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323 Stories settled - Now that's a paragraph -

「今までの活動を邪魔してゴメンね。そしてありがとう! 君のお陰で転移魔法陣が作れたよ」

「『ありがとう』だと?」

亮二から感謝の言葉を受けた魔族男は、内容が理解出来ないとの表情で硬直していた。魔族の中でも魔法に長けており、それだけでなく魔族男が幹部にまでのし上がれたのが最も得意とする陣の作成だった。

自身の最も自信のある魔法陣を簡単に真似された事に気付いた魔族男は愕然とした表情で叫んだ。

「私が人生を賭けて編み出した魔法陣を真似して作っただと? 馬鹿な! 見よう見まねで簡単に作れる陣ではない!」

「そんな事を言われても、うちには天才がいるからな」

愕然とした表情から激高して叫んでいる魔族男に、亮二が申し訳なさそうな顔で答えたと同じタイミングで、別の場所で戦っていたマルコ達から鬨の声が上がった。

「ドラゴンを討ち取ったぞ! これで俺たちもリョージと同じドラゴンスレイヤーだ!」

「「「おぉ!」」」

手持ちの切り札であるドラゴン二体が余りにも簡単に倒された事に、魔族男は焦りの表情を浮かべていた。ころころと変わる表情を満面の笑みで眺めていた亮二だったが、徐々に魔族男に近付きながら話しかけた。

「これだけイベントがてんこ盛りだと、色々と表情を変えないと駄目だから大変だな。後は捕まって絶望の表情を浮かべるくらいかな?」

「まだだ! 私自身は無傷だぞ! 私がやられない限りは負けたとは言え……ぐはっ!」

魔族男が後ずさりながら転移魔法を唱えて逃げようとしたが、亮二が一瞬で間合いを詰めるとミスリルの剣の柄の部分で鳩尾を強打した。うめき声を上げながら気絶し、崩れ落ちる魔族男に「寝てろ」と亮二は冷たく告げるのだった。

◇□◇□◇□

「よし魔族男の件はこれくらいにしてっと。次は古龍の番だな。やっほー! 生きてるか?」

『手足、尻尾を斬られた位で死んだりはせん。古龍の力はそんな軟弱なものではない。反撃される前にさっさと止めを刺すがいい』

口に巻かれたロープを外され具合を聞かれた古龍は、油断しているともとれる亮二の問い掛けに呆れた表情を浮かべながらも問題無い事を伝え、覚悟を決めた澄んだ瞳で亮二に語りかけた。

『一騎打ちの結果で負けたのだ。あちらで寄ってたかって倒された下等種に比べれば私の戦いは誉れ高い。冥土の土産に私を討伐した者の名前を聞いておこうか?』

「サンドストレム王国伯爵リョージ・ウチノ。周囲からはドリュグルの英雄と呼ばれている」

礼節のスキルが自動発動した状態で、ミスリルの剣を構えた亮二がを名乗るとドラゴンは満足げな表情を浮かべながら頷いた。静かに目を閉じて止めを待っている古龍を見て、亮二はストレージからポーションを取り出すと無理矢理に口を開けて一気に流し込む。

「おい。なに一人で私は満足したって感じで悦に入ってるんだよ。傷は治したから、さっさと目を開けてこっちを見ろ」

『な、なに?致命傷ではないとはいえ、回復魔法レベルで全快しないような傷を治す薬とは……』

「特別な薬なんだから気にするなよ」

イオルスからもらったポーションの効力に仰天している古龍の前で、切り落とした尻尾をストレージに収納して満面の笑みを浮かべている亮二に古龍が話しかける。

『それにしても、止めを刺さずに傷を治すとは何を考えている?』

「特に何も。無理やり召喚された上に知性のあるドラゴンだったから可哀想かなって」

古龍は呆気にとられた顔で、しばらく亮二と無言で見つめ合っていたが呆れた表情でため息を吐いた。

『召喚者が気絶しても契約は続行されるのだぞ?』

「それは大丈夫! さっき召喚陣の命令部分を書き換えたから。召喚者が気絶してるし、陣も大きいから書き換え自体は簡単に出来て良かったよ」

あまりにも非常識な事をしてのけた亮二に古龍は口を開けたまま絶句するのだった。

◇□◇□◇□

『そ、そうか。私の知らない内に人間達の魔法に対する知識が高まったのだろうな。ちなみに命令部分を書き換えたとの事だが?』

「ああ。俺の命令を聞けって書き換えて、後で参考になるように転写もしといた」

亮二の言葉を無理やり納得した古龍は召喚陣と、転写された召喚陣の内容を確認した。確かに両方の召喚陣には【リョージ・ウチノの命令に従う事】と書き換えられており、さらには変更できないようにプロテクトも掛かっていた。

『小さい方も間違いなく書かれているな』

「おう! ライナルトに渡したら喜ぶだろうな。さらに知識が増えるって」

『では、命令をするがいい。いまの主はリョージなのだからな』

自分を打ち倒す者からの命令なら従う覚悟で古龍が待っていたが、思っていたような言葉ではなくあっけにとられるような命令が亮二から発せられるのだった。

◇□◇□◇□

『ところで、先ほど収納した尻尾はどうするつもりだ? 私の尻尾ともなると武具や防具、秘薬の素材にも使えるが。それにしても、あまり目の前で堂々と収納されるのを見るのは如何なものかと思うぞ。負けた者としては言い辛いのだが』

「えっ? 素材になんかしないぞ? 食材だぞ? 後でドラゴン尻尾ステーキを作る予定なんだ」

『しょ、食材? 霊薬の素材になると言われている、私の尻尾を食すというのか!』