うけど、どうだろう?」

「や、やります!私は念話も使えますし、お役にたてるかと思います」

おお、かなり優秀じゃないか。

「では、決定だ。蘭は俺の第二秘書だ、住む所は今度からレイクシティになるが、良いか?」

「はい、もちろんです」

「じゃあ今後から俺達は、仕事上のパートナーだ、まぁ私生活も含めて仲良くやっていこう。

明日か明後日にでも、荷物をまとめて、泉龍寺の転移ポイントから、レイクシティの左近衛府に来れば良いから。

荷物が多いなら、俺か他の者に空間転移で持って行かせるよ。

今後はよろしくな」

そう言って左近が手を差し出すと、蘭は頬を赤くして左近の手を握って言ったのであった。

「これから帰って、早速荷造りします……ふつつか者ですが、よろしく御願いします」

そう言って、蘭はそのまま頭を下げて、店から出ていったのであった。

その後、バッシュは店にやって来て、父の介護があるからと、帰って行ったのだが、中々正成が姿を見せなかったのである。

遅い、何かあったのかな?と左近とオヤジさんが話していると、ようやく正成が店に現れたのであった。

正成は、まるで脱け殻の様にフラフラとカウンターにやって来て、左近の隣に座ったのであった。

「おい右近よ、その様子じゃ、良かった様だな?」

そう言ったオヤジさんは、そのいかつい顔が、思いっきり笑顔なって言ったのであった。

「オヤジさん…あんなにも、気持ち良い事がこの世にあったなんて、俺は知りませんでした。

そうだ清興、これを返しておくよ」

そう言った正成は、懐から金貨の入った袋を、左近の前に置いたのであった。

左近が確認すると、中には金貨が1枚も減らずに、正成に渡したそのままの枚数がある。

何か変だな。

そう思った、左近とオヤジさんは顔を見合わせると、左近が正成に聞いたのであった。

「俺が奢ってやるって、金を渡したのに、お前まさか自分で支払ったのか?」

「それが違うんだよ、終わった後に、女達からお金を返されて、代金は要らないから、また来てくれって言われた」

「おい、左近……」

「ああ、オヤジさん……」

これが意味するのは、その3人の女の子は、かなり満足して正成にハマったって事だ……何で、童貞の正成がこんなにも出来た?

そう左近が思っていると、オヤジさんは正成の前にショットグラスを置くと、ラム酒を注いで言ったのであった。

「これは、店からの奢りだ。だから詳しく話せや」

そう言ったオヤジさんは、何処か男の嫉妬の様な物を、感じさせながら言ったのであった。

「オヤジさんだから言うが。

俺は初めてだったので、何処をどうして良いのか分からないので、スキルの天話で女の心の声を聞きながら、攻めていたら何度も女達が求めて来てな……いやぁ、清興が言っていた様に、まさに天に昇るとはこの事だな」

そう言った正成は、一気にラム酒を飲み干したのであった。

マジっすか、あのスキルに、そんな活用法があったなんて。

俺もそんなスキルが欲しい……今度そんなスキルが手に入るか研究しようかな。

そんな邪心を抱いた左近と、未だに意識も天国にいる正成は、そのままオヤジさんの店で、二人で飲み始めたのであった。

―――――――――

正成の脱童貞から数日後、左近衛府の各騎士団に割り当てられた、執務室の一部屋に黒騎士団(ブラックナイツ)のレイヴンと呼ばれる、羽付のメンバーとクリスと佐平次がいたのであった。

広い執務室の真ん中に在る、長いテーブルに各自座っているのだが、パンドラの席だけは、豪華なソファーになっており、パンドラはそこに、横になっていたのであった。

他の者がこの様な事をすれば、何ともやる気の無い、だらけた姿だと、見えるかも知れないが、パンドラがやると、不思議と絵になり、誰もが思わず見入ってしまう程の、優雅さがあったのである。

