Boundary Labyrinth and the Foreign Magician

Outside 1581, with a budding heart.

「我らの祖は元々、作られたものと言われている。地下の調査や資源の採掘を行うための存在であったのだな。この国を興した王は王家の直接の先祖で、我に似た姿であったという。地の魔力や熱から力を得、破損しても魔力から己を修復して動き続ける事ができる。そうした特性もそうだし、これらも……本来は掘削や採掘に使うものだったそうだ」

ドルトリウス王が語る言葉と共に。周囲に衛星のように浮いている球体の一つが軌道を変えた。

帯状にばらけたかと思うと、ドリルのように回転して見せる。手の形になって閉じたり開いたりしてからまた球体となってドルトリウス王の周囲に浮かんだ。

地下の調査と採掘か。元々は魔法生物やそれに類する存在だというのは……納得できる部分ではある。あの変形する球体も、かなり応用が利きそうだ。採掘や採集もかなり自由になりそうだしな。

「だが……始祖は忘れられたか、何らかの異変があったのだろう、と伝承には残っている。採掘から資源を持ち帰った時に地底の集積所ごと消えてなくなっていたそうだ。戻るべき場所と主……作られた目的と意味を始祖は失った」

それでも……王国の始祖は己の作られた意義を果たし続けたようだ、とドルトリウス王は語る。始祖は消えてしまった集積所に物資を集め続けた。誰も戻ってくることはなく、時折受けた損傷を長い時間をかけて修復し、動けるようになったら採掘に向かう。集積所が埋まったら自ら拡張、整備。本来なら保険として用意されていただけで使うはずもなかった制御術式の部分。

気の遠くなるような時間、集積と拡張。活動と修復とを繰り返す。何年。何十年。それとも何百年かも判然としない、永い永い間。

「そんな日々の終わりは、ある日突然にやってきた。元々自動集積のためにそれなりの判断能力を持っていた始祖であったが……自我と自由意志に目覚めたのだ」

誰も戻ってこない。受け取ってもらえない資源の山を目の前に、何のためにこんなことをしているのかという疑問が最初に浮かんだのだという。

「その瞬間に。作られた存在ではない、彼の世界が始まった」

自我の目覚めと共に自分の歩みを振り返り、何かを為したい、と、そう強く思ったのだという。それでも自分のしてきたことを全くの無為にはしたくないと思ったそうだ。

恐らくは……歴史を重ねた事で半精霊化や付喪神化のような変質をした結果とも言えるだろう。

そうして――始祖は集めた資材、拡張した集積所や掘り進めた土地を利用して何かをしたいと、そう強く望み行動を開始した。

「まずは創造主達の模倣から始める事にしたのだな。消失してしまったかつての集積所でそうしていたように。自分の過ごす場所を作り、集まった資源を元にちょっとした加工や魔道具の試作をしていった」

ねぐらを。家を。建物を作り、自分が過ごしやすいと思える場所を集めた資源を元に構築していったのだと、ドルトリウス王は語る。

自我の目覚めと変質は……同時に始祖にもう一つの能力を齎していた。

それは始祖が何かを為したいと望んだから、かも知れない。あるいは、自己修復の機能が変質した結果か。

眷属の核を生み出す能力が備わっていたのだ。本能としか呼べない部分でそれを理解した後に……始祖は孤独から逃れるため。あるいは子を、家族を、友を欲しいという想いから仲間を生み出した。

付喪神化や精霊としての変質の亜種だが、決定的に異なっていたのはこの部分、だろうか。生み出された核は自己修復の機能のように周辺の資源を取り込み、必要な器官や身体を構築し……年月と共に性質に合わせた成長をする。そういう性質を持っていたのだそうな。

そして始祖に作られた子らもまた、自由意志を持つ。二人一組でならば力を合わせ、始祖と同様に新たな眷属の核を生み出せる。

「元が誰かに作られた存在であったとしても……それはやはり新たな種族の誕生と同義でしょうね。何かを為したくて物を作ったり、同族を求めたりというのも……理解できるものです。自由意志の目覚めと同時に得られたのがその能力というのは……始祖の望んだ想いが結実したかのようで、象徴的ですね」

