「国王様。生き残った兵士の話ですと、魔女はもう我々に力を貸すつもりはないようです。どうなされますか?」
「……その話はもう報告書で見た」
交渉の失敗に使者たちの死亡。
朝から嫌なニュースが国王の元に届けられる。
何よりも目を背けたくなるのが、既に魔王が関与していたという情報だ。
魔族から先手を取るために動いているのにもかかわらず、自分たちが後れを取っていることが判明してしまった。
魔王相手に後手に回っていられるほど、自分たちの戦力に余裕があるわけではない。
既に兵士や冒険者たちの命が多く奪われているため、負ける可能性だって十分にある。
数だけは有利だと思っていたが、それも時間の問題となるだろう。
どうにかして、代わりの策を練り直す必要があった。
「人間が他の種族と協力することは不可能なのかもしれないな……」
何もかも上手くいかない現実に、国王は諦めにも似た言葉を零す。
エルフや竜人に続いて、今回の魔女まで失敗してしまった。
その失敗のせいで失われた兵士たちの影響も馬鹿にならない。
ラトタ国とも情報の共有ができていないため、助け合うことが不可能だ。
「ラトタ国は魔王に対してどのような対応を取っている?」
「残念ながら詳しいことは分かっておりません。ですが、かなり余裕を持った態度なのは間違いないかと」
「……一体どういうことなんだ。自分たちは被害を受けないという確証でもあるのか?」
どう考えても納得できない隣国の態度。
自分たちが悩みに悩んでいるのにも拘わらず、どうしてそんな余裕でいられるのか。
ラトタ国から協力しようという提案もない。
完全に魔王を舐めきっているとしか思えなかった。
「……多少離れた国とも連絡を取り合うべきだな。魔女が魔王の支配下に置かれたことも報告せねばならないだろう」
国王は決断を済ませるとすぐに立ち上がる。
もう周りの対応を気にしている時間はない。
いつか始まる魔王との直接対決のため、どうにかして戦力を集める必要があった。
「人間全体の問題ということですね。他国の協力を仰ぎましょう」
「うむ。人間の国ならば、少なくとも魔王に支配されているということはないはずだ……そう信じたいが」
「犠牲になった者たちのためにも、絶対に魔王に屈するわけにはいきません。自信を持ってください、国王様」
下僕の声を受けながら、国王は重いペンを執ることになった。