「お、どうやら私が最後の様だね」

そう言って最後に入って来たのは、ママであった。

ママはそのまま悪びれる事もなく、そのまま空いている席にドカッと座ると、見かねたクロエが注意したのであった。

「ママ、遅刻ですよ」

「まぁそう言うなよクロエ。何だ、まだその制服着ていたのか?」

「これは、ロンデリックが制服の耐久性の確認の為に、暫く着てくれって言ってたから……

それよりも、遅刻ですの事ですよ……」

「クロエ、良いのですよ。ソニアは、その自由なのが持ち味ですから」

そう言ってパンドラは、クロエを制したのであった。

「だってよ、クロエ」

「……うるさい」

二人がそう言っているなかで、クリスが手を上げてパンドラに質問したのであった。

「あの~、ソニアさんの事は置いといて、何で私と佐平次も呼ばれたのでしょうか?私達は、羽付じゃ無いんですが」

「それについては、後々に説明します。バスティ、テスタ、例の物を皆に配って」

パンドラに言われた二人は、各自の前に制服と階級章と紙を二枚、置いてったのであった。

これは何だろうか?その場にいる者が、不思議に思っていると、パンドラが1枚の紙を取り出して言ったのであった。

「え~先ずは、この紙に書かれている事を説明する、これに書いてある様に連合軍は、トップのお父様を中心に構成され、大きく3つに別れる。

連合軍本隊と、ルタイ皇国防衛軍と、ガルド神魔国防衛軍の3つに別れて、階級制になっている。

本隊は実戦部隊の外局と、兵坦や人事の内局、そして各騎士団に別れる……まぁ各騎士団は、お父様の直轄と思ってくれて、良いでしょう。

次に、目の前に置かれた制服と言う服ですけど、これは戦以外の軍務につくときに着る服です。

まぁ私達は殆ど着ませんけどね。

そして我等、羽付の者はお父様の指示で、これからは、その身分を隠して他の仕事に付きます。

もちろん、その間も階級に応じて給料も出ます。

ではこれから、階級と隠す身分を発表します。あ、私はちなみに大佐で、そのまま佐倉家の姫のままです。

先ずはバスティアン、階級は中佐で、これからは佐倉家のバトラー、執事長と言った方が、分かりやすいでしょうか。

とにかく、そのバトラーになってもらいます」

「かしこまりました」

「次にテスタ、階級は同じく中佐で、ハウス・キーパー、メイド長と言った方が、分かりやすいでしょうか。

ともあれテスタには、ハウス・キーパーになってもらいます」

「はっ」

「次はリンですが、階級は少佐で、貴女には多くを求めません、セントラル城の警備担当に、なってもらいます」

パンドラがそう言うと、リンは新しく新調した黒い鎧を、カチャカチャと言わせて頷いたのであった。

「次はロビン、貴方はこれからはグレゴール商会の下部組織になる、商会の会頭になってもらいます。

階級は、同じく少佐です」

「ソニアの所では、無いのですか?」

「それだと、何かあった時に、我等の関与がバレる恐れがあります」

「了解しました」

「次はジャックですが、階級は少佐で、レイクシティにてバーの店員をしてもらいます」

「承知」

「次はディアとクマですが、あなた達には、お姉様が引き取った子供として、ルタイ皇国に行ってもらいます。

任務は、ルタイ皇国に人質として行くお姉様の護衛です」

そう言った瞬間、明らかにその場の空気が、ピリッと張り詰めたのであった。

どうやら全員、ルタイ皇国にムカついている様ですね。

「まぁ今回の事は、お父様の政敵に利用されない様に、お姉様が先手を打たれた事ですので、皆が警戒する事ではありません。

まぁ察する様に、ルタイ皇国も一枚岩では無く、派閥があります。

最近では、文治派と武断派と大陸派に別れている様で、お父様は大陸派の筆頭の様ですね。

本人は、全くそんなつもりは無い様ですが……とにかく、他の派閥には、皆も気を付けて下さい。

で、遅れましたが、二人の階級は少佐です。

後で十名ほど見繕って、お姉様の警護の兵として、騎士団から連れて行きなさい……まぁあの愚姉が誰かに殺されるって事は、天地が砕け散っても無いでしょうが、念のためにです」

「分かった~」

「った~」

「次にクロエですが、階級は少佐で、お父様の第一秘書になります」

「かしこまりました」

「次はソニアですが、階級は少佐で、ハンザ商会の会長に就任し、ナッソーで適当にしてください」

「何だか、私だけ雑な扱いだな。でもまぁ楽で良いや、分かったよ」

「次は、クリスティーナ・マクレガー。貴女は階級は中佐で、新しく聖龍騎士団の団長に、なってもらいます」

「えー!そんなの無理ですよ!帝国の聖龍騎士団は、もう壊滅したし、飛竜(ワイバーン)の調達方法は、同じ帝国の内部でも極秘中の極秘だったので、知っている者は少ないんですよ」

