女神から説明を聞き終えたハルはゆっくりと目を開く。

「ハ、ハルさん! 大丈夫ですか!? 急に倒れるから! どこか、怪我してませんか? 気持ち悪くないですか? 痛みのある場所は?」

ハルが目を覚ました瞬間、泣きそうな表情でぐいっと近づいたルナリアは矢継ぎ早に質問をする。

急に彼女の目の前で倒れたハルは、呼吸をしている以外はなんの反応も示さなかったため、ルナリアはもう起きないのかもしれないとすら思い、倒れたハルの側で不安にくれていた。

そのハルが目を覚ましたとなれば、心配が爆発するのも当然のことだった。

「ま、待った待った。ちょっと待ってくれ! そんなにいっぺんに聞かれても答えられない。とりあえず、俺は大丈夫だから!」

目を覚ましたハルはといえば、今の自分の置かれた状況に驚き、早く身体を起こさなければと思っていた。

いま、ハルの頭は、ルナリアの膝の上。つまり、膝枕されている状況にある。

「ダメです! 倒れて、ずっと意識を失っていたんですよ? もう少しゆっくりしていて下さい! 急に身体を起こすなんてもってのほかです!」

どこにそんな力があるのかと思うほど強引な形でルナリアに頭と身体を押さえられたハルは、再び元の姿勢に戻される。

「はあ、本当に大丈夫なんだけどな……それなら、このままの姿勢でいいから俺の話を聞いてくれないか?」

困ったような表情のハルの言葉に、ルナリアは少し考える。

「――わかりました」

本当ならこのまましばらくは休んでほしい――そう思うルナリアだったが、ハルの顔色は良く、言葉もはっきりとしており、視線も定まっていることから、その意見を飲むことにする。

返事を聞いて安心したハルは思い出すように目を瞑って話し始める。

「俺が意識を失った理由は二つあるんだ。一つは俺のレベルが上がったことだ」

「……レベル?」

倒した相手の能力を手に入れることができるとは話したが、レベルについては話していなかったため、ルナリアは首を傾げる。

「俺は魔物を一定量倒すと、爆発的に力が強化される――そう思ってくれ。もう一つの理由のほうが大事だからな」

ならばなぜ先にレベルのことを話した? そう自分に疑問を持ちながらも、ハルは話を続ける。

「もう一つの理由は……俺が女神に呼ばれたからだ」

「えっ? め、女神ですか? それは一体どういう?」

神という存在はいる――それは信仰上の話だけでなく、この世界には神がいるというのは、多くの人間が心のどこかで信じていることである。

この世界では十二歳になると第一成人の儀があり、その際に神よりギフトを授かることに由来する。

しかし、誰も見たことのないはずの女神に呼ばれたというハル。

「……俺の力は特殊でな。この力に目覚めた時に女神から色々と説明を受けたんだよ。さっきも、気絶している間、意識だけは女神のところにあった」

にわかには信じがたい言葉だったが、ハルが嘘をつくとも思えないため、どう反応して良いものか分からなかったルナリアは混乱してしまう。

「でもって、女神からルナリアに伝言があるんだよ。それを伝えるためには身体を起こさないといけないんだが……いいか?」

女神という話に困惑しているルナリアの抵抗はなく、ハルはゆっくりと身体を起こす。

「それで、ルナリアは壁に寄りかかるように座ってくれ」

ハルの指示に従って、ルナリアは指定の場所に移動して座る。

いまだ戸惑っている様子ではあるが、ハルを信じているおかげか、いわれるがままに動いていた。

「それじゃ、手を握って……“ハルの名において告げる。汝、ルナリアに女神セア、女神ディオナの加護を授ける”」

ルナリアの手を握りながら目を閉じたハルは、セアに教えてもらえた言葉を口にする。

それは言葉のとおり、ハルに授けられているのと同じ女神の加護をルナリアにも付与するものだった。

「えっ? め、女神? 加護?」

混乱に混乱を重ねるルナリアの身体は、ハルの言葉に促されるように現れた光によってぼわっと包まれている。

「ルナリア、あとの説明は女神からしてもらってくれ。それじゃあ、おやすみ」

「えっ、おやす……」

優しい笑みを浮かべるハルがそこまで言うと、終始戸惑いっぱなしだったルナリアは吸い込まれるように意識を失う。

「おっと、横に倒れないようにしないとな」

倒れこむ彼女を抱き留めたハルは、深く眠るように静かに息をするルナリアの姿勢をなおして、うまく壁にもたれかかるようにする。

それからハルは周囲を警戒しながら、ルナリアを見守っている。女神たちとの邂逅が上手く行くように願いながら――。

時間にしてニ十分ほど経過したところで、ルナリアがゆっくりと目を覚ました。

「……ここは、廃城、ですか? ……戻ってきました、ただいまです、ハルさん」

最初はぼんやりとした意識だったルナリアは、辺りを見渡し、ハルの姿を見つけると、徐々に自分が女神たちと出会った場所から戻ってきたことを認識する。

ハルは彼女は誰と会って、何を話してきたのかを理解している。

だからこそ、柔らかな笑みを浮かべてルナリアの帰還を喜んだ。

「どうだった?」

「すごかったです……まさか、私が女神様に会うことになるなんて」

うっとりとした表情のルナリアの目は、胸いっぱいに広がる感動にキラキラと輝いていた。

「これで、俺とルナリアは同じ立場になったわけだ。改めてよろしく」

ハルが握手を求めて手を差し出すと、ルナリアは笑顔で握り返してくる。

「はい……ハルさん、私の能力を確認して下さい」

ルナリアはハルのギフト『成長』について、そして鑑定の能力を持っていることを女神から聞かされていた。

だから、言葉で説明するよりも早く、彼に自分に何があったのかを知ってもらいたかった。

「わかった……すごいな。まさかこれほどとは」

ルナリアの能力を確認してハルは目を大きく見開いて驚く。彼女はハルが予想していた以上のギフトを持っていた。

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名前:ルナリア

性別:女

レベル:-

ギフト:オールエレメント

スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、

水魔法1、光魔法1、闇魔法1

加護:女神セア、女神ディオナ

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女神の加護により正しくギフトを開花させたルナリアが持つ『オールエレメント』は全ての属性魔法を使うことができる。

そして、ギフトに紐づく形で各魔法がスキル欄に収納されていた。

「全員を確認したわけじゃないけど、スキルを持っているのは俺とルナリアだけかもしれないな」

「はいっ! なんだか、ハルさんのことをもっともっと知れた気がして嬉しいです!」

優しい表情をしているハルの手を嬉しさと感動いっぱいに握るルナリアはとても幸せそうに笑った。

ずっと自分の力が目覚めなかったハル。

目覚めた力がうまく使えなかったルナリア。

長年の努力と女神との邂逅で力に目覚めたハル。

そんな彼との出会いで目覚めた力が使えるようになったルナリア。

同じ二人の女神の加護を得たハルとルナリア。

二人は世界でただ二人、互いを理解できる存在になりつつあった。