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263 Social Tour of Mermaid Students Athletics Part VIII

 オークのハッカイです。

 今日もアロワナ王子の一行は元気に地上を旅しています。

 今回は特にトラブルやらクエストやらもなく、ごく普通の旅路です。

 宿泊地から出発して、次の宿泊地まで到達することが単純な目的となるでしょう。

「そろそろパッファが来る頃かな?」

 出立を前に、我々はパッファ様との合流を待ちます。

 あの方は、アロワナ王子と離れるのが嫌で無理やり同行。

 転移魔法を駆使して行ったり来たり。農場での仕事と、武者修行を両立させている猛者なのでした。

 昨晩は、宿に入る前に農場へ帰り、仕事を済ましてから戻ってくるとのことです。

「うぃー、おはよー」

 そして戻ってきました。

 パッファ様は無頼風のキャラを演じていますが意外と時間に几帳面です。

 今まで約束の時間に遅れたことは一度もありません。

「んじゃー、今日も気合い入れて旅するかー。……と言いたいところだけど」

「ん?」

 なんか……、変ですよ?

 いつもと違いますよ?

 パッファ様の転移魔法で飛んできたのが、普段ならばパッファ様お一人だけだというのに……。

 なんか今日は他にたくさんいる!?

 総勢二十人ぐらい!?

 なんで!?

「マーメイドウィッチアカデミア農場分校、社会見学の日~」

「はあぁッ!!」

 どういうことなのですか?

 パッファ様が引き連れてきた集団は、よく見ればいずれも若い女性で、まだ大人ですらないようです。

 全員ちゃんと二本の足で立っていますが……。

 この気配、皆人魚?

「わーい、アロワナお兄ちゃんだー」

「エンゼル!? 何故お前がここに!?」

 二十人の中にいた、とりわけ活発そうな女の子がアロワナ王子に抱きつきました。

 その子をパッファ様がグーパンして引き離しました。

「プラティから命令されてさー。尻びれの青い小娘どもに陸の社会を教えてやれってさ」

「一体どういうことなのだ!?」

 アロワナ王子も私も、まったく話について行けませんでした。

 パッファ様の説明するところ聖者様の農場では今、人魚国が学校を設立して、多数の若い女生徒が移住してるんだとか。

 分校?

 いや別にどっちでもいいじゃないですか。

「では、ここにいる女子たちは、皆マーメイドウィッチアカデミアの生徒というわけか?」

 エリートではないか、とアロワナ王子が嘆息しています。

「私が旅している間に、そんなことになっていたとは……!」

「でさ、勉強の一環としてプラティのヤツが社会見学させて来いってさ」

「さっきから言ってるが、なんだその社会見学というのは……!?」

 あの……、連れてこられた女子たち若いだけに落ち着きがなくて……!

 初めて見る地上奥地の風景にはしゃいで散ろうとしてるんですが……!

 クッソ私が取りまとめないと!

「だから、陸で修業する次期国王を見学」

「私かあッ!?」

 なんと彼女らの見学対象はアロワナ王子そのものでした。

 まあ王子様なんですし、注目の対象にはなるかと。

「お兄ちゃん! 今日はお兄ちゃんをたくさん見学させてください!」

 さっき抱きついてきた子が言います。

 誰?

「お願いします!」

「「「「「お願いします!!」」」」」

 女生徒一斉に頭を下げます。

 当惑気味のアロワナ王子に、パッファ様が耳打ち。

「……人魚国じゃ今、旦那様の策が当たってるんだって。よからぬことを考えてるヤツが、王子不在に浮足立ってるんだとか」

 アロワナ王子が晴れて修行を終えて帰ってきた時、ソイツらをまとめて一掃する。

 この旅の数ある目的の一つですよね。

「でも、それを暴発しないよう収束しないよう絶妙の力加減で抑え続けるのは面倒だって。まだ戻ってくる気がないんなら協力しろって」

 なるほど。

 ここでアロワナ王子がカッコいいところを見せて修行の成果を示せば、彼女らを通じて本国へと伝わる。

 アロワナ王子は、着実に成長していると。

 さすれば王子不在中に何か企んでいる人たちも慎重になるだろうと。

「……パッファ、それは誰からの言伝だ?」

「お義母さんから、プラティを通じてアタイに」

 今『お義母さん』って言った凄い自然に。

「……是非もないな、無茶を言って武者修行の旅に出させてもらったのだ」

 アロワナ王子、手にした矛を派手に振り回します。

「よかろう! 今日はこの私の雄姿をしっかり見学していくがいい!!」

「「「「「わ~ッ!!」」」」」

 万雷の拍手。

 して、社会見学ってどうするんです?

 アロワナ王子のカッコいいところを見せると言っても具体的には?

 その辺でモンスターか盗賊でも見つけて退治するんですか?

