Another Life

Operation Day 1

『えー!!!』

「アハハハ!」

早朝のナッソーに在る娼館に、集められた騎士達の驚く声と、爆笑するママの声が鳴り響く。

それもそのはず、娼館に入った信綱は、女性は娼婦に、男性は客に変装してスループ達を引き込み、室内で討伐せよと騎士達に伝えた所、騎士達の驚く声と、ママの爆笑する声が出たのであった。

「ちょっと待てよ真田殿。何で私達が娼婦に、変装しなくちゃならないんだよ!」

「そうですよ、ちょっとは年齢の事も……」

「あ?」

思わず信綱に詰め寄ったアミリアに、背後のエリアスが爆弾発言しかけて、アミリアに睨まれると、目を反らせて、慌てて弁解したのである。

「い、いや……ほら、客の話だ。保科大尉は、結構なお年だから、こんなにも年配の御方は、娼館には来ないだろうって事だよ」

そう言って、必死に言い訳をするエリアスに、政長は驚くべき事を言ったのである。

「ノイマン大佐。某は、まだまだ現役で、最近も行ったばかりですぞ」

「え!?……いや、すみません……」

思わずそう言ったのは、ガブリエラであった。

そして、動揺する室内で、ママがパンパンと手を鳴らして、言ったのである。

「ホラホラ、もう良いだろ?こんな事をしている間に、敵が来て作戦失敗してしまうだろ!早くしろよ。

奥に着替えは、既に用意してあるから、好きなのに着替えろ」

その言葉で、騎士達は作戦の失敗は、騎士団の名前に傷がつくと思い、仕方なく着替えに行ったのであった。

しかし、この店は待ち伏せに、本当に都合が良いな。

出入口は、一階に1ヶ所で、その一階は窓も何も無いし、最上階の3階まで吹き抜けになっており、それを囲うかの様に部屋が並んでいる。

更に、一階は酒場の様になっており、ここに娼婦と客が集まっていても、何も変じゃない……完璧な待ち伏せ地点だ。これは、2階、3階に弓兵を伏せた方が良かったかな。

そう思っている信綱に、ママが近付き言ってきたのであった。

「真田殿、後は私に任せて、行ってきな……そうだ、これ良かったら、使ってくれ」

そう言ってママがマジック・バックから取り出したのは、1つの焙烙玉であった。

「おい、これって焙烙玉では?」

「軍の物でも、何でも用意するのが、ハンザ商会で御座います」

そう言って、ママがニヤリと笑みを浮かべると、信綱も笑みを浮かべて、焙烙玉を受け取り、軍服に付いている、マジック・バックに収納して言ったのである。

「感謝する。では、ご無事で」

そう言ってママに一礼した信綱は、娼館を出て空を見上げると、雲一つ無い空が広がっていたのであった。

左近よ、絶対に生きて帰って来いよ。

そう思いながらも信綱は、持ち場の近くの道具屋に入って行ったのであった。

正午、娼館の中は、異様な雰囲気になっており、ママは二階から一階のスペースを、見下ろしていたのである。

何だこれ……まるで、お見合いみたいな空気じゃねえか。この人選考えた奴って、絶対に楽しんでるよな。

面白そうだし今度、作戦情報局に行こうかな……でも局長が、鬼島かぁ。私アイツ苦手なんだよなぁ。

そう思いながらも、ママは下の光景に、目を反らす事なく、葉巻に火をつけたのであった。

―――――――リュネ・ダニエル組――――――――

「おい、変な所を触ったら、殺すぞ」

そう言ったリュネは、ダニエルの膝の上に乗り、抱き付き耳元で囁いた。

「分かってるって……」

ああ、こんなの生殺しだよ。他の人達は……おい、マジかよ、触って良いのかよ!確かに考えたら、娼館で女性に手を触れないって、変だよな……これも作戦だ。

そう思いながらもダニエルは、自分の膝の上に座って、抱き付いている、リュネの胸に自分の手をそっと触れさせようとした時であった、うなじに何かチクッとした痛みを感じたのである。