そう言ったクリスは、思わず身を乗り出して言ったのであった。

「それでも何とかしなさい、貴女の人脈を使い、何としてでも復活させなさい。異論は認めません」

パンドラがそう言うと、クリスは黙っているしか無かったのであった。

「次に佐平次は、聖龍騎士団の副団長で、階級は大尉です」

「やっぱりですか……分かりました」

「それとですが、この羽付の者は、この羽付のマントを着ている限り、何をやっても自由です。

例えば、気に入らない者を殺しても、無罪放免って事ですので」

「そんな事……各国が了承したのでしょうか?」

そう言ってパンドラに言ったのは、クリスであった。

「この事は、既にその各国が決めた事で、ルタイ皇国の帝も、羽付に逆らう事は帝に逆らう事って、言っております。

しかしまぁ、品位を落とさない様にしないと、いけませんね……クロエ、どうしました?」

そう言ったパンドラの目線の先には、頭を抱えていたクロエがいたのであった。

「今まで、あまり目立たない様にしていたのに、帝にまで我等の事が知られてしまって……変な二つ名もあるし、恥ずかしいです」

「二つ名?」

そう言ったパンドラは、急に座り直して目をキラキラさせたのであった。

「ああ、あの話ですね、連合軍では皆さん結構有名人ですよ。

顔は知らなくても、二つ名は有名ですし」

「クリスティーナ、話しなさい」

「はい、姫様。

先ずは、皆様10名の羽付の御方達は、その特徴的なマントから、渡鴉(レイヴン)と呼ばれています。

で、各自の二つ名ですが……怒らないで下さいね。

黒の女帝、パンドラ。

黒の闘神、バスティアン。

黒の死神、テスタ。

聖槍、リン。

悪魔の眼、ロビン。

黒き幻影、ジャック。

鴉の斬り込み隊長、クロエ。

鬼の副長、ソニアです」

「何で私だけ鬼の副長何だよ!」

そう言ったママは、力強くテーブルを叩いたのであった。

「怒らないで下さいよ、連合軍の中で言われているんですから」

「まぁ良いじゃありませんか、私は気に入りましたよ。

それでは、これより各自の仕事に戻って下さい。

では、解散……あ、そうそう、これから軍務の者はちゃんと制服に着替えて下さいね。

ネクタイの結びかたは、分からなければ、テスタとバスティ、そしてクロエが知っているので……まぁ今すぐ講習しましょうか、では男性陣は、別室で着替えるように……ロビン、覗いたら殺しますからね」

「ヘイヘイ……ほら、皆行こうぜ」

そう言った男性陣は、制服を持ち別室に移動していったのであった。

そして、階級等が発表されたその日から、日頃不満に思っていたセレニティ帝国とザルツ王国の貴族達が、各地で一斉に反乱を起こしたとの知らせが、レイクシティの左近の元に入って来たのであった。

この反乱に対して、評議会は満場一致で、連合軍に反乱鎮圧の命令を下すことを議決し、評議会代表としてビート・スターク評議会議長は、連合軍総帥の佐倉 清興元帥を呼び出し、反乱鎮圧の命令を下したのであった。

「佐倉 清興元帥、連合軍に評議会は、連合国内における反乱の鎮圧を命を下す事を議決した。

速やかに、各地の反乱を鎮圧せよ」

「かしこまりました、迅速に鎮圧して御覧にいれましょう」

そう言った左近は、セントラル城を後にして、左近衛府に戻って行ったのであった。

「思ったより、反乱は早かったな」

そう言った左近の前には、連合軍の軍服を着た幹部達が、座っていたのであった。

「左大将……すみません元帥閣下ですね、どうも昔の呼び方が染み付いておりまして」

そう言ったのは、清信であった。

「かまわんさ、俺も三好准将とは、未だ呼びにくい。お互いに慣れていかなくてはな。

ともあれ、軍の再編成は、どうなっている?」

「各地の駐留軍は、反乱を起こしそうだった、信用のおける周辺の城には、既に兵を増員してあります。

セレニティ帝国とザルツ王国は、既に反乱の前兆を捕らえていた様でしたので、意外と楽でした」

「そうか、流石は長年戦争をやっていた両国と言うか、ゲハルト陛下とラニス陛下が優秀なのだろう。

クリューガー准将、兵糧の備蓄は十分か?」

「その辺りも、抜かりなく進めており、周辺の城は半年は立て籠れる様に、兵糧を運び込んでおります」

全てが完璧だな、やはりこの二人に任せておけば、完璧だ。

「しかし、このまま叩いても、また次から次へと出てくるだろうな」

「何処か1ヶ所に集めて、そこを叩けば、何とかなるかと思いますが……そんな場所が在るか……」

そう言った清信は、頬杖をついて言ったのであった。

1ヶ所に集めるか……そうだ、独立の気運があるイザナ村はどうだろうか?