「手っ取り早く模擬戦でいいんじゃない?」

「模擬戦?」

 パッファ様は、こちらにかまわずサクサク話を進めます。

「お~い、ソンゴクちゃん」

「何っすかぁー姐さん?」

 我関せずと向こうで遊んでた天使ソンゴクフォンを呼んで……。

「ちょっと旦那様と戦ってよソンゴクちゃん」

「ラジャー」

 とんでもないことを言い出しました。

 アロワナ王子をソンゴクフォンとサシでやらせるとか本気ですか!?

 相手は神すら恐れさせる存在ですよ!?

「それくらいの相手と互角以上に戦えないと示しがつかねえだろ」

 示しをつけるだけならもっとハードル低くていいのでは!?

 どちらにしろ天使とガチバトルはないでしょう!?

 ……あ、いや。

 ソンゴクフォンとて、私たちと一緒に旅して多少は成長しているはず。精神的に。

 常識や思慮を身につけて……。

 この勝負だって、上手く手加減してアロワナ王子に花を持たせてくれると言うことも……。

「マナカノン、フルパワー」

「うへえッ!?」

 ソンゴクフォンちゃんの放った閃光を、アロワナ王子はギリ避けました。

 流れ弾となったマナカノンは向こうへ長く走っていき……。

 遠くにあるお山を拭き飛ばしました。

「…………ッ!?」

「!?」

「!?!?!?!?」

 見学する女学生たちから即座に表情が消えました。

 想像を超えるものに出会ってしまった時の顔でした。

「ちょっとーッ!? ソンゴクちゃん手加減なしではないかーッ!?」

「バトルと言えばガチッしょー? つーわけでフルファイヤー」

「ぎゃあああああッ!?」

 アロワナ王子、もはや威厳を示すどころではなく生き残るだけが望みの戦いになってきました。

 それを見学する人魚の女生徒さんたちは表情が死んでます。

 周囲がソンゴクフォンちゃんのばら撒く閃光によって火の海となる中……。

 最悪の状況をさらに最悪にする者が降り立ちました。

『アロワナ殿! 実に果敢ではないか!!』

 現れるドラゴン。

 新たな旅の仲間。グリンツドラゴンのアードヘッグ様でした。

 宿に泊まる時『気晴らしにその辺飛び回ってくる』と言っていた彼が、このタイミングで戻ってくるとは。

『天使ソンゴクフォンに単身挑むとはなんという蛮勇! それこそ英雄の証!』

「アードヘッグ殿……! そういうんじゃなくて……! 助けて……!」

『貴殿の資質を見極めるため、おれも参戦するのが最善と見た! いくぞーッ!』

「ぎえええええええッ!?」

 地獄絵図。

 ソンゴクフォンちゃんvsアードヘッグ様vsアロワナ王子の三つ巴戦。

 どう考えてもアロワナ王子が場違い。

 数秒と経たずに消し炭になってしまうんでは!?

「甘いね、よーく見てみな……」

 パッファ様が落ち着き払っていますが、これは一刻も早く救出せねばアロワナ王子の存亡に関わる。

「うぎゃあああああッ! ひいいいいいいいッ!?」

 ほら! 今にも死にそうな悲鳴を上げて……!?

「うおおおおおおッ!? んほおおおおおおおおッ!?」

 ……あれ?

 悲鳴がなかなかやみませんね?

 アロワナ王子しぶとい?

「あの人を侮るんじゃないよ」

 パッファ様が自信たっぷりに言います。

「伊達にこれまでノーライフキングや吸血鬼やオートマトンと戦ってきたわけじゃないんだ。皆の助けもあった。それでも旦那様はピンチを乗り越え確実に強くなっている……!」

 な、なんですってー?

 あッ、アロワナ王子、真正面からドラゴンブレスを斬り裂きましたよ、矛で!?

『むうッ!?』

 今度は、ソンゴクフォンちゃんのマナカノン乱射を潜り抜けて懐に入った!?

「ここまで接近すれば飛び道具は役立つまい!」

「うへぇー、王子のすけべー、離れるっスよ変態ぃー!」

「離れたらまた狙い撃ちされるだろうが! 神様から遠近両用の武器を貰っていながら、使い慣れていないとは不心得だな!!」

 互角に戦っている……!?

 天使とドラゴンに挟まれながら……!?

 アロワナ王子そんなに強くなっていたんですか!? この旅で!?

 この神話の戦いかと見紛う風景を前に、人魚女生徒たちは完全に表情が死んでいました。

「お兄ちゃんが遠いところへ行ってしまった……」

 彼女たちは帰ったあと「アロワナ王子がドラゴンとかと互角に戦ってた!」という噂を人魚国に流してくれる……。

 ……んでしょうか?

 豪快すぎて逆に眉唾と思われそうなんですが?