そして、一瞬顔を歪めると、リュネが耳元で言ったのであった。

「今、邪心を感じたぞ。お前まさか……」

「い、いや、気のせいだ」

くそ~!こうなったら、胸の当たっている所に、意識を集中するんだ。

そうガッツリ邪心丸出しのダニエルは、目を瞑って意識を集中させたのであった。

――――――――アミリア・エリアス組――――――――

アミリアも、椅子に座ったエリスの膝に抱き付いており、何やら小声でもめていた。

「ほらエリス、胸でも揉めって」

「いや、それはさすがに、マズイだろう」

「バカかお前は。娼館で女性に手を出さないのは、変だろう」

「確かに、それはそうなのだが……いや、でも結婚していない男女が、そんな事をしてはならんよ」

「結婚していない男女が、そう言う事をするのが、娼館なんだよ。煮え切らない奴だな」

そう言ったアミリアは、エリアスの手を持つと、無理矢理服の中に手を入れて、何も言えずに赤面しているエリアスにキスをしたのであった。

―――――――ガブリエラ・政長組―――――――

「う、うわ~。ウチの団長とノイマン大佐が、あんなにも濃厚なキスをしていますよ」

そう言ったのは、政長の膝の上に座って、抱き付いているガブリエラであった。

「そうか、そうか。これで、二人が幸せになってくれれば、良いですな。

それにしても、リルソー少佐も、こんな老いぼれが相手では、大変でしょうが、我慢して下され」

そう政長が言うと、ガブリエラはそのまま身体を離して、政長を見詰めて言ったのである。

「そんな事は、ありませんよ。私は保科大尉が、良かったんです。

同じ騎士団の副団長でも、保科大尉は団長の仕事をされていて、本当に仕事が出来る、素晴らしい御方です……その、良かったら今後二人っきりの時は、ガブリエラとお呼び下さい」

「これは、これは。では、私の事は、矢兵衛とお呼び下さい。私の通称は矢兵衛ですが、誰も呼んではくれませんので、せめてガブリエラが、矢兵衛と呼んでくれたら嬉しいですな」

「分かりました……矢兵衛…その、キスしても宜しいでしょうか?

いや、そんな変な意味じゃ無くて、こんな場所では、そうするのが当たり前の……!!!」

そう言っている途中で政長は、ガブリエラの唇を奪い、ガブリエラもそれを受け入れて政長の頭に腕を回したのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

娼館で、騎士達が異様な雰囲気に包まれている中で、大通りを挟んだ向かいの路地には、既にスループ達がやって来ていた。

ここが、例の娼館だな。

そう思ったスループが、路地から顔を出して周囲を警戒すると、人は疎らで、近くの道具屋の前では、ルタイ人と栗色の髪の毛の女性が、何やらイチャついていたのである。

ルタイ人…しかし、良い歳だろうに、よくやるよ。だが、こんなにも人が疎らなのは、やはり襲撃の話が外に漏れているのか?

もしくは、作戦に参加している人数が、多いのか……やはり、死神と天使を連れて来て正解だったな。何かあれば、コイツらに来てもらえば良い事だし。

そう思ったスループは、振り返りワッカーに言ったのであった。

「あんた達は、ここで待機してくれ。何かあれば、助けに来てくれよ」

「了解した」

「では、行くぞ」

そう言ったスループ達は娼館の中に、入って行ったのであった。

それを見ていた、道具屋の前でイチャついていた女性が、男性に小声で話し掛ける。

「大佐、ターゲット1が中に入りました。泉龍寺からの情報では、そこの路地に、ターゲット2が居るそうです」

「了解した。では、始めようか」

そう言った男性は、信綱であった。

信綱は、自然に歩いて、わざと路地の前で何かを探す仕草をした。

その信綱の姿を見た、路地に隠れていたワッカーは、その仮面の下の生気を失った目が、大きく見開く。

器だ!

そう思ったワッカーの行動は素早かった。すぐに天使達に命令したのである。

「おい、器が居たぞ。彼処の黒髪の男だ、捕まえろ!だが能力は使うなよ!」

そうワッカーが言った瞬間、天使達は、信綱を追い掛けて走り出す。

お、来た来た!頑張ってついてこいよ!

