騒々しく鳴く鳥の声が耳に入ってくる。

その鳴き声を目覚ましに、もぞもぞとベッドから這い出る。

「ふあ~・・・朝か・・・」

ここに来る前につけてた時計を見ると、明らかに指している時間は朝ではない。

だってここと一日の時間が違うもん。そりゃずれるよ。

防水だったから壊れなかったけど、なんというか役にはたたない。

携帯は壊れたさ! 当然だね! 

防水携帯にすれば・・・充電が出来ないから一緒か。

さて、今日は休みだ。

最初の頃にリンさんが、最低でも10日に1日は休みを取るようにと言ってきていた。

けど俺は現状を楽しみ始めていた事も有って休みを申告しなかった。

するとある日イナイさんに「いい加減にしろ! 少し休め!」と怒られるに至った。

それからイナイさんが怒りそうだなと思った次の日は休みになっている。

イナイさんは見た目と言葉遣い以外は母性の塊みたいな人だ。

彼女には俺が新しい事にはしゃいで無茶をする子供に見えているらしい。

あながち間違いではない。と言うか合ってる。

俺が居候してるこの家の家事は全てイナイさんがやっている。

といっても家政婦さんというわけではなく、ただ単に好きでやっているそうだ。

本職が気になって聞いたら、彼女は技工士という職業らしい。

イナイさんは「家庭で役に立つ、ちょっとした物を作る仕事だよ」と言っていた。

その言葉通りというか、この家には彼女が作った冷蔵庫がある。コンロもだ。

電気ではなく魔力で動くってのがまたなんとも。

冷蔵庫の上にある猫型の水晶に魔力を貯めておけば、だいたい1月補充せずに使えるらしい。

その猫水晶もイナイさん作だ。あの人格好と言動以外はほんと可愛い。

その説明の際にミルカさんが「リンねえ倒せる武具作る技工士が、何いってんの?」と言っていたあたり、やっぱりあの人もぶっ飛んでる気がする。

リンさんはその時「倒されてないもん! 引き分けだもん!」と言っていたので真実の様だ。

とんでもねえ。

ただまあそれは技工士としては外れた領分らしいので、本職はこっちとの事だ。

まだ起きてない頭を起こすべく顔を洗おうと、あくびを噛み殺しながら部屋から出る。

俺の部屋は2階にあり、吹き抜けになっている通路に出て一階に降りようとする。

「あ、タロウさん、おはよう」

若干まだ眠そうなミルカさんの声が、部屋を出てすぐに横から聞こえてきた。

まだ少し眠たい目をこすりながら、彼女に挨拶を返そうと顔を向けた。

「おはようございます、ミルカ・・・さん・・・」

返事をしようとして、しきれなかった。

そこにはいつもの眠たそうな目を皿に眠たそうにしながら歩いてくる、下着姿の彼女がいた。

上下共シンプルな白の下着姿だ。俺は思わずその体に釘付けになった。

武術家であるミルカさんの体は確かにしっかりとした筋肉が感じ取れるが、それでも女性らしさを損なわない体躯だ。例えるなら某道端格闘の女性キャラをちょっと細身にした様な感じだ。

筋肉が有るのに、その筋肉が主張しすぎていないスタイルの良さになっている。

「あ、あの、ミルカさん、寝ぼけてます?」

なんとか日本語ではなくこの国の言葉で返す。

俺、頑張った。

「んう? んー、まだ、ちょっと、眠い」

あ、やっぱり寝ぼけてたのか。

だよな、でなきゃこんな格好で外に出ないよな。

「ミ、ミルカ、さん、下着、姿、ですよ?」

途切れ途切れになりながら伝えるが、視線はガッツリ彼女の肢体に行っている。

しょうがないじゃんか! こちとら男の子盛りなんだよ!

