Another Life

The heart of the kingdom

身体が暖かい……この暖かさは何だ……

そう思いながらもパチリと目覚めた左近の目には、褐色肌の二つの柔らかそうな山が見えていたのであった。

ここは、ナッソーの俺の寝室か。額に置かれているこの手の感触からすると、ニーナ陛下が俺を助けてくれたって所か。それにしても……いつも居るはずのアイリス達がいない。

目だけを動かして周囲を見る左近の目に、部屋の扉が開くと、シャノンが「失礼します」と、ニーナの飲み物を持って中に入ってきて、左近の目が開いているのに気が付き、左近に声をかけたのであった。

「あら、気が付かれたのですか」

その瞬間、ニーナが左近の額を軽くパチンと叩いて言ったのである。

「気が付いていたのなら、何かリアクションを取れ」

「いや、この膝枕が気持ち良かったので…痛っ」

そう言った左近の頬をニーナはつねると、立ち上がり言ったのである。

「次は、治療費と膝枕代は貰うからな」

「出世払いは、出来ますかね?」

「これ以上、どう出世するつもりだ、バカ者。とにかく30日間は、傷1つ負うなよ。

シャノン、こいつを鎖に繋いで監禁しておく事をすすめておく。コイツ、絶対に国王って自覚は、無いだろうからな」

そう言って苦笑いして出ていくニーナに、シャノンが苦笑いしながら頭を下げて見送り、点滴の準備を始めるシャノンの横で、倒れる左近が「酷い言われようだな」と言って暫くすると、自分の腕に点滴を刺そうとしているシャノンに質問したのである。

「なぁシャノン。他の皆は?」

「奥方様達は、何やら落ち込んでおられ、レイクシティに戻られました。マイスナー中佐は、内木中尉と何やら話された後で、閣下の血液型がA型と聞いて、落ち込みながら、内木中尉を送って行かれました」

まぁ、伊賀の件で、アイリス達が来ないのは分かるけど、何でクロエが落ち込むんだよ。

「何で、クロエが落ち込んでいるんだ?」

「さぁ。「何で閣下がA型なんだよ」と叫んでいましたが」

……あ、もしかして前に教えた血液型の性格の話か。ちょっと待てよ!それで、落ち込むって変だろう、俺って何処から見ても、几帳面の誠実な男性じゃねぇか。

そう思いながらも、「そうか」と言った左近に、シャノンが驚く事を言ったのであった。

「そう言えば、クロエ様に議長閣下が話されていたのですが、閣下が一時帰国していると聞いた貴族の方達が、途中報告したいと言ってきていると、話されておりました。中尉を送った後で、報告会の調整をするそうです」

このパターンって、明日にでもクロエに連れて行かれそうだな。覚悟しておくか。

「なぁシャノン。明日には、動ける様になるか?」

左近の質問に、シャノンは傷口を確認して答えたのである。

「さすがは、ニーナ陛下ですね。傷口も塞がっておりますし、もう大丈夫でしょう。

後は、何か精力のつく食べ物を食べて下さい。肉や魚、卵に乳製品も良いですね」

……つまりは、血が足りないって事か。

「了解した。バスティに言っておこう」

そう言って目を瞑る左近に、シャノンは呆れた様に言ったのである。

「こんな事を言うのは、失礼になるかも知れませんが、言わせて下さい。閣下は、私も含めて、奴隷達の希望です。

戦で万が一の事がありますと……申し訳ございません、出過ぎた事を言いました、お許しを」

そう言って頭を下げるシャノンに、左近は笑みを浮かべて言ったのであった。

「俺は、筋の通った意見には、耳を向ける……確かに、シャノンの言う通りだな。この皇国の内戦を最後に、戦場に出るのは止めるよ。すまなかったな」

「私などの進言を聞き入れて頂き、誠にありがとう御座います。では、この点滴が終わりましたら、私はルゴーニュに戻りますね」

「ああ、ドクに宜しくな」

そう言って、左近は枕の感触を確かめる様に、頭を埋めたのである。

そりゃそうだよな。ルタイ皇国じゃ無いので、国王自ら戦場に向かうって、余程の事でなければ、大陸の国民からすれば、不安も当然だ。それに帝も言っておられたな、大木の元では、大木が育たないと……ここいらが潮時か。

そう思いながらも、左近はいつの間にか眠りの世界に旅立って行ったのであった。

やがて、何れ程時間が経過したのか、左近はベッドの上に誰かがソッと乗った気配で、目をパチリと開けると、暗闇の中に、墨壺と筆を持ったパンドラが「あっ」と言って固まっていたのである。