そう思いながらも信綱は、襲撃地点目指して走り出すのであった。

そして、最後のワッカーが出てしばらくしてから、通信兵は念話で指令を出したのであった。

「こちら、デコイ1。ターゲット2が餌に食い付きました、始めて下さい」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

少し時間は戻り、スループ達が中に入ると、複数の男女が、抱き合いキスをしたりと、盛り上がっている。

そんな光景を横目で見ながら、スループ達はカウンターに座ると、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の騎士がカウンター越しに、スループ達に話し掛けて来たのであった。

「いらっしゃいませ、本日は、ご指名の女の子は居ますか?」

「いや、今日は客で来た訳では無い。俺達はグレゴール商会の使いで来た。ハンザ商会のママは、いるかい?」

「……失礼ですが、お名前は?」

「グレゴール商会のランド」

「……分かりました、少々お待ちください」

そう言って女の子は、二階に上がって行ったのであった。

スループ達は、四頭会の事を知ってはいたが、ママの顔も知らなければ、会合をやっている部屋も分からないのである。

なので、あえてスループ達は、この国での友好関係にある、グレゴール商会の名前を出して、会合のやっている部屋を確認する為に、そう言ったのであった。

その時であった、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の女騎士達に、作戦開始の指令が下る。

『作戦開始、娼館内の目標を駆逐しろ!

繰り返す。娼館内の目標を駆逐しろ!』

指令を聞いた女騎士達は、お互いの抱き合っている騎士に目で合図を出すと、リュネがおもむろに立ち上がり、短剣を背後に隠し持って、1人の男に近寄って行ったのであった。

「ねぇ、お兄さん。私を買ってみない?」

「おお、エルフか。中々良いじゃねえか。

スループさん。終わったら、こいつを買って良いですか?」

「お前なぁ、もう少し緊張感を持てよ」

そう言って、スループが呆れながら、ふと視線を上げた時であった。「グフッ」と言う何やら空気の抜けた声がして、視線を下げると、男はリュネに刺されていたのである。

罠だ!

そう誰もが思った瞬間、ガゴンと言う音と共に、扉に閂がかけられる。

しまった!

そう思ったスループは、周囲を見渡すと、この娼館には、窓が1つも無い。それに、ただの客だと思っていた者達は、抱き合って挟んでいたマジック・バックから、剣を取り出して、構えている。

もはや自分達は、完全に袋の鼠で逃げられないのだと悟ったその瞬間、スループが叫んだのであった。

「殺せぇ!一人でも多く殺せぇ!」

その言葉を合図に、娼館内部は修羅場になったのである。

エリアスと数名の女騎士は、扉を守り、他の騎士達は乱戦の中で戦っているのだが、その中でもずば抜けて動きが良いのが、リュネとダニエルと政長の3人であった。

リュネとダニエルは、剣で突かれても、空間転移の煙を盾の替わりにして、出る場所を確実に敵の背後に出現させていた。

これでは、自分の出した攻撃は、全て背後から自分に帰って来る。これでは、敵は攻撃するのに躊躇してしまい、二人はその隙をついて攻撃する。

まるで勇者の戦い方の基本が、あるのかとエリアスが、思うほどであった。

事実、ウェンザー王国の専属勇者には、勇者専用の戦い方の基本マニュアルがあり、彼等はその教本通りに戦っているだけだったのである。

そして、この中での唯一のルタイ人である政長は、完全に笑顔で戦いを楽しむ様に、刀だけで攻撃するのでは無く、拳を相手に叩き込む、膝の皿を踏みつけて、足の骨を折る等の、まるで戦場での戦い方であった。