だが彼女は、俺の言葉を聞いても一切慌てる様子は無かった。

「んー? うんー、そうだね」

あれ、思ってた反応と違う。

こう「きゃ、ごめんなさい!」的な感じが、いつものミルカさんのイメージなんだけど。

だがしかし、目の前の彼女はいつもの眠たそうな目でただぼーっとしている。

「コラ、ミルカ! 下着で歩き回るなっていつも言ってんだろ! 最近しねえと思ったら!」

同室のイナイさんがワンピースを手に、ミルカさんに怒りながら部屋から出てきた。

マジか、ミルカさんそういうの気にしない人だったのか。

そういうのはリンさんのポジションだと思っていた。

けどリンさんは露出の多い服は着てても下着姿で出てきた事は一回もないな。

イメージって砕かれるためにあるのかな。

「んーうー、今日は、何もないんだから、良いじゃない」

「ドアホ! タロウの事考えてやれ! 身内以外の女がそんな格好で歩き回ってたらこのぐらいの年の男は気になんだよ!」

その通りですが、何かこう、そういう事を言われるのはとても恥ずかしいし悲しい。

そう思いつつもミルカさんから目を背けていない時点で何も反論出来ない。

「私や、イナイみたいな、貧相な体、平気」

「なっ! 言うに事欠いてあたしの体まで貶したな!」

「貧相なのは、事実」

「てめえ!」

イナイさんは置いておくとして、ミルカさんは貧相ではないと思うんだけどなー。

胸が他二人より小さいだけで。けしてまな板などとは言ってはいけない。

俺はその言い合いに「ソンナコトナイデスヨ」というのが精一杯だった。

「ったく、とにかくタロウの目に毒だから、さっきみたいなのはすんな!」

毒どころが眼福でしたよ?

とか考えてたら、こっち睨んだイナイさんの目がスゲエ怖かった。

スミマセン、服着ててくださいミルカさん。

「むう・・」

ミルカさんはそれに面白くなさそうに唸る。

最近は俺にもこんな感じになってきてる。慣れてきたのだろうか。

でも目の毒って言うならイナイさんもそうだと思うんだけどな。

イヤ、ロリコンじゃないよ? 違うよ?

でもね、彼女物凄いミニスカとか胸元だけ隠してるような服とか、過激なの多いのよ。

もっかい言うけど俺ロリコンじゃないからね?

でもああいう格好はそういう人刺激して良くないんじゃないかなって、お兄さん思うんです。

その考えが思わず口に出てしまった。

「目に毒って言うなら、イナイさんもちょっと過激ですよね」

そう口にすると、イナイさんは「え?」と言ってこちらを向き。

少し俺をじっとを見つめた後に下を俯いて「そう、か?」と小さい声で聞いてきた。

あれ? 俺もしかしてなにか地雷踏んだ?

え、ちょっとまって、リンさんに匹敵する人怒らせるとか俺したくないぞ。

「え、あ、その、イナイさんなら、もっと、こう、可愛い方が、似合うんじゃない、かなって」

内心めっちゃ焦って答える。大丈夫か、この答えで大丈夫なのか俺。

怖い。何が怖いって俯いて小声で「そうか」って言った後の反応がない事だ。

やめて! この沈黙やめて! こーわーいー!

脂汗だらだらで反応待ちしていると、彼女は顔を上げずに振り返って部屋に帰っていった。

どうしよう、ここに来て初めての大ピンチだ。

いや、最初の恐竜があるから2度目の大ピンチな気がする。

そんな封に立ち尽くす俺をおいて、ミルカさんは俺の横を通り過ぎて下に降りて行く。

「プッ・・・くく・・・」

通り過ぎる際に笑っている声が聞こえた気がした。

信じてたのに! 貴女だけは優しい人だって信じてたのに!

うわーん、どうすんのこれー!

どうしようかと狼狽えるが、結局どうしようもないという結論に至る。

とりあえずトボトボと下に降りていくと「おはよーさん」というアロネスさんの声が聞こえた。

「おはようございます・・・」

「おー、タロウ、もう日常会話なら中々問題なく話せる様になったなー」

「さっきの聞いてたんですか?」

「おう、こっちゃ仕事してんのにやかましいなと思ったけど、タロウの成長加減見れたので良かったかな。今も何喋ってんのか大体分かってんだろ?」

「大体は。解らないところは前後の言葉で何となく脳内補完してます」

「上等上等」

そう言ってニカッとわらうイケメン。くそうカッコいいな!

