「出来ましたー」

色々な試行錯誤の元、出来上がった道具をイナイに見せる。

周囲の技工士さんも見てるけど、別に良いかな。

ただ、誰よりもフェンさんが凄い興味深そうに見てる。

「製作過程を全部見ていたわけでは無いので、何とも言えませんが」

イナイは俺の作った道具を手に取り、広げる。

そして確かめる様に、ぐにぐにと曲げたり、伸ばしたり、捻ったりしている。

「・・・魔力水晶が付いている事以外、ただの布にしか見えませんね。本気で捻ったら切れそうな。一体あの石をどこに使っているのでしょうか」

ですよねー。その言葉で自信が持てた。

そう見えるなら完全に思ってた通りの物が出来たことになる。

「なら完璧。一応ちゃんと使えるのも確認したから、通常の状態はそれが普通なんだ」

「そうですか」

イナイは広げたそれを俺に返す。今からやるのはこの道具の試験だ。

手元で色々実験したので、ちゃんと使えるのは解ってる。

けど、全体を上手く使えるかと言われれば少し自信は無いので、ドキドキしてる。

「それじゃ、今からやるね」

そう言って俺は受け取った物を、『ローブ』を羽織る。

すっぽりと体を覆うようなローブだ。色が濁るといやだなーと思って、真っ黒なローブである。

「イナイ、思いっきり殴ってみて」

「は?」

「俺強化しないから、そのまま思い切り殴って。あ、ただ手には保護かけといてね」

「・・・良く解りませんが、言う通りに致しましょう」

イナイは俺に応え、構える。ミルカさんとは違った威圧感が俺の前に現れる。

それを見て、周囲の人たちが少し離れ、空気がしんと静まった。

「―――っ」

イナイは俺の言った通り拳に保護をかけ、その場でボディーブローを放つ。

いや、これリバーブローだわ。まともに食らったら吐くな、これ。

俺はその攻撃を防御せずに受け、その威力に後ずさる。大分飛ばされた。

そしてその光景を、打ったイナイこそが驚いた表情を見せた。

何故なら、本来はそんな事有りえないから。イナイの武術の腕は確かだ。動かない相手の芯を捉えられない打撃なんて、打つ筈がない。

でも捉えられなかった。イナイの予想していた打点と、今イナイの拳を止めた場所が大きく違っていたからだ。

俺がずらしたわけでも、逃げたわけでもない。だからこそ、イナイは拳を放った体勢のまま、不可解な顔をしている。

「・・・タロウ、説明をお願いします」

「はいはーい」

佇まいを直したイナイの言葉に、周囲はきょとんとしている。

それはしょうがない。ここの人達は技術屋だ。イナイの今の言葉の意味も、今の攻防の内容も解らないのだろう。

だた数人、眉間にしわを寄せて不思議そうな顔をしていたので、あの人達は解ってそうだ。

フェンさんもその一人。

「要はこれ、あの鉱石を砕いて潰して、布地に纏わせてるだけなんだ」

「あの鉱石を?」

「うん、性質自体は厄介だけど、これ自体はそんなに頑丈じゃないし、粉状にして熱を加えると簡単に何かにくっつくんだ」

「ですが、それならば普段からその強度を持って無ければおかしいでしょう」

イナイの言う事は最も。さっきイナイに渡したときは、このローブは一切の強度を持っていなかった。

普通の布。布自体はその辺に有る布で作ってるから、余計にそうなってる。

「魔力の波長に反応してるんだ。決まった波長に反応するように。だから俺が魔力を通さないと普通の布地なんだ。んで、魔力を通す位置を調整すると、こういう事も出来る」

俺は近くに有った鉄屑を投げ、ローブの端を握ってその鉄屑を切るように動かす。

鉄屑は何の抵抗も無く切れ、そのまま真っ二つになった。

周囲の技工士さん達の歓声を聞きつつ、切れた鉄屑をキャッチして、イナイに渡す。

「こんな感じ」

正直、ここまで上手く行くとは思わなかった。

最初は細い合成金属でも作って、服の中に何本も縫い込もうと思った。

けど、いろいろ手を加えているうちに、面白い事に気が付けた。

さっきの通り、この石自体は割と熱に弱い。簡単にくっつく。

そしてもう一つ、この石が粉になってもその性質を発揮すると、塊になった事だ。

勿論他の影響を受けないがために丸くなったんだろうけど、それならと布に付けてみたら布のまま堅くなった。

正直最初に考えてたものとはちょっと違うけど、結果オーライ。

ていうか、最初より謎道具が出来たから良いや。

「・・・これは、タロウの魔力だけに反応するのですか?」

「あー、一応やろうと思えば他人の魔力にも反応するように出来ると思う。これはとりあえず作ったから、俺の魔力にしか反応しないけど」

「そう、ですか」

イナイは考え込むそぶりを見せるが、直ぐに普段通りの表情になる。

「強度の限界の実験も後日やりましょう。リンも呼んで」

「・・・耐えられるかな」

「さあ、どうでしょう」

目的としては一応それが目的だったけど、いきなりそこになるとは思わなかった。

ていうか、それだと俺、リンさんに殴られることになるんだよね。

怖い。めっちゃ怖い。

「ただこれ欠点があるんだよね」

「欠点ですか?」

「うん、通常が石の性質を抑えてる状態だから、魔力水晶の魔力切れると只の堅い物になっちゃうのと、扱うのに多少の魔力が居るんだ」

水晶から供給される魔力でかけた術を維持している。だから完全に魔力が切れると、もう一度術をかけ直さなきゃいけなくなる。

そして魔力を意図的に術を切りたい所に通すから、思った場所に魔力を通せないと使えない。

要は、魔力操作が使えない人には何の役にも立たない。

「・・・あともう一つありますね」

「ん、もう一つ?」

どうやらイナイは、俺には気が付かなかった欠点に気が付いたらしい。流石。

一体何だろう。

「あなたの説明から察するに、その石には何度も術がかけ直されているようです。ならばそれによる劣化。何度までその効果が続くのかの実験が要るでしょうね」

「劣化?」

「ええ、何度も術による加工をしていれば、その素材はいつか劣化する。ならその使用回数も実験したほうが良いでしょう」

「あー、そうなんだ」

そっか、劣化か。いつもそう何回も何回もする事無かったから、その部分は気にしてなかった。

ならそっちも実験したほうがいな。

「何にせよ、魔力を操作出来なければいけないとはいえ、かなりの物ですね」

やったぜ、イナイを唸らせる物作ったぜ。

銃はあんまり褒められたものじゃないけど、こっちは自力で頑張ったし。

「ただ、これは技工士には作るのが難しい代物ですね。そこそこ腕のいい錬金術師と二人でなければ作れないでしょう。タロウだからこそ、作れた物でしょうね」

成程、俺の場合どっちも多少できるから作れたと。

でも二人で協力して作れるなら、今までにも出来そうなものだけど。

「・・・タロウ、私は少しフェンと話したい事が有るので、少し外します。先に部屋に帰っておいて構いません」

「あ、はい」

返事をすると、二人は奥の部屋に入って行った。

ん、もしかして仕事の話してたとこに声かけちゃったのかな。

フェンさんに悪い事したな。

でもフェンさんもなんか楽しそうだったし、いっか。