そんな中で、包囲網を突破して、二階に上がった者がいた。そう、スループである。

彼は左肩に手傷を負いながらも、囲みを突破して二階に上がると、女性の入って行った部屋を目指したのであった。

そして、その部屋に近付いた時に、部屋の中から、黒い羽付のマントを着けたママが葉巻を吸いながら、出てきたのであった。

「ヴィシュク少佐、危ない!」

思わず叫んだアミリアであったが、ママは表情を何も変えずに、フ~っと煙を吐き出した瞬間、スループの両足が切断され、転がる様に倒れたのであった。

一体何が起こったのか分からないスループに、遅れて両足の激痛が走る。

声にならない叫び声を上げたスループの声に、修羅場であった一階の乱戦はピタリと止まり、全員が二階を見上げたのである。

そして、スループはやっと現状を理解し、ママの顔を見て言ったのであった。

「こ、これは、もしかして、魔糸……伝説の女傭兵、ソニア・ヴィシュクか!」

その言葉に、ママは目だけを動かして、スループを見下したかの様に睨むと、葉巻を吸いながら言ったのであった。

「その呼び方は、嫌いなんだよ。ここでは、ママと呼びな」

その言葉で、スループ達は、今まで誰を狙っていたのか理解して、他の者は戦意を喪失したのだが、スループだけは違ったのである。

「貴様、俺を殺しても、こちらには天使と死神が居るんだ。貴様は、どうせ死ぬんだよ!」

その言葉を言った直後に、剣を持っていた右腕が斬り落とされ、仰向けになり、声にならない叫び声を、再びあげるスループに、ママはスループの額に葉巻を落とした瞬間、葉巻の火を消すように踏みつけて言ったのであった。

「そうかい、天使と死神がねぇ……でもねぇ、こちらには、死神の王と神様がついて居るんだよ。

三下連れて、ピーピー喚いてるんじゃねえよ」

そう言った瞬間、スループの身体は細切れの様に、斬り刻まれたのである。

それを見てか、他のスループの仲間達は、武器を捨てて降伏の意思を示したのだが、ママの目は更に冷酷な目となり、政長に言ったのであった。

「なぁじい様。コイツら降伏するってさ黒騎士団(ブラック・ナイツ)の私達に。

で、どうする。私達って、そんなに甘かったかい?」

その言葉に、答えた政長の言葉は、冷酷なものであった。

「そうですな、降伏すると言うのならば、降伏を受け入れれば宜しいかと。ただ……我等への降伏とは、即ち死ですが」

「だな」

そう言った瞬間、ママは指をパチンと鳴らすと、政長の言葉で絶望していた男達の首が、一瞬で斬れて床に転がったのである。

何だよ、勝負は終わったじゃねえかよ……それに、この圧倒的な力。これがレイヴンって奴等なのかよ。

いや、それだけじゃない。保科大尉は、笑顔を見せる余裕さえ、この戦いで見せていた。クソッタレ!騎士団の中じゃ、私達騎士団が一番弱いじゃないか!

そう思い、悔しさに震えているアミリアに、エリアスは心配になり後ろから声をかけた。

「おい、アミリー。大丈夫か?」

「エリス……私、強くなりたい」

あれ?何かこんな光景、以前にもあった様な……そうか、ドレイヤー城の撤退戦の時だ。あの時は俺があの姿になって、俺とアミリーとライは助かり、アミリーは俺が嫌っている、あの姿にさせた事を悔やんで、同じ事を言ったんだっけ。

そう思いながら、懐かしくなったエリアスは、アミリアの横に立つと、アミリアの肩に手を乗せて言ったのであった。

「俺も、協力してやるよ」

「……すまん」

そう言ったアミリアは、魔女騎士団(ナイト・ウィッチーズ)の改革を決意したのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

その頃、信綱はワッカーや天使達を襲撃地点に誘導する為に、ナッソー新区画の東区の川沿いを走っていた。

天使達は、まるでターミネーターの様に、疲れを見せる事無く、信綱を追って来る。

か、完全に失敗した。襲撃地点を、もっと近付ければ良かった……クソッ!アイツら化け物かよ!

