「着実に近づいてんなぁ・・・」

「あと三日もありゃ、リガラットの首都だ」

「地図はちゃんと把握してっから解ってんよ・・・」

夜の街を眺めながら、アロネスさんが呟く。

本日はリガラット初のお宿に泊まっています。

規模的には街つーか町って感じ。村って程じゃないっていうレベル。

宿は普通に木造建築に土壁かな。

でも荒く無くて綺麗なつくりに見えるから、そんなに文化的な低さを感じない。

流石にウムルが特殊なだけだと、最近は解ってるし。

因みに店主さんは目が6つあり、肌がなんか黒くて硬そうだった。

黒さも黒人さんみたいな黒さじゃなくて、虫的な感じ。

でもそれ以外は普通に人型だったな。手袋してたから手がどうなってるのかちょっと解らなかったけど。

あと人族だからって嫌がられるような事も無く、にこやかに対応された。

町について道行く間も、色んな人がいた。

ワニっぽい人とか、虎っぽい人とか、多脚の人とか、完全に虫系の人とか。

なんか凄く小さいおじさんとかも居た。1メートル無かったんじゃないかな。

「初めてきたけど、やっぱり人族は殆どいないんだね」

「全く居ないってわけじゃ無いが、少ないな。首都の方はそこそこいるらしいぞ」

シガルが若干テンション高めにイナイと話しているのを聞きながら、窓から見える光景を眺める。

今までも別世界だなって思う事は沢山有ったけど、この国の街はそれが本当に実感できる。

因みに今のとこ、耳だけが猫とか犬って感じの人には会って無い。

今更聞いたけど、種族的にギーナさんのように一部分だけまるっきり別の種族みたいな部分がある種族は珍しいそうだ。

そういえばウムルでも見かけたのは、完全に二足歩行のわんこ状態の人だったな。

「つーか、部屋が無いとはいえ、俺も一緒で良かったのか?」

「あん、何だよ今更。お前なんか誰も男と意識しねえよ」

「いや、そっちの心配はしてねえよ。ほら、タロウが、な?」

俺がなんですか。宿に泊まるたびに何かしてるみたいな事言うの止めて下さい。

シガルに誘われての一回しかしてないっすよ。

「余計な心配してんじゃねえよ。むしろ我慢できねえのはタロウじゃなくてシガルだ」

「ちょ、お姉ちゃん、流石にあたしも家族だけじゃない時は我慢するよ!?」

「俺じゃなくてシガルって部分は否定しないんだ・・・」

いやまあ、今までのシガルの行動考えたら否定できないだろうけど。

ぶっちゃけ俺から誘った事なんて数える程度で、基本的にシガルからだからなぁ。

イナイと三人の時は特に。

「お前らが良いなら別に良いけど」

「阿呆な気をまわしてる暇が有るなら、その時間に心を決めておけ。もうすぐなんだぞ」

「解ってるさ。流石にもう、うだうだ言ってらんねえしな」

「ほんとか? お前は自分の都合の悪い事になると、すーぐ誤魔化すからな」

「なんだよ、こうやってちゃんとリガラットまで来たじゃんか」

「伸ばし伸ばし、周囲に迷惑かけてな」

「あー、はいはい、すいませんでしたー」

「ったく」

イナイが説教モードになった事で、アロネスさんは適当に謝って話を打ち切ろうとする。

多分言っても無駄と思ったんだろうイナイは、盛大にため息を吐いていた。

「そういえばイナイ、ここの国でもウムルの金貨とか銀貨って使えるんだね」

「ああいうのは純度の問題だからな。ウムルはその辺り厳しいから別にどこ行ったってたいてい使えるぞ」

成程、貨幣価値的に信用も有るのね。

ポヘタで稼いだ分はどうなるんだろう。お隣の国行った時は普通に使えたけど。

やっぱり何かで測ったり調べたりするのかしら。

ついでに組合とかの事も聞いとこうかな。

「リガラットには労働組合って無いんだよね?」

「ああ、無いな。今後はどうなるか解んねーけど、今は無い。ただ似たような物は一応有るっちゃ有るんだけど、行政と一緒になってんだよな」

「ああ、組織的には無いわけでは無いんだ。」

「おう、だから形としてはウムルとそこまで差が無いんだよな。あくまで形だけはな。

行政の人間が出張って解決する代わりに、自由労働組合が有る様な地域みたいにフリーでやれる人間は少ない。本当に実力ある奴だけだな、出来るのは。

多分これは元々が狭い環境で、部族内だけでどうにかしてた名残だと思うんだよな」

ほむ、トラブル系は全部行政機関に投げられる感じなのか。

でもそれだと、行政がやるべきでは無い事まで投げられそうな気がするけど。

「あれも良し悪しだと思うけどな。特にリガラットの場合は」

「何か問題があるんですか?」

アロネスさんが俺達の会話を聞いて呟き、シガルが不思議そうに尋ねる。

少しだけこの二人の関係、改善したかな?

「要は個人同士、もしくは企業同士で話せばいい事まで行政に話が来るって事だよ、この場合。

昔の部族のやり方のままってわけだからな。勿論その辺いつまでも拘ってるつもりはねえんだろうが、中々変えらんねえんだろ。

自由労働組合は、その辺りの細事を引き受ける機関でも有ると同時に、才能のある人間を見つけるための機関でも有るし、やりたい事が有る人間に機会を与える場でもある。

こんな仕事が世には有るのだと、公開してる訳だからな。

商業組合なんかも、同じ仕事の人間同士で決めたルールに従う事で、円滑に仕事をする目的でも有るからな。何でもかんでも行政側でやってたら手が回んねえよ。

ウムルは単純に、組合が無くても回る組織になっている、っていう結果論だからな」

何となく、予想してた通りの答えがアロネスさんから帰って来た。

そうだよな、普通に考えて何でもかんでも行政に持ってこられても困るよな。

小さなコミュニティなら問題ないけど、規模が大きくなれば手が届かない。

「それでもギーナと部下連中が変えていこうとしてるから、何とかなってるみたいだけどな」

ギーナさんの部下か。それっぽい人が近くにいたのは数回だけ見たけど、連れて歩いている所を一度も見ていないのでちょっと楽しみだったりする。

ギーナさん、自国ではどんな感じなんだろ。

その後はまたクロトがボードゲームをやりだしたので今度はアロネスさんも参加して遊んでいると、食事が出来たと宿の人に呼ばれ、食堂らしきところに向かう。

そして出てきた物は、俗にいうゲテモノ系であった。

基本虫。

「・・・美味しい」

『これ歯ごたえが有って良いな』

「あんまり虫の調理ってしねえけど、こう色々出てくると創作意欲が沸いて来るな」

「お、これってこっちの方でも食べられるんだな。久々に食うわ。帰りに土産で買って帰ろ」

「タロウさん、これ甘くて美味しいよ」

だがしかし、そんな物に怯む人間は今ここに居ないのであった。

俺も何でもとは行かないけど食べれるし。美味しければ問題無し。

流石に美味しくもないのを生でとか言われたら拒否するけどね。

原型保ってる上に加熱処理してないのは流石にちょっと。

そんな感じで特に何事も問題なく平和でした。

今のとこ本当に何も問題無いな。このままであればいいけど。