「……お前、前から思っていたのだが、普通の起こし方は出来んのか?」

そう言って左近は周囲を見渡すと、シャーリィが不安そうに立っていたのであった。

シャーリィだけか……クロエが一緒に寝てなくて、正直助かった。

「それで。こんな夜中に、何の用件だ?」

左近の質問に、パンドラは筆と墨壺をアイテム・ボックスに入れると、左近の隣にゴロンと寝て、話し出したのである。

「先ずは、伊賀の報告から。名張城に立て籠った摂津守は、兵の命を助けるのを条件に切腹。

清信も受け入れて、兵の命を助けたけど、全員御家取り潰し。本隊は、明日に伊勢に向けて出陣。数が多いから私達は三日後よ」

「何とも無難な仕置きだな。まぁ清信らしいか……それで、そんな報告を伝えに来た訳じゃ無いんだろう?」

左近はそう言ってパンドラを見ると、パンドラはモソモソと左近に近付き言ったのである。

「シャーリィが、自分のお父様には、不老不死になる事だけでも伝えたいんだって。でも、シャーリィのお父様は領地視察に行っているでしょ?何とかして、呼び戻して欲しいのよ」

まぁ、シャーリィの気持ちを考えたら、無理も無いわな。そう言えば貴族連中が、途中報告があるって言っていたよな。

「分かった、手配してやろう。明日から貴族の途中報告があるらしいので、お前達も来い」

「ええ、良いわよ……今日、このままシャーリィと、泊まっていって良い?」

コイツ、今日は俺しかいない事を知っているな?って事は、あれですか!……覗きたい。命を賭けても覗く価値はあるだろう。しかし、体調が……

「自分の家に、泊まる許可は要らないだろう、泊まって行けば良いさ。でも、シャーリィの寝床の用意は、誰もいないから、自分達でやれよ。何なら、俺の隣で寝させるか?」

その言葉に、パンドラは左近の額を軽く叩いて、起き上がり言ったのであった。

「冗談でも、次に言ったら殺すからね」

おお、嫉妬ですか。良いね。

「パンドラ。愛しのお父さんに、お休みのキスは?」

「死ぬ間際にしてやるよ、クソオヤジ」

それ、永遠の眠りになりますやん。

そう思いながらも、左近は優しい顔で、出ていく二人を見ていたのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

この日、ウェンザー王国の王都ナボスは、数十万の軍勢に囲まれており、その白亜宮は既に通常の兵士達は逃げ出していた為に、残るは国王一家と、その奴隷兵士のみになっていたのである。

その白亜宮のエントランスに、無人の広野を歩く様に進む四人がいた。アルと高明とリリス、そして三人の先頭を歩くのは、傷だらけの黒いフルプレートの者で、その兜の奥には、全ての者を憎んでいるかの様な、赤い目をしており、その顔の皮膚は、時おり何かが動いているかの様に動いていたのである。この男こそ、魔王となり、リリスの眷属となったルイス・セレニティであった。

歩く四人が、テラスに入った時であった、周囲から待ち伏せしていた、二階ほどの高さで四人を囲った奴隷兵士の放った弓矢が飛んで来たのであった。

タイム・アクター

次の瞬間、時が止まり、飛んで来た弓矢をリリスが全て刀で弾き、時が動き出したのである。その様子を、アルと高明は当然の様にしていたのだが、奴隷兵の驚きは尋常では無く、その驚きを知ってかの様にルイスが人間とは思えないジャンプ力で、二階ほどの高さにいた奴隷兵の所までジャンプしたのであった。

兜の奥の人間とも思えない、赤く光る目に恐怖に取り付かれたのか、奴隷兵達はルイスに斬りかかったのだが、いくら剣や槍を突き刺しても、倒れる様子も無く、驚く奴隷兵を真っ二つに斬ったのである。

「殺す…殺す…左近…殺す……」

そのルイスの言葉が、奴隷兵達にはまるで念仏の様に聞こえて、恐怖を増幅させ身体を動けなくさせ、ルイスは無表情で兵士達を殺していったのであった。

「やはり、罠だったか。こんな奇襲をするのは、大陸では珍しい事だが、向こうも必死なのだろうな。

それにしても、いつもながら、あのルイスってのは、凄まじいな。もう、慣れてしまったが、あの化け物に比べたら、死神の方を雇ったら良かったかな」

顎に手を置いて、ルイスの戦いを見ながら思わず呟いたアルに、リリスが刀の刃を見ながら、アルに言ったのである。

「残念だけど、ラーズは売り切れだよ。前に、ヴェルが言っていたもん」

「それは仕方がないが。あいつ、本当に大丈夫だろうな?

どう見ても、頭の弱い化け物にしか見えないのだが……なぁ、高明」

いきなりアルに話を振られた高明であったが、高明は苦笑いで答えると、リリスは刀を鞘に納めて振り返り言ったのであった。

「大丈夫よ。その為に、あいつの頭の中に、呪従虫を埋め込んでいるから、私の言いなりだよ」

吸血鬼って、そんな虫を使うのか?