「皆、聞いてくれ。

このヴァルキア地方の西の端に在る、イザナ村が独立の為に武具を揃えているとの情報があった。

この独立を了承しようと思う、表向きはもちろん、村の者と話し合って渋々と言った形になるが。

そして独立を了承したあかつきには、その村を封鎖して、何ヵ所か出入りの出来る所を作っておく。

すると、反乱で敗れた残党がそこに集結してくるだろう。

そして、ある程度の頃合いを見て、一気に叩く。城では無いので攻めるには都合も良いし、ある程度防御を固めても、たかが知れている。

まともな城塞を攻めるより、被害も少なくて良い……どうだろうか?」

左近がそう言うと、その場の者達は動揺し、一気にざわつき出したのであった。

だがその中でもアミリアは、左近の方向を見てにやついていたのであった。

「どうした?アミリア」

「いやなに、大将あんたはやっぱりすげえよ。

そんな事をされれば、村の者は悪人に、連合軍は善人って構図が出来上がってしまい、その村の現状を見れば、このヴァルキア地方の他の村や街もそんな気は失せてしまう……あんた本当に人間かい?」

失敬な奴だな。

「アミリア、何が言いたい?」

「私は、ずっと引っ掛かっていた事があったんだよ。

何で帝国は、ルタイ皇国の使者に攻撃をしたのか。

確かにあの頃は、どうしようも無い状態だったと思っていたか……何故、都合良くナッソーに帝国が軍を向かわせたのか。

何故ルタイ皇国の使者がナッソーにいたのか……あんた、帝国をハメただろ?」

「……否定はしないが、どうする?ここで俺を殺すか?」

「そんな事はしないさ……ただ、あんたの正直な気持ちを、聞かせて欲しい」

そう言ったアミリアの眼光は、とても鋭くなっていたのであった。

「……意味が分からん。正直な気持ちとは何だ?」

「あんたは、ルタイ皇国の侍からは、昼間の明かりだと言われている。

平和な昼間では、その用途は全く無いが、一度戦と言う闇夜が訪れると、この世の全てを明るく照らす灯火だって意味だと。

私もそう思うよ、三好准将やナッソーの、十字軍の戦の報告書を見ると、大将あんたは、足掻けば足掻くほど、どんどんと計略にはめる策士だ。

その男が、こんな連合軍の総帥に収まっているなんて、到底思えない……大帝国の皇帝があんたには相応しいだろう。

で、どうするつもりだ?私はあんたについていくぜ」

アミリアがそう言うと、左近の言葉を待つかの様に、その場の者は左近の発言に注目したのであった。

「俺は、ルタイ皇国の帝に絶対の忠誠を誓っている。

帝が左近衛大将に就任しろと言ったので、左近衛大将になり、ルタイ皇国の民を飢餓から救えと言ったので、貿易で食料を手に入れ、このヴァルキア地方の穀倉地を手に入れた。

帝が、セレニティ帝国と、ザルツ王国の戦争を止めろと言ったので、俺は戦争を止め、今後は戦争が起こらない仕組みを作った、全ては帝の為さ。

それに、俺の野望はナッソーで妻達と、悠々自適に暮らす事だ……まぁ帝はそんな事は許しては、くれないがね。

あの御方は、いつも俺に無茶な事を言うからな」

「では、ルタイ皇国の帝が大陸を征服しろと言えば?」

「……俺は間違いなくするだろう。

あの御方には、それほどの恩がある……だけど帝は、そんな事を言う御方じゃないさ、人が良すぎる。

それに、言ったとしても、そこは俺が命をかけて正す。帝が誤った道を進もうとするなら、それを正すのもまた忠義だからな」

「ふぅん……何だからしくないね」

そう言って、未だに半信半疑であったアミリアに、エリアスが言ったのであった。

「先日、帝の御前で少々もめ事があってな、俺もその場にいたのだが。

元帥閣下……いや俺の息子は、帝の間違いを正そうと、その命をかけて直訴していた、本当に素晴らしい忠義の侍だよ。

俺はこんな息子が出来て本当に幸せ者だ」

そう言ったエリアスは、感動のあまり涙を流したのであった。

「まぁエリアスがそう言うなら、間違いは無いとは思うが……いいさ、大将この事は、忘れてくれ」

この様子だと、アミリアは俺に大陸を征服して欲しい様だな。