……そう言えば、化け物だったな。

そう思いながら信綱が走っていると、バリスの腕が信綱に近付き、信綱を捕まえようとした時である。

バリスの腕に、何処から飛んできたのか分からないが、矢が刺さったのである。

バリスは、思わず足を止めて周囲を見渡すが、誰も弓矢を放った様な者はいない。バリスは腕の矢を引き抜くと、再び信綱を追い掛ける為に走り出したのであった。

おい、今のってクロエ殿の矢だろ?って事は、あの離れた場所から弓矢を放って、腕に当てたって事かよ。

ありゃまさに、天下一の弓使いだな。しかし、これで少しは距離を稼げた。

そう思った信綱は、目の前に架かる橋を渡り、何とか西区の7番街の路地に入る事に成功したのであった。

天使達の肉体は、男性のバリスと、女性のサリーやルーズ達と、やはり肉体の差が出たのか、信綱の狙い通り離されて行く。

そして数度、路地を曲がった所で、空き家に隠れていた、連合軍の魔導師がクレイ・ウォールでバリスが通った瞬間に道を塞ぐ様に壁を作る。

すると、見失いながらもサリーとルーズの二人の天使達は、気付かずに、そのまま別のルートを走っていくのであった。

しかし、サリーとルーズの二人は、似たような体型なのか、中々距離が離れる事は無い。

屋根を走って移動しながら、タイミングを伺う兵庫と昌恒は、ここである作戦に出た。上空のビヨンド・ザ・シーカーに向かって、下を指差し、ここに誘導しろとジェスチャーをすると、上空のビヨンド・ザ・シーカーの1つが、まるで頷く様に動いたのであった。

それを確認した二人は、まるでお互いが何をするのか、分かっているかの様に、兵庫は屋根で待ち受け、昌恒は、その下の室内に入って行ったのである。

やがて、ビヨンド・ザ・シーカーを操るグルシュクの指示で、連合軍の魔導師達は、空き家の内部を移動しながら、クレイ・ウォールで壁を作っていき、サリーとルーズを兵庫達の元に、誘導していく。

そして、天使達二人が兵庫達のいる建物の前に、来た瞬間であった、突如目の前に壁が出て来て、驚きで足を止めた瞬間、兵庫が飛び降りて、サリーの背後に降り立つと同時に、背中の羽を斬ったのであった。

そのあまりの出来事に、前にいたルーズが振り返った瞬間、建物のガラスを突き破って飛び出た昌恒は、その勢いのままルーズの羽を斬ったのである。

そのあまりにも美しい連携に、ビヨンド・ザ・シーカーで見ていたグルシュクは、思わず「ほう」と口にしたほどであった。

何が起こったのか、理解できていない天使のサリーに、兵庫はそのままタックルを仕掛けて、建物内部に突っ込む。

これは、ジャンプして逃げられない様に、閉鎖された空間で戦い確実に殺すためであった。

一方、昌恒は自分の肩に、刀を乗せてルーズを睨み付けて言ったのであった。

「何処の誰かは知らんが、そいつは強い者に付いていく、どうしようも無い奴だと思われていたが。

ただ、自分がイジメられない為に、必死で足掻いていただけの、俺の可愛い生徒の身体なんでな……返して貰うぞ」

そう言った昌恒は、ルーズに袈裟斬りで斬りかかると、ルーズはその手で刀を横から弾き、抜き手で昌恒の顔面を狙って攻撃したのである。

だが、昌恒もそんな事は戦場で、何度も経験しているのか、頭を傾けて抜き手をかわすと、そのままルーズの顔面に頭突きを放ったのであった。

「グ…ギ……」

思わず鼻を押さえて、後退りするルーズは、そのまま全体が銀色の短剣を、袖からストンと出すと、昌恒に向かって構えたのである。

「ようやく、本気になったって事かい。そうで無ければ、楽しみがねえよ!」

そう言った昌恒は、狂気に取り付かれた笑顔になり、ルーズに斬りかかると、ルーズも間合いを詰めて、確実に昌恒の、みぞおちを狙って短剣を突いてくる。

しかし、昌恒はクルリと回転して、刀の柄でルーズの後頭部を、ぶん殴ったのであった。

そのまま、前に倒れたルーズの背後から、動きを止める事なく昌恒は追い討ちをかける。

昌恒は、そのままルーズの背中を踏みつけて、何も言わずに、後頭部から刀を突き刺したのであった。

その瞬間、ルーズはピクピクと動くいた瞬間、いきなり真っ黒な灰になり、灰だけがルーズの痕跡を残していたのであった。

……これで、殺せたのか?