「間違っても俺には使うなよ。リリス、そろそろ、あのルイスとか言う化け物を隠せ。

高明、リリスがルイスを影の中に入れたら、兵を入れて一気に制圧するぞ。もう待ち伏せの兵力も、残って無いだろう」

「了解、確かに彼処までの化け物っぷりは不味いよね。ルイス、戻っておいで!」

リリスの命令に、抗おうとしたルイスであったが、何やら苦しみだして頭を抱えると、憎しみの目でリリスを睨みながら、影の中に入って消えたのであった。

……完全にリリスが、憎しみの対象になっているな。あれを見ていたら、主人を俺にしなくて良かったよ。

そう思いながら、アルは入ってきた兵士を数名引き連れて、玉座の間に向かったのであった。アルの予想通り、奴隷兵の数は多くなく、白亜宮の唯一の入り口での待ち伏せ以外に、たいした抵抗も無く、制圧していったのである。

命を奪われる奴隷兵の声を聞きながら、アルは豪華な扉の前に立ち、勢い良く扉を開けて中に入ると、木製ではあるが、細工が施された豪華な椅子に、片目を眼帯に隠して、右手に手袋をはめたギレルモが血走った目で、鬼の様な形相で身体を震わせながら、ただ一人座っていたのであった。

その中で、中に入ったアルは両手を広げて、笑顔でギレルモに話し掛けたのであった。

「陛下、お久し振りですねぇ!」

アルの言葉に、ギレルモはギロリと睨み付けて、言ったのである。

「何が久し振りだ、ヴァレンシュタインめ。貴様、伯爵に取り立てた恩を忘れて、ルタイ皇国と手を組んだのか?」

ギレルモの言葉に、チラリと後ろの高明を見て、アルはギレルモが、どうしてこう言ったのか理解して、近付き答えたのである。

「ああ、こいつはルタイ皇国とは、関係無いですよ。土御門 高明と言う、俺の優秀な軍師です。

あんたは東部連合にケンカを売り、自ら助かりたいが為に、国民の財産を東部連合に差し出し、下らないプライドの為に、国民にも言わずに、ただ重税を課すだけ。そんな者に、国を任せる訳にはいきませんなぁ。

いやぁ、正直楽でしたよ。陛下が、自ら贅沢をする為に、国民に重税を課していると噂を流せば、民や下級の兵士は、喜んで私の仲間になり、門を開いてくれましたからね」

その時であった、兵士が飛び込んできて、アルに報告したのである。

「ご報告します!王子達の寝所で、王子達が頭を割られて死んでおりました!」

兵士の報告に、アルはピタリと動きを止めて、蔑む様な顔でギレルモに言ったのである。

「……あんた、息子を殺したのか?」

アルの言葉に、兵士達もギレルモに蔑む視線を向けていると、ギレルモが狂気の笑顔で答えたのである。

「どうせ、貴様ら愚民どもに殺されるのだ。せめて我が手で殺してやるのが、慈悲と言うものであろう!」

クソッタレにも、限度があるだろう。

「コイツに猿轡をして捕らえろ!民の前で、処刑してやる!」

アルの命令に、兵士達はギレルモを捕らえると、ギレルモは気が狂った様に笑いだし、アルに向かって様々な暴言を吐きながら、連行されて行ったのであった。

その静寂に包まれた部屋で、リリスが玉座に近付き指でなぞりながら、アルに言ったのである。

「ねぇアル。この玉座に座ってみたら?」

「そうです、リリス様の仰る通りです。ヴァレンシュタイン伯爵こそ、この玉座に相応しい御方です」

そう言った部隊長の様な兵士の言葉に、アルは笑みを浮かべて玉座に近付くと、リリスは座りやすい様に少し離れた瞬間であった。アルは腰の剣を抜くと、玉座を斬り、真っ二つに破壊したのである。

その光景に驚く兵士達に、アルは振り返り言ったのであった。

「こんな、過去の栄光にすがり付く、プライドだけが高い国はいらん。俺は、新しい国を作り、この大陸を統一して、新たなる秩序をこの世界に与える!」

その言葉に、誰もがアルは新しい超帝国を作るのだと理解し、思わず心を震わせていたのであったが、高明はため息をついて言ったのである。

「はぁ……大陸を統一するのは良いけど、それって僕が楽を出来ないじゃないか。頼むから、僕の言う通りに戦をしてほしいよ」

高明の言葉に、高明の苦労を知っている者は笑みを浮かべていると、兵士がやって来て、アルの前に跪き報告したのであった。

「ご報告します。ギリシス教のロルフ大神官と、傭兵ギルドのラース総帥が、ヴァレンシュタイン伯爵に面会を願い出ております」

「俺に……高明、何か違和感を感じないか?白亜宮を落とした直後にとは、変だろう」

その言葉に、高明は羽扇で口を隠して、暫く考えて言ったのである。

「ルタイ皇国の言葉に、虎穴に入らずんば虎児を得ずと言う言葉があります。ここは会って、彼等の話を聞きましょう」

ルタイ皇国の言葉の意味は全く分からないが、高明の言葉はもっともだな。

そう考えながら、チラリとリリスを見ると、リリスは何かあっても、自分を守ると言わんばかりに頷くのを確認して、兵士に向かって言ったのである。

「分かった、連れて来い。他の者は、生き残りの捜索と、ギレルモが民より集めた財宝を、何処かの部屋に集めろ」

そう言って、警護の兵士を残して、アルは真っ二つになった玉座の手摺に腰掛けていると、暫くして大きな扉が開き、ロルフとラースがやって来たのであった。

二人は、アルの前までやってくると、リリスが「そこまでだ」と言って、二人の前に出ると、二人は足を止めて平伏し、ロルフが言ったのである。

「この度の戦勝、誠におめでとう御座います。それで、少し御内密にお話したい事が、伯爵と、そのルタイ人の御方にあるのですが……」

そのロルフの言葉に、アルがチラリと高明を見ると、高明は静かに頷く。

虎穴に入らずんば虎児を得ずか……

「分かった。このリリスも、護衛として残っても良いかな?」

「致し方ありませんな」

ロルフの言葉を聞いて、アルが手をあげると、兵士がそのまま出ていくと、静かになった部屋で、アルはパンと手を叩いて言ったのである。

「では、話を聞こうか」

アルの言葉に、ロルフは少し動揺しながらも話し出したのである。

「実は、IDCUは神の啓示を聞いて、ダンジョンの位置を知り、動いております。今までの神の啓示は、ダンジョンの位置を報せるだけでした……それが、初めてダンジョンとは関係無い啓示が来たのです」