仕事をしていると言ったアロネスさんの手元では、何やら良く解らない道具やら草やら石やらがテーブルの上に散乱している。

フラスコみたいな物も有るけど何作ってんだろ。

「そういえば仕事って、何やってるんですか?」

「ん? 軍で使う薬が欲しいって言われてな。今作ってる」

「こんな所でやってて良いんですか?」

「別に密閉空間やじゃないと作れない物作ってるわけじゃないからな、平気平気」

「いや、その、危なくないんですか?」

「危ないよ?」

俺の疑問にフラスコを揺らしながら応えるアロネスさん。

思わず顔を引きつらせていると、くっと一笑いしてから続ける。

「冗談冗談、本気で危ないもん居間でやんねえって」

質の悪い冗談だ。

それを聞いて肩の力が抜ける。と言うよりも脱力してしまった。

彼は薬師だそうだ。

初めてそれを聞いた時も、彼もまた普通ではないという事が分かる会話があった。

彼に職業を聞いたとき彼はこう答えた。

「俺は薬師だよ」

だがその時、その言葉を素直に聞いていた俺に横から違う言葉が飛んできた。

「錬金術師」

「錬金術師だよー」

「錬金術師ですね」

「錬金術師だろ」

リンさん達4人が4人とも彼を錬金術師と言った。

錬金術師ってあれだよね、金作ろうとするやつだよね。

「ち、違う。俺は薬師だ!」

だがそれでも何故かアロネスさんは薬師と言い張った。

そんなアロネスさんにリンさんが詰め寄り、問いを投げかけた。

「アロネス、君がそう言うならいいだろう。じゃあ答えてみなさい。君が作った物で今まで一番使った物と使われた物は何だい?」

「しょ、傷薬」

「ん、なんだって?」

「・・・ま、魔術傷薬です」

「よろしい」

答えると共にがっくりと項垂れるアロネスさんだった。

その名の違いにどういう意味があるのかは解らないけど、普通の薬を作るだけの人ではないのだな、というのはその場でも解かった。

なので後で薬を使うところを見せて貰ったら、凄い物を見せられた。

傷口に軟膏タイプの薬を塗って拭き取ると、怪我が完全に消えていた。とんでもない効果だ。

その時にミルカさんが「錬金術師って数が少ないんですよ」と教えてくれた。

つまり、貴重な能力の持ち主という事だ。なぜ薬師と言いはるのだろうか。

魔術の天才、レア技術持ち、イケメン、性格も冗談のタチが悪い以外は問題ない。

何この勝ち組。

そんな事を考えていると、上から人が下りて来る足音が聞こえてきた。

リンさんとセルエスさんは1階だし、今上から降りてくる人は一人だけだ。

イナイさん、だけだ。

俺は錆びたロボットの様にギギギと首を動かしながらイナイさんに振り向き、先程のことを謝ろうと思った。

でも、出来なかった。

目の前のふんわりとした服に包まれた美少女に驚いて、言葉が出なかった。

「イナイ、さん?」

「あたし以外に誰にみえんだよ」

「いえ、イナイさんにしか見えませんけど・・」

どうしたんだろう、さっき言ったのを気にしてるのかな?

もしかして怒ったのではなく何か嫌な思いをさせたとか、気を使わせたとかだったのかも。

そんな事を考えていると先にイナイさんが口を開いた。

「に、似合うか?」

彼女は少し俺から目を逸らしながらそう聞いてきた。

似合う? うん、そりゃ似合いますよ。だってイナイさん見た目美少女っすもん。

明らかにこっちのほうがいつもの格好より似合ってる。

間違いなく可愛い。実年齢がいくつかは置いておいて間違いなく似合っている。

俺はそのままそれを口にする。

「似合ってますよ。凄く可愛いです」

「そ、そうか、なら良い。あ、あたしは朝飯作るな。昨日のうちに仕込んでるから、温めるだけで済む。顔洗ったら待ってろ」

俺の返事を聞くと、何かを納得して台所に向かって行くイナイさん。

えっと、大丈夫そう、かな?

