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286 stories One comma in the march - you prepare meals -

アンデルス王子率いる諸侯連合は第1拠点となる村に到着し、周辺に簡易柵を設置しながら休憩の準備を始めていた。今回の行軍では補給部隊をユーハン辺境伯が自ら指揮しており、補給に重点を置いている事を兵士たちにも示していた。

「おい。聞いているか? 今回の帝国への援軍では普通に食事が作られるらしいぞ。しかも献立についてはリョージ伯爵が考えてくれてるらしいぞ」

「えっ? リョージ伯爵ってドリュグルの英雄だろ? そんな人が食事の事を考えるのか?」

「お前知らないのか? 王都で流行っているすいーつとか、エレナ姫が巡行される時に配られるお菓子もリョージ伯爵が考えたらしいぞ。それに王都で人気のある店もリョージ伯爵が資金を出して出店を後押ししたらしいぞ」

食事が用意されつつある様子を眺めながら兵士達は会話をしていた。今回の行軍では食事は基本的には朝昼晩と振舞われ、行軍中については昼食と夕食の間に軽食も用意されるとの事だった。また、通常は加工された食料の配布だったが、補給部隊と一緒にやって来ている今回の遠征で新設された食事小隊が担当するとアンデルス王子から発表されていた。

「おう! その通りだぞ。俺が料理を考えてるから安心して食べてくれ」

「リ、リョージ伯爵!」

兵士達が突然会話に割り込んできた声に視線を向けると、サンドストレム王国でマルセル王と同じくらいに知名度のあるドリュグルの英雄である亮二が笑顔で立っていた。割烹着を着用してお玉を持った状態で。

「今日の献立は『肉じゃが』だ。おかわりは自由だから好きなだけ食べてくれたらいいぞ。もちろん、作戦中だから周りに敵が居るかは十分に気を付けて欲しいがな」

「あ、あの。その恰好は? 伯爵だけでなく周りの方も同じ格好をしていますが?」

今まで、見た事のない恰好で現れた亮二に戸惑いながら兵士の一人が話しかけてきた。亮二は今日の献立が肉じゃがであると伝え、割烹着についても料理をする人間の制服である事を伝えた。

「この格好をしているのは食事小隊の人間だから、最重要人物として守ってくれよ。怪我でもしたら次の食事から上手い飯が食べれなくなるからな」

亮二の笑いながらの台詞に、兵士達は美味しそうな匂いを出している鍋に視線が釘付けになりながらも、全力で頷くと「必ず守ります!」と伝えるのだった。

◇□◇□◇□

「それにしてもリョージ伯爵の食にかける情熱は物凄いものがありますね」

「当然でしょう。人生を楽しく生きるのに食を追求しなくてどうするんですか! それが例え戦場だったとしても変わりはないですよ!」

肉じゃがを食べながら、その美味しさに舌鼓を打っていたアンデルスが幸せなため息を吐きながら亮二に感想を述べてきた。亮二はアンデルスにおかわりを注いだお碗を手渡しながら答えた。

「リョージが作る料理は、今まで見た事も聞いた事も無いが、ニホン国で勉強していたのか?」

「スイーツでも料理でも保存食でも美味く作るのは当然じゃないか! ちなみに料理だけじゃなくて、それ以外の知識も豊富だぞ! ただ、マルコのツッコミに対する情熱と能力だけは俺の知識でも推し量れないけ…… 痛ぃ!」

「俺はツッコミに対する情熱も能力もねえって言ってるだろ! はい! そこ! 羨ましそうにこっちを見ない!」

上級士官の貴族達やアンデルス王子と一緒に食事をしてたマルコが自分もおかわりをする為に、お碗を手渡しながら料理の知識について亮二に素朴な疑問を投げかけると、人を喰ったような返事が亮二からきた。

絶妙な力加減で亮二をミスリルのハリセンで叩きながらお碗から肉じゃがが溢れていないのを確認しながら受け取ると、こちらを羨ましそうに見ているアンデルスや貴族達を牽制した。

「はっはっはっ。マルコ殿のミスリルのハリセンは、イオルス神の加護が込められていると言われておりますからな。アンデルス王子も皆さんも羨ましいでしょうな」

アマンドゥスが自分用にと亮二に作ってもらった巨大なお碗に、肉じゃがを山盛りよそってもらいながら豪快に笑って会話に参加してきた。アンデルスはアマンドゥスの背中から覗いている大剣に視線を投げると、マルコに向けていた視線とは違う羨ましそうな顔をしながらアマンドゥスに話し掛けた。

「他人事のように言っていますが、アマンドゥスも大概羨ましい状況ですからね。リョージ伯爵に魔剣を作ってもらうなんて。しかも喋るんですよ、その大剣!」

「それほど喋りませんよ。なあ」

『音声から管理者のリョージ=ウチノ様であると認識。説明機能のみと回答します』

亮二がアマンドゥスの大剣に話し掛けると大剣から回答が返ってきた。初めて大剣の声を聞いた貴族も居たようで、食事会場になっていた場所にどよめきが起こった。

「おぉ。あれがアマンドゥス騎士団長の大剣の声か」「なんでもリョージ伯爵が長い年月をかけて作ったとか」「私は1日で作成したと聞いているが?」「いやいや。いくらドリュグルの英雄でも1日で魔剣を作るなんて出来ないでしょう」

事情を知らない貴族達の会話を聞きながら、マルコやアマンドゥスにアンデルスなどの事情を知っているメンバーは苦笑を浮かべるのだった。

◇□◇□◇□

「俺のイメージよりも会話が柔軟な感じがするんだけど? 機能拡張すれば、もっと喋れるんじゃないのか?」

「可能です」

「よし! メンテナンスって言って預かった後に機能拡張してアマンドゥス騎士団長を驚かせよう!」