ロルフの言葉に、興味が出たのか、アルは少し笑みを浮かべて質問したのである。

「その啓示とは?」

「ヴァレンシュタイン伯爵と共に居るルタイ人に、東部連合の佐倉元帥の元に行かせて、神の子を作れ。さすれば、そのルタイ人の罪は洗い清められるであろう」

思いもよらぬ言葉に、アルは驚き、高明を見ると、高明は本気で嫌そうな顔で言ったのである。

「嫌だよ。だって、内府は男だよ。男と子供を作れって、僕にはそんな趣味は無いし、そもそも男と子作りって無理だろう」

その高明の言葉に、誰もがキョトンとしていると、リリスが爆笑し出して、涙目で高明に言ったのであった。

「アハハ!高明、あんたバカじゃないの?普通は、そんな直接的な事だと思わないよ。本当にバカでしょう」

リリスの言葉に、高明は顔を赤くして言ったのである。

「リリス、いくら温厚な僕でも怒るよ……違うの?」

そう言って、キョロキョロとする高明に、アルが高明に近付き、肩に手をかけて言ったのである。

「高明、神のお言葉は、謎めいているものなんだ。それに、お前が温厚だと、世界中の者が温厚って事になるぞ」

「ちょっとアル。それ酷いよ」

そう言って怒る高明に、アルは笑顔で応えると、ロルフに言ったのである。

「大神官、此方は了解した、その啓示に従うとしよう。リリス、俺達が東部連合に行っている間は頼むよ。

ちょうど良かったよ。俺も東部連合の佐倉元帥とは、話があったし、ちょうど良い機会だ。高明、東部連合に行こうか」

そう言ったアルは、笑顔でロルフに言ったのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

翌日、左近の眠りを妨げる様に、ノックの音が聞こえて、現実の世界に戻されたのである。左近は眠たい目を擦りながら身体を起こして言ったのであった。

「誰だ?」

「クロエです……入っても?」

「ああ、入ってくれ」

左近の言葉で、クロエが中に入って来ると、その手には軍服を持ってきており、まるで新妻の様だと思いながらも言ったのである。

「おはよう、クロエ。まるで新妻の様だな」

その言葉に、クロエは耳まで真っ赤にしながらも、軍服を置いて言ったのである。

「卑怯ですよ、その言葉は。それはそうと、本日は議長閣下の要請で、貴族の御方達の途中報告を聞く会議になっております。

せっかくの休日を潰してしまい、申し訳ございませんでした。まぁこれも、勝手に伊賀に行った罰だと思って下さいね」

なるほど、些細な嫌がらせって事か……しかし、嫌がらせになっていない所が、クロエらしい。

そう思いながらも、軍服に着替えた左近が、クロエと共に二階に降りると、左近は幾つもの部屋が並ぶ廊下に向かい、叫んだのである。

「パンドラ、シャーリィ!そろそろレイクシティに行くぞ!」

「ヤバッ、シャーリィ寝坊した!シャーリィ起きて!」

「パンドラ、髪の毛が爆発してますわよ!」

その声が聞こえて、バタバタと音が聞こえるのを聞いたクロエは、左近の方を見て、驚きながら言ったのである。

「今日の事を、知っていたのですか?」

「クロエの嫌がらせ……可愛いと思うぞ」

そう言って、ポンポンとクロエの頭を優しく撫でる様に叩くと、口を尖らせて拗ねるクロエを連れて、レイクシティに向かって行ったのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

レイクシティの左近の邸宅に到着し、使用人達の挨拶を受けてダイニングに入ると、アイリス達が複雑な顔をしながらも座っており、アイリスが左近に申し訳無さそうに言ったのであった。

「清興、あのね…その伊賀の事だけど……」

「その伊賀だが、どうやら昨日制圧できた様だ。俺(・)も(・)病(・)気(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)が、体調も良くなった。皆に心配をかけて、すまなかったな」

その左近の言葉は、暗に皆は伊賀に居なかった事になっている。だから何も無かったので、これ以上は言うなと言っているのと同じ事であり、それを感じたアイリス達は、何も言えなくなっていたのであった。