だが何故だ?……後で調べてみるか。

「分かった。

では、今回の作戦はイザナ村を独立させて、反乱兵を1ヶ所に集めて叩くと言う流れで良いかな?」

『意義無し』

「では、今回は総大将を三好准将とし、佐倉大佐の黒騎士団(ブラックナイツ)とマクレガー大佐の魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)とギュドゥアン大佐の親衛騎士団の三騎士団は、三好准将の反乱鎮圧に回ってくれ。

ノイマン大佐とマクレガー中佐は引き続き、自分の騎士団の編成を頼む。

イザナ村には、俺が十字軍を率いて行こう。では各自の健闘を祈る、以上解散」

左近の掛け声で、その日から一気に左近衛府は慌ただしく動き出したのであった。

その夜のザルツ王国、王都レンヌの賑やかな酒場の一角に、白髪のルタイ人の老いた侍が一人で酒を飲んでいた。

他の土地では、ルタイ人は珍しく注目を集めたかも知れないが、レンヌでは内戦の時にルタイ皇国が介入してから、レンヌではルタイ人は珍しくも無い存在になっており、誰もが気にも止めなかったのである。

その彼に向かって、一人の決して美人とは言えないが、愛嬌のある娼婦の女性がフラフラとやって来て、侍の隣に座って彼に囁いたのであった。

「ねぇお兄さん、遊んでいかない?」

「……お前、国は何処だ?」

そう言った侍の眼光はとても鋭く、普通の者ならその眼光だけで逃げる程であったが、この娼婦は違ったのである。

「東の端にある、日の沈む国」

娼婦は、侍の耳元で、まるで愛を囁くかの様に言ったのである。

この合言葉を言った女性こそ、あのスカーフェイスであった。

「……首尾はどうだ?」

「ダメダメ、同業者とかち合っちゃってさ。

まぁこう言った事も珍しくは無いけど、あんた他の業者にも依頼したか?……いやそんな事は、どうでも良かったな」

そう言ったスカーフェイスは、まるでダメと言った、ポーズをやって言ったのであった。

「そうか……此方としても、少々事情が変わってな……」

「おいおい、今更キャンセルは無しだぜ」

「それは分かっているが、先ずは左近衛府に潜入して欲しい。そして、我等に情報を流して、我々の指示で……その先は分かるな」

「たかが潜入し、情報を流して殺る…簡単すぎる、そんな事は他の誰かにやらせな。私は殺しだけ請け負うよ」

「そうか、あの鉄壁の警備の中に潜入出来るのは、お前だけだと思ったのだが……残念だ、他を探すとしよう」

そう言った侍が残念そうに、椅子から立ち上がろうとすると、スカーフェイスはその腕を掴んで、言ったのであった。

「ちょい待ち、爺さん……詳しく話しな」

「……まぁ良いだろう。

通常の警備はもちろんの事だが、左近衛府の庭には、魔獣のヘルハウンドが放し飼いされ、出入りしている者の中には、思考が分かるスキルを持っている者がいる。

だがこれは、まだ生易しい方だ、一番厄介なのは、黒騎士団(ブラックナイツ)のレイヴンと呼ばれる10名の者だろう。

この者達は、一人で一国の軍隊数万を、叩き潰せる程の者と言われておる……中には、死んだ者でも頭の中から、情報を取り出せる者が、いると言った話だ」

「何だか、楽しそうだな……良いだろう、その依頼を受けるとしよう」

「そう言うと思っていた、これは当座の資金だ。潜入方法は任せる」

そう言うと侍は、テーブルの下で、スカーフェイスに金貨の入った袋を渡すと、スカーフェイスは中身を確認しないまま、さりげなくマジックバックに入れたのであった。

「確認しないのか?」

「あんた達ルタイ人は、支払いは良いからな」

「そうか……そうだ、前から気になっていたんだが、お前は女か?それとも男か?」

「さぁね、爺さん一度確認がてらに、試してみるかい?

まぁその時には、あんたの命は無いけどね」

そう言うとスカーフェイスは、立ち上がると、手をヒラヒラさせて出ていったのであった。

ルタイ皇国の者を使っても良かったが、まぁ大丈夫だろう。

そう思いながらその侍は、笑みをこぼして店を後にしたのであった。