放課後、初めてのクランの活動をするために俺が所属するクランに与えられたクランハウスに向かう。

学校が認定したクランに対し活動する場としてクランハウスを提供しているのだが、生徒会や風紀委員会のように登録人員が多いクランは戸建ての一軒家を与えられている。

しかし俺たちのクランのように少人数でしかも実績のないクランの場合は使われていない教室などが充てがわれるようだ。

なので、俺たちのクランハウスは旧校舎の小さめの教室だ。

「紹介するね。彼がクリストフでこっちの子がペロンね。それとこの子はクララでこの子がプリッツよ」

カルラがそれぞれを紹介して皆が挨拶をする。

クララとプリッツは共に金髪碧眼でとてもよく似ている。てか、双子じゃん。

プリッツはどちらかと言えば女顔なので女装させたら妹のクララと言われても分からないだろう。

ありと言えばありだろう。

何がって聞かないでね。

ん、皆が俺を見ている・・・あ、挨拶ね。

「クリストフ・フォン・ブリュトゼルスです。気軽にクリストフと呼んでください」

「私はクララ・フォン・ヘカート。貴方のことはクリストフ様と呼べばよろしいかしら?」

「呼び捨てでいいよ。カルラもそうしてるしフランクに接してくれればいいよ」

カルラは俺が許す前から呼び捨てにしているけどね。

「良かったわ。私、堅苦しいの苦手なの。こっちはプリッツ、私の弟よ」

「プリッツです。因みに戸籍上は兄です。クララの願望は無視してくださいね」

願望なんだ。

クララがなにやら抗議しているようだが、事実ってことでプリッツの勝ちらしい。

そりゃそうだわな。

「挨拶も終わったし、これからクラン『MIツクール』の初活動を行います!」

皆でパチパチと拍手をしてカルラの進行を盛り上げるが、クラン名の『MIツクール』って初めて聞いたよ・・・誰が考えたんだよ!?

ペロンやクララ兄妹を見るが首を横に振る。

「ボクがクランマスターのカルラ・フォン・アダチです。副マスターはペロン・クックに就いてもらっています!」

「えっ! 僕?」

ペロンは副マスターという事実を今まで知らなかったようだ。

「ペロンが副マスターよ、よろしくね。それから会計担当がプリッツね」

「僕なんだ・・・」

プリッツも知らなかったようだ。

「クリストフとクララは平クラン員よ!」

「えぇぇ~、プリッツに役があるのに私には無いのぉ~?」

「じゃぁ、僕と代わろうか」

「そうね「ダメっ!」」

「クララにお金の管理なんか任せられないよ!」

随分な言いようだな。

何となくだが2人の性格が分った気がする。

クララは良い言い方をすれば天真爛漫、悪い言い方をすれば大雑把だ。・・・ガサツの方が合っているのか?

プリッツは控えめで細かい作業が合いそうな繊細さを持っている。

姿形は同じだが、中身は正反対の双子だな。

2人を足して2で割ったら丁度良いと思います!

しかし、このクランは女性が快活な性格で、俺以外の男性は控えめと言うか内気だ。

ここは平衡バランスに優れる俺がしっかりとしなければ!

「ちょっとクリストフ、聞いているの?!」

「ん、何だっけ?」

「まったく、もう。6月にあるクラン対抗戦に登録するから気合を入れてよね!」

「分った。・・・で、クラン対抗戦って何?」

「あんたねぇ・・・」

カルラだけではなくペロンにも呆れられました。

知らないんだから仕方がないじゃんね!

「クラン対抗戦というのはクランどうしで魔法や魔術を競い合う試合のことよ。基本的には戦闘力を競うものだけど、でも全部が全部戦闘ってわけでもないの。与えられた課題をクリアすると点数が入り、点数で勝敗を決めるって競技もあるわ。このクラン対抗戦で上位に入ればクランの活動資金が多くもらえ、そうじゃないと分かるわよね?」

「・・・活動資金が少ないってことね」

「その通り! だから全力で活動資金を取りに行ってマジックアイテム研究を充実させるのよ! 皆、分かった?!」

「「「「はい」」」」

カルラの剣幕に誰もが押されて返事をしてしまったが、一応は把握しました。

「で、その前にクリストフの決闘についてだけど、準備はできているの?」

「まぁ、ボチボチね。こう見えても魔法や魔術は得意だしね」

どう見えているかは知らないけれど、事実として魔法や魔術に関して俺はチートだし。

自作のマジックアイテムも色々取り揃えておりますよ!

マジックアイテムの構想を練っている時とか作っている時なんか、バカボンの悶え苦しむ姿を想像してこうふ・ゲフンゲフンッ・・気の毒になったほどですよ。

「今クリストフに大怪我をされるとクラン対抗戦に出場できなくなってしまうから気をつけてよね。クラン『MIツクール』は5人しかいないから1人でも欠けたら出場できなくなっちゃうんだからねっ!」

俺の体の心配じゃなくてクラン対抗戦の心配かよっ!

皆が俺のことを慰めの視線で見ている。

「怪我をするつもりはないから安心してほしい」

「クリストフのことだから、そんなに心配していないけど、万が一ってこともあるから頼んだわよ!」

「了解した」

何故かカルラもペロンも決闘に関して殆ど心配をしていない。

どこからその信頼が来るのかは分からないが、ギャァギャァ騒がれるよりはよっぽど良いのかと思っている。

てなわけで、能力に関しては信用されているみたいです!

さて、そんな感じで横道に逸れていた話が通常軌道に戻りクランの活動の話になったが、4人全員が自分で魔法陣を書いたことはあるもののオリジナル魔法陣を持っていないと言う。

オリジナル魔法陣とは誰かの真似をするのではなく、自分で1から魔法陣の構成を考え試行錯誤して作り上げた魔法陣のことを言う。

「クリストフはオリジナル魔法陣を持っているの?」

「・・・まぁ、それなりに」

因みにブリュト商会で発売しているマジックアイテムに記載している魔法陣、つまり日本語ベースの魔法陣は一応オリジナル魔法陣として魔術師ギルドに登録をしている。

魔術師ギルドに登録したからと言って特許みたいに守られることは無いが、一般販売しているマジックアイテムに書かれている魔法陣が登録もされていない未知の魔法陣だと知れたら面倒事になると言われ父上から登録を進められたというわけですね。

「凄いじゃないの! いったいどんなオリジナル魔法陣なの?」

それって企業秘密なんですが・・・

まぁ、いいか。

俺は指に嵌めていた力のリングを取ってカルラに手渡す。

「この指輪に・・・あれ、これって・・・ブリュト商会の?」

カルラの後ろからリングを覗き込んでいたプリッツだったが、俺のリングがブリュト商会の商品だと直ぐに分ってしまったようだ。

てか、一目でわかるとか凄いじゃん。

「クリストフ君、この指輪ってブリュト商会で売っている力のリングだよね?」

「何よ、ビックリしたじゃない。買ってきた物を見せて騙したわね!」

クララが買ってきた物だと断言しているが、カルラとペロンは違う結論に至ったようだ。

「クリストフ君、ブリュト商会ってブリュトゼルス辺境伯家の商会だったよね?・・・」

「う~ん、ちょっと違うかな。ブリュト商会はブリュトゼルス辺境伯家の商会ではなく私の商会だね。私が会頭をしているよ」

「「「「えぇぇぇぇ~っ!」」」」

俺がブリュト商会の会頭だと知った4人はアレヤコレヤと俺を質問攻めにしてきた。

質問攻めが終わって帰る頃には既に外は夜の帳が降りていた。