生きる意味や居場所を求めるというのは自然な事だろう。俺だって実家を出てからは自分や大切な人のいても良い場所が欲しくて動いてきたところがあるから、共感できる部分もあるというか。

俺の言葉に、ドルトリウス王は目を閉じる。ナヴェル達も思うところがあるのか、目を見開いたり魔力のラインを光らせたりと、各々反応しているようだった。

「そう……言ってくれるか。やはり、話をして正解であったな。地上人は我らを危惧するのではないかという見方もあったが……」

確かに……その部分を気に掛けるというのは分かる。地上人から見た場合でも彼らから見た場合でも懸念ではあるだろう。地上との接触に慎重になる規則も……そうした部分からのものではあるだろう。

「その見解も……否定はできぬな。魔法生物を構築する際には暴走や反乱が起こらないように対策を施されているというのは確かにある。だが少なくともテオドールやその周辺では……高度な自意識を持つ魔法生物に対しては友人や良き隣人としてありたいと願っている」

レアンドル王が言うとドルトリウス王は少し身体を震わせる。

「ふふ。そういったものも、元々がそうした存在だからかも知れぬが、なんとなく伝わるものだ。共にいる魔法生物達も自意識の多寡に違いはあれど、大事にされているように見えるしな」

ドルトリウス王の言葉にウロボロスがにやりと笑ったりウィズが頷いたり、ティアーズが少し身体を傾けたりといった反応を示していた。ナヴェルも頷いていたから……ここに案内するかどうかの判断材料にしたというのはあるかもな。ナヴェル達の来歴については王から話をするまで明かせなかったわけだし。

俺としては魔法生物達や付喪神達もそうだけれど、魔界の住民達も近いものがあると感じているから……地底王国の一族に関しては成り立ちや在り方、大切にしているものを否定したくはないな。

ともあれ子はその子……孫を育み、少しずつ特性を変えて枝分かれしながら。家は集落に。集落村に。村は町に……そして都へと発展し、今の形を形成した、というわけだ。

「我らの種族の歴史としてはこういう成り立ちとなる。地上との接触を制限している規則があるのは、先程の危惧の他にも理由があってな。やはり元が作られたものだからか、本能的に地上人に使役される事に安堵を覚えてしまうところがあった。かつてはの話だが」

「世代を重ねるたびに薄くなっていった、というわけですか」

「その通りだ。自分達の姿を人体に近付けたり、それと模した器官を備える事でも対策はとれたが」

各々の感情や行動への影響を確認しあっていたしな。そうしたかつての本能がもう薄れているから、地上との交流が頃合いかも知れないと言っていたわけだ。

確かに……その辺の確認をもっと取らないと自由な交流というわけにはいかない。

始祖の成り立ち方や先程交わしたやり取りからすると、自由意志や種族として確立された能力を大事に思っているようだから、そうしたかつての本能的な部分に付け込まれて利用されてしまうというようなことは彼らとしても許容しかねるだろう。

「地上の者達を、嫌っているわけでも恐れているわけでもないのだ。寧ろ始祖は世に作り出してくれた事そのものには感謝をしていたというし、それは我らとて同じだ。だからこそ……そうさな。拒絶されてしまうことを恐れているのだ。親と子と呼ぶのは関係性が少し違うが、世界の祝福と幸運によって我らは心と家族を得た身だ。地上人との邂逅を果たした時にいがみ合いや憎しみ合いで終わってしまっては、あまりにも無情というものであろう」

そう……。そうだな。接触したいが拒絶されるのが悲しいというのは、分かる気がする。それに仮に物別れに終わってしまっても、それでも彼らはだからと言って迎合したりせず、誇り高く生きていくだろうということも想像がつく。自分達に芽生えた心を、何よりの宝だと思っているから。