逃げて、逃げて、どこまでも逃げた。

何度死んだと思ったか分からない、何度お腹が空いてひもじい思いをしたか分からない。

誰かに頼るのは嫌だった。

自分のために散っていく命を見るのが辛かった。

逃げて、逃げて、どこまでも逃げた。

何度泣いたか分からない、何度これは夢だと思ったかは分からない。

もうお城も町も、きっと、ボロボロになっているんだろう。

何もかも壊されて、記憶の中の景色は全て無くなっているんだろう。

逃げて、逃げて、どこまでも逃げた。

幸せな記憶が塗り潰されていった、もう死んだ方がマシだと思ってしまった。

そして、最後には私は一人になった。

誰もいなくなった。

本当に本当に、私は一人になった。

だから、私は決めた。

もう泣かない。

絶対に泣かない。

だって、私は全部忘れるから。

服も杖も全部取られて。

もう私はお姫様なんかじゃない。

記憶にあるもの全部が嘘なんだ。

嘘だから、悲しくない。

涙だって、もう出ないのだ。

目に映る世界もぼやけて見えた。

カラフルだった筈の世界は色を失い、近くのものでさえはっきりと見えなくなってしまった。

皆、自分を置いてどこかに行った。

幼いながらも理解出来た。

皆がどこに行ってしまったのか、幼いながらも分かってしまった。

泣かないこと。

泣かないことが今のシャーロットに出来る唯一の辛い世界への反抗だった。

だってこんな世界嫌いだ。

嫌いだから、絶対に泣いてなんかやらないのだ。

それなのに、いきなり現れたあの男の子に泣かされたときは本当に本当に。

ふかく、だと思ってしまったのだ。