「……このダンジョンはかなり広いんだね。各領域を守れるくらいに死霊を置くとしても、かなりの数になりそうだ」

「やっぱり厳しいか……?」

「まさか。誰がそんなことを言ったんだい? 多数の死霊を使役するのは、むしろボクの得意分野だよ」

そう言って、ドロシーはお気に入りの杖を振り回す。

棺桶の中から、杖はちゃっかり持ってきていたようだ。

地面から出てきた冷たい風が、全ての領域に行き渡るようにドロシーの髪を揺らした。

「はい。これで大体オッケーかな」

「え? もう終わったのか?」

「まあね。ボクの死霊が、既に守護されている領域を除いた全領域に到達するまで約三分くらい――あ、この領域はボクが住んでも良いんだよね?」

クルクルと杖を回し終わった時点で、既に作業は終わっていたらしい。

永遠の死霊使いという称号は伊達ではなく、何百体もの死霊を自由自在に操っていた。

三分後には、何倍も改善したディストピアに変わる。

当然、ロゼたちがいない領域に比べて、死霊のみの領域は防御力が下がるが、精神面という意味でそれ以上の成果が見込めそうだ。

これで、ロゼたちも集中して領域を守護できるだろう。

「でも、まさか魔王の下に付くことになるとはね。そういえば、君も人間だろ? どうして魔王の下になんか付いているんだい?」

「ちょっと人間界で色々あってな……帰れなくもなっちゃったし、俺にはここしか無いと思う」

「……? よく分からないけど、聞かない方が良いみたいだね。ただ、人間界で上手くいかないってのは分かる気がするよ」

ドロシーはリヒトの肩をポンと叩く。

同じく才能を持った者の先輩として、今のリヒトの心が少しだけ理解できたのかもしれない。

人間界では、行き過ぎた才能は潰されるものである。

これは、過去でも現在でも変わっておらず、ドロシーも似たような体験をしてきた。

だからこそ、今のリヒトに惹かれているのだろう。

「そういえば、ボクは魔王に――いや、魔王様に挨拶に行った方が良いのかな? 一応新入りってわけだし」

「いや、今頃アリアは眠ってるから気にしなくて良いよ。それより、フェイリスっていうちょっと怖い子がいるから、そっちの方に挨拶した方が良いかもな」

「フェイリス……? 確か君と一緒にいた子だよね? え? あの子怖い人だったの? そんな風には見えなかったけど……」

「あぁ。何か攻撃をしたら、自分の喉を掻っ切りながらやり返してくるぞ」

「何それ怖い」

リヒトは、かなり大雑把な紹介をする。

種族は違えど、これから共に戦うであろう仲間だ。仲良くなっても損になることはない。

本当の意味で嫌な奴というのは、このディストピアにいないため、ドロシーでもすぐに馴染むことができるはずだ。

そして、それをサポートするのもリヒトの義務だと言えた。

「フェイリスさんたちは仲間だし当然信用してるけどさ、もし何かあったらリヒトが助けに来てね」

「その時は蘇生させるから安心してくれ」

「出来れば死ぬ前に助けて欲しいな」

これから。

リヒトとドロシーは、死霊の確認のついでに、各領域の守護者へ挨拶に回ることになった。