やがて、朝食を済ませた頃に、パンドラとシャーリィがやってくると、一緒にイリナとクラウディオもやって来たのであった。

「いやぁ、玄関で会ってね。何だかお父様に、お願いがあるみたいだよ」

お願いが……嫌な予感しかしないのだが。

「何でしょうか、后妃様。まぁ立ち話も何ですから、座って下さい、クラウも。バスティ、紅茶をお二人に」

左近に促されて、座るイリナは、出された紅茶に口をつけて言ったのである。

「シスター・メアリーに聞いたのですが、メスト大司教様自ら従軍されておられるとか?」

「ええ。教会と寺から、派遣するので入れろと帝から言われましたので、仕方なくね。でも。それがどうしたので?」

そう言って、イリナが何を言いたいのか分からない左近であったが、次の言葉で誰もが驚く事になる。

「クラウは、将来セレニティ帝国を背負う、生まれながらの皇帝です。皇帝として、暫く貴方の働きを見せて頂きたいのです」

「いや、ちょっと待って下さい。俺は、今は一時帰国していますが、戦場に戻るんですよ。さすがに危険ですよ!」

そう言って断る左近であったが、イリナは紅茶を飲みながら、一言だけ言ったのである。

「ソルテールの賠償金……」

「え?」

「もしも認めれば、ソルテールの賠償金の残りを、チャラにしてしてあげようと言うのです。これは、皇帝陛下も了承しています」

ソルテールの賠償金……あの、セシルがやらかした都市の賠償金か。まぁ確かにあの賠償金は、分割にしてもらってるが、かなり財政を圧迫しているしなぁ。認めるしかないか。

「訳を聞いても?」

「実は、先日父が亡くなりました。皇帝陛下もかなりの高齢で、いつ何かあってもおかしくありません。

陛下に何かあり、このままいきなり皇帝になるよりは、少しでも学んでいれば、帝国は安泰でしょう。それに元帥殿は、これから国を一から建国すると聞きました。ならば、クラウも何か勉強する所も、多いでしょう」

「それは御悔やみを……でも、戦にも、連れていくので?」

「ええ、勿論です。人の生死を見るのは早いと思いますが、戦とはどう言ったものかを見るのは、皇帝となるクラウにも、良い経験になるでしょう」

后妃様って、かなりのスパルタだな。仕方がない、護衛を誰か専属でつけるか。

そう思いながら、左近が了承しようと思った時であった、佐吉が口の回りに、ソースをいっぱいつけて、言ったのである。

「俺もクラウと一緒に行きたい。一緒に行って、悪い敵をいっぱい倒したい!」

おい、偉大なるクソガキよ。何で、お前まで……

そう思い、驚く左近にバスティが耳打ちしてきたのであった。

「実は、佐吉様は麻子内親王様に、けっこうやられておりまして……逃げ出したい、だけなのかも知れません」

頭が痛い……そう言えばパンドラが、内親王様にやられて、佐吉が女嫌いにならなければ良いけどって言っていたよな。俺の息子が、同性に目覚めるってのは考えにくいけど、パンドラって前例もあるし……一人も二人も同じか。

それに、藤次郎も佐吉と離れて、オモチャを取り上げられる事も無いので、羽を伸ばせるだろう。

「分かった、佐吉も来い」

「ちょっとあなた!」

そう言って、さすがに止めようとするアイリスに、左近は手を出して止めると、真剣な顔で言ったのである。

「クラウとは違い、佐吉は武家の子供だ。いくら佐倉家が王族になろうが、それは変わらない。かなり早いと思うが、学べる時に学べるのは、良い機会だ。

それに、話で聞くよりも、実際に見て、その肌で感じる方が、学べる事も多いだろう。まぁ誰かを、専属の護衛につけるよ」

「でも……」

そう言って心配そうに言うアイリスであったが、任せてと茶々とセシリーに合図を出され、左近は頼むと頭を軽く下げると、左近はクラウと佐吉に向かって言ったのである。

「クラウ、佐吉。一緒に行動するにあたり、これだけは俺と約束してくれ。

俺の言う事は、絶対に聞く。分からない事は、後で教えるから、その時は黙って静かにしておく。亡くなった者には、敵味方関係無く、敬意を持って接する……守れるか?」

左近の真剣な言葉に、クラウは幼いながらにも真剣な顔で頷いていたのだが、佐吉だけは、お気楽な感じでいたのであった。

クラウは大丈夫だろうが、うちのクソガキは……本当に何処かでガツンと、怒ってやらなきゃならんだろうな。でもコイツは、懲りる事を知らなさそうだからなぁ……頭が痛い。

「よし、ではパンドラ。戦場ではリンを借りるぞ」

「良いよ~。それぐらいなら、アイツも出来そうだし」

……リンの扱いが、雑だよな。まぁ、これで何かあれば、リンの空間転移が使えるから、良いけど。

戦じゃ無い時は、クロエか唯にでも任せておけば良いかな。

そう思いながらも、左近は「ありがとう」と言って、新聞に目を移したのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

その日の昼過ぎに、シーゼル王国の多くの貴族達や、キースや久恒達も左近の邸宅に集まり、その中には旅人風の服装で、セントラル城からゲートを使い、そのままやって来た、土埃で汚れているシャーリィの父親で、オービルの姿があった。

