「あちらさん側は、積極的に姫様と敵対しようとしているけれどもねえ……」

「それが、目下の悩みね。それと彼が重い決意を持ったのだとしたら尚のこと、大事なのはこれからだと思うわ。自分の目指す姿って、常に問いかけられるのよね。自身からも、他者からも。私自身、そうだわ」

良い例が、目の前のディダに覚悟を問われた時だ。

あの時私は、自分の目指す姿……そして、私が目指す領の姿を問われた。

自分では『こうだ』と思っていても、どこかのタイミングで問われ、見失いかけ、見つめ直すという時がくるのだと思う。

楽な道を選びたい、そういった誘惑に人は弱いもの。……勿論、私も含めて。

「だから、彼がそれを貫くことができるのか。失敗しても立ち上がり、目指し続けることができるのか。それが、一番難しくて大切なことなのだと思う」

「そりゃ、確かに難しいなあ。俺だって、迷うこともあれば失敗することもあるし」

ディダはそう言って、カラカラと笑った。

「まあ……それはともかく、話は分かったわ。ありがとう、ディダ」

「礼には及ばねえさ。……さて、と。それじゃあ俺はそろそろ行くんで」

「ええ。引き留めてしまって、申し訳なかったわね」

「いえいえ。じゃ、失礼します」

私は一人残り、再び淹れてもらったお茶をいただく。

いつの間にか時が随分経っていて、夕日が緑を照らしていた。

静かな、時。いつまでもこんな時が続けば良いと、心底思う。

「……ただいま戻りました、お嬢様」

音もなく現れたのは、ターニャだった。

「おかえりなさい、ターニャ」

「全てお嬢様の仰られていた通りに采配致しました。再び何か動きがございましたら、ご報告致します」

「ええ、よろしくね」