「魔王サマ。やはり、あの人間の仲間たちガ助けに来ているヨウです」

「知っている」

「誤算なのハ、その仲間と思われる存在があまりに強大トいうことデスね」

「それを何とかして。アラーネア」

アラーネアと呼ばれた存在は、困ったようにカチャカチャと体を動かす。

二本の触覚、カマキリのような腕にトンボの羽――その他諸々の昆虫の部位で形成された体が、この不快な音を鳴らしていた。

いくら無茶ぶりと言えども、魔王に従う者である以上、最善の答えを出さなくてはならない。

体中に複数ある脳みそで、どのようにするべきか考え続けている。

「魔王様。今確認している敵は二人デス。片方ハ何とかなりそうデスが、もう片方は桁違いなので自分デハどうしようもありません」

「それなら片方は任せる。もう片方はワタシ」

「かしこまりまシタ」

西の魔王の発言を聞くと、アラーネアはカタカタと体を震わせながら敵の元へと向かう。

この震えは恐怖などではなく、臨戦態勢に入ったという合図だ。

体の中で飼っている虫も、敵に卵を産みつけようと口から溢れ出している。

「汚いから今虫は出さないで」

「……ひどいナァ」

罵倒九割の激励を受けながら。

アラーネアは、カマキリのような腕で器用に口を塞ぎつつ、そそくさとこの場を後にすることになった。

◇◆◇

「リヒトさーん! どこですかー!」

ボロボロの城の中に響き渡るロゼの声。

リヒトからの返事を期待しているようだが、聞こえてくるのは反響した自分の声だけだ。

リヒトの捜索は残りの三人に任せているため、ロゼがこのようなことをする必要は無い。

むしろ、相手に自分の位置をバラしているようなものであるため不利になっている。

しかし、それでもロゼは探し続けた。

「……りひと君ならここにハいまセンよ。残念でしタネ」

「――っ、誰ですか!」

耳にするだけで気分が悪くなる音――いや、声。

口の形が発音に適していないらしい。

むしろ、ここまで話せていることを褒めるべきなのか。

とにかく奇妙な生物である。

「アラーネアと呼んでくだサイ。決して怪しいモノではありませンよ」

「リヒトさんはどこですか! リヒトさんを返してください!」

「教えても意味がナイので教えまセン。貴女には虫たちの餌になってもらいマス」

アラーネアはそう言うと、口の中から苦しそうに数個ほど卵を吐き出す。

すると、その卵たちは僅か数秒ほどで孵化し、気持ちの悪い成虫の姿で現れた。

どれも見たことのない種類であり、どのような特性を持っているのか見えてこない。

つまり、リヒトの力が借りられないこの状況では、様子を見るしか選択肢がなかった。

「ソウいえば。貴女の相方、凄く強いデスね。アノ身体に卵を植え付ければ、強い虫たちが生まれそうデス」

「フフ、それは絶対に無理ですね」

安い挑発に心を乱すことなく、ロゼは笑ってその言葉を受け流す。

絶対にそんなことはできないと、アリアの実力を心から信頼しているためだ。

「……ナラ、やっぱり貴女ノ身体を使うことにしマス」

「……望むところです」

互いに睨み合うこの状況。

先に動いたのは、生まれたばかりの虫たちであった。