多くの貴族達の美しい服装を見ていると、自分が何だか平民になった様で、やはり着替えて来た方が良かったと思い広間に入ると、キースが声をかけて来たのであった。

「ネルソン殿!」

「これは、ウッド公。お久し振りです」

そう言って頭を下げるオービルに、キースは笑顔で声をかけたのであった。

「ウッド公は、止めてくださいよ。僕は、皆様に比べれば、まだまだヒヨッ子ですので。それはそうと、その服装、先ほど戻って来られたので?」

その言葉に、オービルは申し訳無さそうに言ったのであった。

「ギリギリまで、調べものをしておりましたので……やはり、今からでも帰って、着替えて来た方が宜しいでしょうか?」

「いえいえ。そう言う事でしたら、陛下は何も言いませんし、寧ろ感心すると思いますよ。僕なんか普段は、無精髭を生やして、ボサボサの頭でも、陛下に会いますから。あの御方は、仕事をしていると思い、何にも言いません……まぁ半分は、僕がめんどくさがりな、だけですがね」

そう言ってキースは笑うと、オービルは愛想笑いをしたのであった。

陛下は、家系では無く、本当に能力でしか人を見ていない様だな。シャーリィも新聞に出るほどの手柄を立てたし、私もここで頑張れば、ネルソン家は、かなりの地位まで上がれるかも知れん。

帝国では血筋がものを言っていた為に、子爵以上に中々上がれなかったオービルであったが、キースの言葉に期待が高まっていたのであった。

やがて扉が開き、左近とビート達が入って来ると、全員立ち上がったのだが、その後にトコトコと入ってくる佐吉とクラウディオの姿に誰もが驚いていると、左近達は壇上の席に座り佐吉とクラウディオは、部屋の端の席に、ちょこんと座ったのである。

「今日は、皆よくぞ集まってくれた。まぁ誰もが驚くだろうが、クラウディオ皇太子と佐吉は、今後の勉強の為に、暫く俺と行動を共にする事になった。

国を建国する過程を見るのは、良い機会だと思うし、今後、皆も自分の子供を連れて来ても良いぞ。前置きはこれぐらいにして、とにかく皆、座って始めようか。先ずはキースから聞こう」

左近の言葉に、全員が座ると、キースは紙を持って説明を始めたのであった。

「学校制度の方は、前以て導入されている御方達が多くて、すんなりといきそうですが、問題点が1つ。ヴァルキアは、小さくても中規模の村ばかりで問題なかったのですが、100人未満の小規模の村になると、やはり人数が少な過ぎて、建物の建築が間に合わないばかりか、人件費等の費用だけがかかります。

しかしながら、中規模以上の村や町のみに建築しますと、通学にかなりの時間がかかり、魔物等と遭遇する危険性も出てきます。何か良い案は無いでしょうか?」

過疎地の学校って、確か分校ってやつがあったよな。

「それならば、小さな学校を建築し、責任者の校長と教師の1名づつを派遣すれば良いだろう。100名以下の村ならば、そんなにも子供は居ないだろう。

それと、大きな都市部には、レイクシティの学園の様な、全寮制の学校を幾つか建築すれば良い。他には?」

「戸籍調査は、都市部は簡単に出来ますが、先ほど言った小さな農村では、次に行った時に魔物に全滅とか言う話が、けっこうあり、実態を掴みにくいのが現状です。元ザルツ王国は、魔物の出現率がかなり高いので、戸籍を作っても、国民の死亡率が高くて、更新の度合いが多いですね」

それ、原因はルタイ皇国だよな。まぁ、今後は増える事は、少なくなるとしても、今までの魔物がいる……難しいな。

左近がそう思っていると、ビューレルが立ち上がり、発言したのである。

「今、ウッド公が魔物の事を話されたので、ついでと言いますか、陛下のお耳に入れたい事があります。ルッシェの樹海の開拓ですが、どうやら南の樹海はスライムが多くて、通常の冒険者では通用しません。

また、北部ではレッドキャップの大軍も確認されております。ルタイ皇国の内戦もありますが、ここは連合軍に討伐の要請を出してみては如何でしょう。

それと、冒険者の中でも、ナイト・ウォーカーと言う者達の中に、大魔導師と思われる人物がいるそうです。スライムは、魔法攻撃しか通用しませんので、要請してみては如何でしょうか?」

……それ、セシルとセシリーの事ですやん。

そう思いながらも気まずそうにしている左近の隣で、ビートが左近をチラリと見て言ったのである。

「ルッシェの樹海は、現状までを開拓し、その先は後にしよう。レッドキャップの大軍には、助成金を出して、冒険者を向かわせるとする。

それと今後、ナイト・ウォーカーは表に出てこないはずですよね、陛下?」

そう言って、ビートは左近を見ると、左近は目を反らせて「ええ、そうですよね」と言ったのである。

その行動に、左近を知る者は、ナイト・ウォーカーとして、冒険者をやっていたなと、疑惑の目で左近を見ていると、左近は咳払いをして誤魔化す様に言ったのである。

「と、とにかくだ、冒険者だけにも任せておけんから。久恒、奉行所の方で新しい部署を作り、そう言った事も対処出来る様にしろ。そうだな、名前は奉行所だと、地方のみの様な気がするから、警察と名を変更しよう。