とりあえず怒らせた様じゃなくてよかった。

でも、いつもの格好を止めさせたみたいな感じがちょっと罪悪感。

そう思いつつ顔を洗いに行こうと反対を向くと、アロネスさんとミルカさんがクッションに顔を押し付けて震えていた。

何してんのこの人ら。

「・・・っ! く・・・くく・・・!」

「ブッ・・・うくく・・・」

笑いを堪えてるっぽい。何だろう、俺の焦りっぷりはそんなに可笑しかったんだろうか。

落ち着いたらしい二人は顔を上げて、お互いにやけた顔を見合わす。

「いやー、今日は何か暖かいなミルカ。ククク」

「ププ、そだね、アロにい。くくく」

そして良く解らない会話を始めた。いや今日確かに暖かいですけど。

とりあえず突っ立っていてもしょうがないので顔を洗う為に洗面所に向かう。

ここにもイナイさんの技術が使われていて、井戸から水を汲み上げる機械が置いてある。

機械って言うとまたイメージが違うが、ちょっとでかい水道みたいな感じだ。

水を出し止めするハンドルは無い。でも出して欲しいと思うと水が出てくる。

この辺は水がとても多いらしく、贅沢な使い方が出来ると聞いた。

ただ飲み水としては良くないので多少なら良いがあまり飲まない様に、と釘を刺されている。

顔を洗ってさっぱりししてリビングに戻ると、唐突に外から叫びが聞こえた。

「いっっっったああああああああああい!」

今の、リンさんの声だ。リンさんが痛い!?

嘘だろ、あの人に傷を付けれる奴がここの人達以外にいるのか!?

あんな化け物殴り倒す人だぞ!?

あまりの驚きに固まっていると家に居た三人が玄関から滑るように出て行った。

全員凄い勢いと形相だった。俺はそれを見て正気に戻り、追いかけ様とする。

と、3人とも気が抜けた顔でぞろぞろ戻ってきた。

「何だよ、驚かせんなよ。あーあ、いっこ薬パアになっちまった」

と、頭をボリボリ書きながら愚痴るアロネスさん。

そのままボスンとソファに座って作業を始めた。

「焦げる焦げる」

イナイさんはトテトテと台所に戻って行く。

「・・・人騒がせ」

ミルカさんは呆れる様に呟きながら、ソファに体を投げ出した。

どういう事?