そう思った瞬間。ドーン!と言った、大きな爆発音が鳴り、周囲のガラスが震えたのであった。

な、何だ、今の音は!?

まさか、御館様が……しかし、今は兵庫の加勢に行くのが、常道だな。

そう思った昌恒は、兵庫の元に向かって行ったのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

先ほどの爆発音は、何だったのだ?

そう思っていた兵庫は、身体中傷だらけで、天使の入ったサリーと、空き家の建物内で向き合っていた。

サリーの右手には、兵庫の血が滴る銀色の短剣。兵庫とは対照的にサリーの身体は全くの無傷であった。

さっきから斬っても、斬っても、直ぐに傷が治り、腕まで生えやがる……蜥蜴の尻尾かよ。しかし、カイン殿よ、何処がチョッと力の強い生物だ。とんでもない、化け物ではないか。

それに、速さが尋常では無いので、突きの点の攻撃では当たらん。さて、どうしたものかな。

兵庫がそう思うのも、無理はなかった。サリーは先ほどから、死神に発覚するのも恐れずに、天使の力を少し使っていたのである。

そう思っている兵庫に向かって、サリーが一瞬だが腰を落とした。

来る!

そうの瞬間、サリーの姿が、兵庫の前から消えたのである。

右…いや、左か!

兵庫が左に視線を向けると、サリーは既に短剣を突き刺す体制になっていたのである。

「クソが!」

そう叫んだ兵庫は、左手でサリーの短剣を突き刺されながらも受け止め、刀をサリーに横薙ぎで斬ろうとすると、サリーは左の手刀で刀を握っている手を狙い、刀を叩き落とし、兵庫の足を刈り、柔道の内股の様に倒すと同時に、兵庫のみぞおち目指して、全体重を短剣に乗せたのであった。

だが、刀を叩き落とされた、兵庫の切り替えは素早かった。彼は素早く左手を支えて、倒れながらも、サリーの全体重を受け止める。

ドスンと言った音と共に、埃が舞いその中で、兵庫はサリーの攻撃を何とか耐えきった。

しかし、サリーの攻撃は、止まらず、更に強い力で、兵庫の身体に突き立て様とする。あのレントの攻撃を片手で受け止めた、兵庫の力でも止める事は出来ずに、じわりじわりと短剣の切っ先が、兵庫の身体に近付いてきた。

マ、マズイ……

兵庫は、足で何とかしようとしていたのだが、身長差もありすぎている上に、更には綺麗なマウントポジションで、身体ごと短剣に寄り掛かっているために、どうする事も出来なかったのである。

ここで初めてサリーが、天使とも思えぬ悪魔の様な顔で、兵庫に顔を近付けて言ったのであった。

「人間ごときが、よくやった方だが、だがこれで詰みだ。さぁ偽りとは言え、私の顔を見ろ!これが、お前を殺す者の顔だ。

この顔を見ながら、消滅するが良い。アハハ!……ガッ!」

サリーの思いっきり開けて笑った瞬間であった、口から刀の刃が突き出て、兵庫の鼻先で、ピタリと止まりったのである。

そして、その体勢のまま、ギロリとサリーの目が動いた瞬間、真っ黒な灰となり、兵庫に降り注いだのである。

「うわっ!」

「女とお楽しみの途中で、すまないが……邪魔しなかった方が、良かったか?」

必死にサリーの灰を払った兵庫の目の前には、笑顔で手を差し出す昌恒の姿があった。

「いや正直、助かったよ。しかし、この灰は無害であろうな?」

そう言った兵庫は、昌恒の手を握って、身体についた灰を払いながら言うと、昌恒は笑顔で兵庫に言った。

「心配せんでも、お前は殺しても死なんよ」

「酷いでござるなぁ。それにしても、先ほどの爆発音は、何だったのか……分かるか?」

「さぁな。しかし、我が御館様の事が気掛かりだ……」

「では、信綱殿を探しに向かうか」

そう言った二人は、信綱を探しに向かったのであったのだが、二人は外に出てビヨンド・ザ・シーカーが消えている事に気が付いたのである。

これは、確実に何かあったな。

そう思った兵庫と昌恒の二人は、足早に信綱を探しに行ったのであった。