とにかくだ、警察を全国規模にして、部署の見直し、そう言った過疎地にも派遣できる様にしろ。キース、他にはあるか?」

「いいえ」

「では、次は久恒」

左近の指名に、久恒は呆れた様に言ったのである。

「陛下、先ほどの警察ですが、新しい組織にするにしても、人員や予算がありません。過疎地まで手が回りませんよ」

予算か……頭が痛い話だが、何とかするしか無いだろう。

「今年度の税収で賄えない部分は、ルタイ皇国に言って融資を願えば良いだろう。久恒は、何れ程の予算と人員が必要か計算し、キースに報告しろ。

各貴族は、今までの治安維持の兵の数を、久恒に報告し、その警察組織に入れろ。キース、予算の計算で足りない金額を、ルタイ皇国の九条大政大臣に、融資を頼め。

絶対にお前は、関白殿下には話を持ちかけるなよ。喧嘩になるのは、目に見えているからな。他には?」

「他には、法律関係ですが、地域ごとに刑罰が違うので、その統一と、私がルタイ人だから感じるのかも知れませんが、昔ながらの変な法律が、多々ありますね」

「変な法律?何だそれ?」

左近の質問に久恒は、少し言いにくそうな顔で答えたのであった。

「例えば、初夜権と言いまして、民が結婚した花嫁との初夜は、領主が権利を有しており、花嫁といたした直後には、花婿が花嫁といたさねばならないとかですね」

……ガチの悪徳領主だろう、それは。古き悪法ってやつか。

「議長閣下。それは、ザルツ王国では一般的だったのですか?」

左近の言葉に、ビートは「そんなものは、過去の悪法だ」と言って、全力で否定していたのだが、貴族の中には、ばつの悪そうに、下を向いている者もいるのに、左近は気が付いたのであった。

こりゃ、やっている奴もいるって事か。ここは、思い切って、新しい法律に組み換えるか。

「久恒。新しい国になる良い機会だ。全ての法律を一度廃止して、新しい法律に変更だ。

ヴァルキアの法律を元に、貴族と話し合い、新しい法律の草案を作れ。そして、その法律が誰が提案したのかも添えてな」

これは、左近による貴族への牽制であった。これで自分達の都合の良い法案を考えた者は、左近に目をつけられ、逆に良い法案を考えた者は、出世街道に乗れると言う事である。

この左近の処置は、貴族達に良い緊張感を与える事になり、その中でオービルは、中々自分の発言の機会が回って来ない事に、落ち込んでいたのであった。

やはり遅れてでも、一度帰って着替えてくれば良かった…ウッド公は、ああ言っていたが、この様な、惨めな格好では、陛下も見苦しいだろう。失敗したな。

そう思いながら、下を向いているオービルに、左近が話し掛けたのである。

「ネルソン、待たせたな。漸く、お前の話を聞ける。その姿……」

「は、はい!大変お見苦しい姿で、申し訳ございません!」

そう言って頭を下げるオービルに、貴族達の冷たい視線が向けられるが、左近は笑顔でオービルに言ったのである。

「仕事の途中で、来てもらったんだ、服装は仕方がないだろう。それに、未だお前はましだぞ。

キースは、無精髭を生やしてボサボサの頭で来るし、久恒は何日風呂に入っていないんだって格好で来るからな。でもそれは全て、俺が命じた仕事を寝る間も惜しんで働いた結果で、俺は悪い事だとは思わん。

寧ろ、その姿を誇れば良い。その姿を見て、この中で、お前以上に仕事をしきた者は、居ないだろう……それで、報告を聞こうか」

その言葉で、オービルはキースを見ると、「言った通りでしょ」と言わんばかりにウインクをして、合図を出すと、オービルは嬉しかったのか涙を拭いて、話始めたのであった。

「元ザルツ王国は、山が多くて平地が少なく、耕作地域が少ないですね。シーゼル王国で、主な耕作地域になるのは、このヴァルキアと北西部のレトナークのみになり、ルッシェの樹海の開拓は早急にでも必要と思われます。

まぁ、その辺りは、元ザルツ王国の皆様はご存じでしょうが、他にも理由はあります。あの地域の気候では、私も旅の商人に聞いた知識しか無いのですが、コットンが生産できます」

オービルの言葉に、誰もが驚いていたのだが、左近には今一理解できていなかったのである。

コットンって木綿の事だろ?それが、どうしてこんなにも驚いているんだ?

そう思いながらも、左近がオービルに質問したのである。

「すまんが、コットンが生産できるとして、それは金になるのか?」

左近の言葉に、オービルは何かに気が付いた様で、説明を始めたのであった。

「陛下の出身地であるルタイ皇国は、シルクの一大産地ですが、大陸では高級品であり、庶民は手が出せません。ですがコットンは、羊毛よりは少し高級品で、庶民にも手が出て、その用途は羊毛やシルクよりも、様々な所に使えます。

帝国でもコットンの生産は、力を入れておりますが、帝国では降霜が多く、適さない場所がほとんどです。無論、ルセン王国やペスパード王朝も北に有りすぎ、降霜が多く適しません。