因みに今も「痛い痛い!」とリンさんの叫びは続いている。

皆は戻って来たけど気になって外に出ると、そこには見覚えのある光景が有った。

「いったいって! ちょっと! これしゃれにならんぐらい痛いって!」

「ふるひゃい! ひゃまっへる!」

「無理! 痛い痛い! 頭も痛いし体も痛い! あたしがこんなに痛いのおかしいって! これ魂に直接干渉してるでしょ!」

「ひょんひゃのあひゃりひゃえでひょ!」

「当たり前って、無理だって、情報量もおかしいって! 頭が割れるー!」

前に俺がされた光景が、魔術を使える様にして貰った光景がそこにあった。

多分、魔術を使えないリンさんに、魔術を使える様にしようとしてるのだと思う。

俺はその光景に飲まれた。

あの魔術は基礎を省略させる物で、他人の体を通して魔術をやるだけとセルエスさんは言った。

俺はその時は「そういう物なのか」としか思ってなかった。

でも今、この光景を見たら解る。

あの人に魔術の深淵の欠片を強制的に見せられたおかげで解る。

これは大魔術だ。

俺なんかじゃとうてい出来やしない、とんでもない大魔術だって事が解った。

魔力の流れている規模がおかしい。とても緻密に、綺麗にリンさんの体の中でのみ流れているけど、暴発すればこの一帯吹っ飛ぶレベルの魔力がリンさんの体を駆け巡っている。

勿論あのセルエスさんが暴発なんてさせるわけないとは思う。

思うけど、このコントロールを全力全開でやっているのが解る。

きっと相手の体に必要以上の負荷をかけない様に気を使ってるんだろう。

あの時は見えなかったけど、俺の時もあんな顔をしていたんだろうか。

物凄い必死な形相で魔力をコントロールしてる。いつもの余裕そうな表情がまるでない。

自分の魔力、世界の魔力、リンさんの魔力、世界の力。

全てを混ぜ合わせて流れを作っている。

自分の体じゃなく人の体で、相手の体を壊さない様に細心の注意を払って。

なんて、綺麗なんだ。そう思った。

「真似、しようとしちゃ、ダメですよ」

その光景をぼうっと見ていると、後ろから声をかけられた。

ミルカさんだ。

「出来ませんよ」

苦笑しながら答える。どう考えても無理だ。

支援系どころか、自然発生系の現象を生み出すのさえまだ一苦労の俺には無理だ。

本人が全くコントロールできない魔力を、本人の魔力のまま流し込むなんて絶対出来ない。

「上手く、行くと良いですね、リンさん」

以前二人の関係を聞いていたので本心からそう思う。

あの時のセルエスさんの優しげな顔は、まだ覚えている。

「どう、かな」

目を閉じて呟くミルカさん。その感情は読み取れない。

そして、今、術が終わった。

「いったかったー。うーわ、まだ頭ぐわんぐわんしてる」

何であれで意識保てるのあの人。

俺はかなり序盤に倒れたのに。

「・・・リン、どう?」

セルエスさんがいつもと違う、授業の時とも違う雰囲気でリンさんを見つめる。

その表情は真剣で、何かを願う様にも見えた。

「・・・ごめん、無理っぽい」

「・・・そか、そんな気はしてた」

申し訳なさそうなリンさんと、残念そうだがしょうがないという感じのセルエスさん。

だめだったのか。セルエスさん大丈夫かな・・・。

「まあー、リンちゃん馬鹿だからねー。しょうがないしょうがないー」

「良いもん! あたしにはこの力があるもん!」

だが俺も心配をよそに、すぐにいつもの二人に戻りホッとした。

どちらかが落ち込むんじゃないかなと思ったよ。

「リンねえ、朝食、もう出来るよ」

ミルカさんが声をかけると、リンさんは「わーい、朝食だー」と部屋に入っていく。

俺もリンさんについて行って戻ろうとすると、ミルカさんに「ごめん、そっちまかせる」と不思議な事を言われた。

戸惑って言葉の意味をその場で悩んでいると、理由はすぐに解かった。

「う・・・ひっく・・」

セルエスさんが静かに、けど確かに泣き声を出しながら泣いていた。

ミルカさんは多分こうなるのが解って、慰めるのを俺に押し付けた様だ。

いや、俺にどうしろと。

自慢じゃないが女性と付き合ったことなぞなく、女性の扱いも上手いわけじゃないのに。

・・・と、とりあえず話しかけよう。慰めなきゃ。

「セ、セルエスさん」

声をかけるとセルエスさんは俺の胸元に顔を埋め、思いっきり泣き始めた。

俺はオロオロとどうすることも出来ず、とりあえずそのまま好きにさせた。

彼女は暫く泣き続けた後、気持ちが落ち着いたのか大きく深呼吸をして笑顔を俺に向けた

「ごめんねータロウ君、ありがとねー胸貸してくれてー。こういう時はいつもは一人で泣いてるんだけど、あんまり心配そうにこっち見てる君に甘えちゃったー」

そう言ってにっこり笑った彼女はもう、いつものセルエスさんだった。

本当にもう大丈夫なのかなと心配していると、彼女は更に続ける。

「ああいう時は抱きしめるぐらいできないと男の子失格だよー」

ダメ出しされました。

すみません、誰か女性の扱い方の説明書ください。

その日は照れ隠しなのか、セルエスさんが何だかやたらと俺をいじってきて、イナイさんがそれを見て何度も怒ってきて、休みなのになんか休まりませんでした。

女性って判らん。