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298 stories, after the fight. - Interrogation? begins -

「では、まずは貴方の名前から聞こうか?」

「そうだよね。俺は貴方の名前を知っているのに、名乗らないのは駄目だよね。えぇぇと、『ヒ・メキシ』さんだったよね?」

対面に座った姫騎士と呼ばれている女性から名前を聞かれた亮二は、ストレージから紅茶セットを取り出して自分の分だけ淹れると、ゆっくりと味わいながら返事をかえした。

突然テーブルの上に現れた紅茶セットの高級さとクッキーやスコーンなどの種類の多さに、姫騎士と呼ばれている女性はカップの美しさと紅茶の香り、クッキーやスコーンから漂ってくる甘い匂いに喉を鳴らしながら亮二を凝視していたが、頭を振って我に返ると咳払いをしながら話を再開させた。

「ん、んっ! こちらで用意をしなかったのも悪いけど、尋問の場で優雅なティータイムを始めないでくれる? それに、その紅茶は湯気が立っているけど、時間を止められるアイテムボックスなの? なんて羨ましい……。じゃなくって! 私の名前は姫騎士じゃないわよ!」

「えぇ? そうなの? 皆が『ヒ・メキシ』様って呼んでるから、てっきり名前なのかと思ったよ」

紅茶から湯気が出ている事に気付いた姫騎士と呼ばれる女性は、紅茶セットと亮二の腰にある皮袋に釘付けになりながら羨ましそうに話していたが、自分の名前を勘違いされている事に気付くと慌てて否定してきた。

亮二としてはワザと名前を間違っているフリをしているので、この時点で気付いてもらえないと肩透かしもいいところなのでホッとしながら、さらに畳みかけた。

「だったら、姫騎士って事? 姫なの? 騎士なの? どっちなの?」

今まで質問された事もない内容を立て続けにされ、混乱した状況に誘導されている事に気付いていないのか、姫騎士と呼ばれている女性は椅子から立ち上がり名乗り始めた。

「私の名はマデリーネ=ガムート。ガムート帝国の第一王女である。外で戦っている時は騎士として、城に居る時は姫と呼ばれている。帝国民は親しみを込めて私の事を姫騎士と呼んでいるのだ。これまでの非礼は許しますので、その紅茶を私にも出しなさい」

「おぉい! 最後に本音が漏れてるよ! まあ、出してあげるけどさ。毒見にそちらの団長さんっぽい人も飲む?」

亮二はマデリーネと名乗った姫騎士と、応接間に居る人数分をストレージからカップとソーサーを取り出して手渡すと、そこに紅茶を淹れて振舞い始めるのだった。

◇□◇□◇□

「美味しい! これほど美味しい紅茶を城でも飲んだ事ない! ねぇ! ケネットもそう思うでしょ! 本当に美味しいよね! このクッキーも食べたこと無い食感と甘み! 頑張ったご褒美かな!」

「確かに美味しいですが、口調がさっきからおかしいですよ。この方に振り回されて混乱しているのは分かりますが、そろそろ姫君として落ち着いて下さい。マデリーネ様」

あまりの紅茶の美味しさに、興奮しながら感想を述べているマデリーネに、ケネットと呼ばれた男性は苦笑しながら窘めると、亮二に向いて軽く頭を下げながら話しかけてきた。

「先ほどの援軍、本当に有難うございました。帝国はマデリーネ姫を、私は部下を失わずに済みました。それで本題ですが、そろそろ姫をからかうのは止めて名前を教えて頂けませんでしょうか? それほどの強さをお持ちなら、かなり高名な方かと思われますが?」

腰を低く質問をしてくるケネットに、亮二は軽く笑いながら頷くと自らの名前と身分を告げた。

「ケネットさんに免じて、今回はこのくらいにしておくよ。俺の名前はリョージ=ウチノ。サンドストレム王国で伯爵をしている」

「えっ? えっ? リョージ伯爵? サンドストレム王国の? ドリュグルの英雄の? 雷を操りし者の? 牛人の天敵者の? えっ? こんな可愛らしい子供なの? 私の聞いた話では身長二メートルの大男で、ミスリルの剣を振り回しながら、目が合った瞬間に男は灰燼と化し、女はハーレムに入れるって噂だったわよ?」

「うぉい! 最後! 誰だよ! 『目が合った瞬間に灰燼と化し』じゃねえよ! ドリュグルから離れれば、離れるほど噂が凄い事になっていくな! おい!」

亮二が名乗ると、マデリーネの混乱に拍車が掛かったように色々と呟き始めた。最後の方は亮二像に尾ひれが付きまくっている状態になっており、いつものように噂に対して亮二がツッコミを入れる流れが完成するのだった。

◇□◇□◇□

「本当にドリュグルの英雄のリョージ伯爵なんですね。あの強さもリョージ伯爵なら理解できますね。聞いていた噂よりも強い気がしますが、それに姿形も全然違いますし…… むしろ、こちらの姿の方が好みかも。弟みたいで」

「ん? ごめん。最後の方はよく聞こえなかった。えっ? 別に構わない? まあ、いいけどさ。それで、俺達は帝都に向かっている最中だったんだよ。王国の援軍はアンデルス王子を指揮官として、この街から半日ほどの場所で野営をしている。それで俺が偵察に来たって訳さ」

マデリーネは嘆息と供に感想を述べていたが、最後の方が聞こえなかった亮二が聞き直したが、赤い顔をして「なにも無い」と伝えてきたマデリーネに首を傾げた。しばらくマデリーネの様子を眺めていたが赤い顔のまま紅茶を飲んで返事が無いので、亮二は援軍の貴族諸侯軍二千名が近くまで来ており、そこで野営している事を伝えるのだった。