Cheat na Kaineko no Okage de Rakuraku Level Up
112 stories, a game of pastime.
建物の空きスペースで貴族階級の騎士とちょっとした勝負をすることになった。
木剣が用意されるまでは、空き時間だ。
ミーシャはあきれ半分、面白そうだという顔半分で見ていた。
「いるのよね。自分の実力がよくわからないまま調子に乗っちゃう奴って。きっと、いいところの出だから、騎士の中でも甘やかされてたのよ。わざと手柄取れるように上が仕向けたりね。それを実力だと勘違いしちゃうと悲惨よね」
「まだ、十歳や十五歳ならともかくとして、もう大人と言っていい年齢だぞ。それで実力がわかってないなら、わかってない奴の自己責任だろ」
いくら周囲がお前は最強だと言ってたとしても、それがリップサービスと理解する頭はいるだろう。そのままダンジョンに潜って殺されたとしても、そいつが悪いということになるはずだ。
「私としてはちょうどいい余興ができて、退屈しのぎになってとてもうれしいけど。できれば私が戦えたら最高だったんだけどね」
「相手が思いあがってるからこそ、男の俺とやりたいと思うだろ。女に勝っても強さを証明したことにならないとか考えてそうだ」
ミーシャは例外中の例外だから、そこを理解しろというのもひどい話ではあるが。
俺が準備運動でアキレス腱を伸ばしていたら、そこにマーセル・カタリナ夫妻が走ってきた。
「すいません! あの騎士はどうも思い上がりが激しいようで……。騎士になってからも甘やかされて育ったんでしょう」
俺の読みが完璧に当たっていた。
「今から彼に言ってやめさせますので……。不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」
「いえ、ここに来ている人はSランク冒険者の戦いを見たいと思っているはずですし、その機会と考えれば悪いことじゃないですよ」
それにああいう手合いはこっちが負けを認めて逃げたとか吹聴しそうだしな。きっちり倒しておく必要がある。
「わかりました……。ただ、くれぐれも大ケガを負わせたりしないようにしてやってください……」
「ああ、それぐらいの手加減はしますから大丈夫ですよ」
「旦那、せっかくなんだ。とことん、華麗に決めてやってくださいよ」
レナ、ここで旦那って呼ぶのやめとけよ。お嬢様というか、お姫様なんだからさ。
出席者がなんだなんだと集まってきた。なかなかの盛況だ。
騎士のほうは相変わらず、勝つ気満々の顔をしている。どこにその根拠と自信が湧いてくるのか謎だが、今、王国はどこかと戦争しているわけでもないはずだし、勘違いしたまま今の立場になってしまうということはありうるのかもしれない。
「ルールはどうしますか? どちらかが戦えなくなるまでやるというのはどうですか?」
こいつ、バカか。こんなところでガチに近いルールでやったら怖いだろ。でも、相手が降参するしかない状態に持ち込めばいいわけだから、やれなくはないな。
「じゃあ、それでいい。そっちが好きなタイミングではじめてくれ」
俺は一応、木の剣を構える。
それから、敵の構えを見る。見事に隙だらけだった。それ以前に、まったくと言っていいほど怖さみたいなオーラがない。強い冒険者だったら、相対するだけでそういうオーラを感じるんだけど、そういうのが皆無だ。
「騎士の剣が冒険者の剣にどれだけ通用するか確認させていただきますよ!」
「そうだな。じゃあ、その剣とやらを見せてくれ」
さて、どうやったら上手く倒したことになるかなと思ったけど、すぐに相手が向かってきた。
よし、こういうので行こうか。
俺は剣を一気に横から払う。
カァァァン!
そのまま、騎士の剣をはじく。
騎士の剣は乾いた音を立てて、遠くへ落ちた。
「あれ……?」
呆然と騎士は突っ立っている。
「はい。どちらかが戦えなくなるまでってルールだったから、これで終わりでいいかな? もう、君が戦うのは無理だよな」
これだけでも「さすがSランク冒険者だ!」「武器自体を飛ばして終わらせるとは!」と褒められた。褒められるハードルが低い。
「こ、こんなのは認めない! 武器を奪うのは卑怯だ!」
「卑怯って、別に剣を持つ手を狙ったわけでもないし、むしろ打ち合いの中であっさり剣を放しちゃう君に問題があるはずだけど。これが決闘だったら、このまま丸腰の間に殺されてるよ」
せっかくなので、正論で攻撃してみる。弱い者いじめみたいだが、逆に早めに挫折させておかないと、勘違いして戦場に出たら命を落とすからな。一種の教育なんだ。自分が弱いということを理解させることも必要だ。Lv5しかないのに、Lv15ぐらいは戦えると過信したら、本当に危ない。
でも、プライド高い奴だから、これじゃ理解できないよな。でなきゃ、そもそも俺に勝負を挑んでこないだろうし。
「もう一戦! もう一戦やらせてください! 次は武器を奪うのはナシで!」
だから、お前が武器をちゃんと持ってないだけなんだって。
「いいぜ。じゃあ、もう一戦な。君が武器を持ってるまま、勝負をつけてやる」