苗木は、何処の国も厳しく管理しておりますが、噂では南方大陸との戦があるとか……エンブルク王国は、コットンの一大産地であり、その中でもシーゼル王国と隣接しているカッツォ近郊は、良質のコットンの産地です。それにレイクシティで流行っているコーヒーも、カッツォ近郊の山で栽培されておりますね」

なるほど、コットンは大陸では売れて、利益もデカいか。前の世界もそうだったのかな。気にもした事が無かったよ。

それに、これって、暗に南方大陸を占領したら、そのカッツォ近郊は手に入れろと言っている様なものじゃないか。シャーリィの父親だから優遇してやろうと思ったけど、とんだ拾い物かも知れんぞ。

「パンドラ。南方大陸制圧戦では、作物に被害を出す事無く、占領するのは可能か?」

「可能かって聞くときは、やれって事でしょ?最低でも、苗木は手に入れます。それで、良いですか?」

パンドラの言葉に、左近は笑みを浮かべて言ったのである。

「良い答えだ。避けられない戦ならば、最大限の利益を貰わねばな。

南部には国営企業を作り、国として生産しよう。オービル、他には何かあるか?」

左近が、ファーストネームである、オービルと呼んだその事に、オービルは認められた気がして、喜び叫びそうになる気持ちを我慢して答えたのである。

「レトナーク地方の事ですが、大きな大河が流れており、肥沃な平野ですが、その水質は悪く、度々氾濫を起こして、民は水では無く、エールを飲んで暮らしております。これでは、民に健康被害がいつかは出るでしょう。

しかしながら、この度々氾濫を起こすのがポイントで、私が調べた所。この水は、肥料を含んだ様な水であり、氾濫を起こす事で、その栄養を平野に与えていると思われます」

つまり、大量のウ●コの成分が混ざった様な水で、飲み水には不向きだが、肥料としては良いって事か。レトナーク……臭いそうだな。

「オービル。その様子だと、解決法を考えていそうだな?」

楽しそうに話す左近に、オービルもつられて、楽しそうに話し出したのである。

「ええ、勿論です。堤防を作り、用水路を建築し、各村や町には、レイクシティの様な浄水システムを作れば宜しいと思います。

ですが、順番としては、ルッシェの樹海を開拓し、その農作地でコットン等の作物を栽培し、その利益でレトナークを開発すれば宜しいと思います」

なるほどな、その流れは、理にかなっている。このオービル、面白い。

「オービルの意見を聞き入れよう。キース、このオービルを国の農水担当とし、国の農業や治水を全て任せよ」

まさかの左近の言葉に、キースは少し驚きながらも答えたのであった。

「了解しました」

「陛下、ありがとう御座います。必ずや、ご期待に応えてみせます」

そう言って喜ぶオービルであったが、左近は笑みを浮かべて言ったのである。

「未だ喜ぶのは早いぞ。泣くほど働いてもらうからな、覚悟しておけ。

それとキース。この中で、一番戸籍の重要性を理解していたのは、誰だ?」

左近の質問で、漸く左近が何をするのか理解したキースは、笑顔で答えたのである。

「この中では、ビューレル辺境伯でしょうか」

「なるほど、エルヴェ・ビューレル辺境伯。お前は、今日から国の財務を取り仕切れ」

「あ、ありがとう御座います!」

そう言って思わず立ち上がり、頭を下げるビューレルであったが、左近は頷きながら言ったのであった。

「ビューレル。財務担当は、税金の徴収等で、他の者からの恨みも買いやすい……俺に、密告もあるだろう。

だが、不正もせずに、清廉潔白にやっておれば、俺が守ってやる。だが不正に手を染めれば、見せしめにするので、そのつもりでな」

左近の言葉は、まるで刀を突き付けた脅迫の様であり、ビューレルはただ、頷くと左近は笑顔で話し出したのである。

「これから、キースを頂点に、国の中枢を作る。外務担当は、スターク議長閣下。司法担当は、松永 久恒。農水担当は、オービル・ネルソン。財務担当は、エルヴェ・ビューレル。

これからも、担当の大臣を増やすつもりだ。俺は、能力が無い者には、任せん……それだけは、分かってくれ。さぁキースよ、泣いて喜んで良いのだぞ」

左近の言葉に、キースは耳の中を小指で、ホジホジとしながら言ったのである。

「陛下。この体制にするのって、数年は遅いでしょう。何度、朝廷に入ろうと思ったか」

「バカ野郎。お前と久恒だけは、意地でも逃がさねぇよ。お前と久恒は、誰が育てたと思っているんだ……まぁ、あれが教育かと言われれば、微妙だが。

とにかくだ、今後は忙しくなるだろうが、皆の力を貸してほしい」

そう言って左近が立ち上がり、頭を下げると、貴族達も全員が立ち上がり頭を下げたのであった。

さぁ、この後はオービルにシャーリィの事を言って、佐吉とクラウのお勉強会だ。

そう思いながらも左近が振り返ると、クラウディオは真剣に聞いていた様だったが、佐吉はその隣で、お昼寝中であった。

コイツは、本気で厳包と同じ扱いにしてやろうか……我が子だが、殺意が芽生えてきたわ。

そう思いながらも、左近はオービルに少し話があると、庭園に呼び出したのであった。