Common Sense of a Warrior

My frustration.

「……誰!?」

八つ当たりのように、厳しい声でまだ見もしない相手に問いかける。

「お前こそ、誰だ?ここは、子どもが立ち入る場所じゃないぞ」

そこにいたのは、私より少し年上の男の子だった。

「……そういうあなたこそ、ここの関係者には見えないけれども」

「俺は以前、父の視察のお供でここに来たことがあってな。それ以来、ここの視察は一応任されているんだ。……それで?お前は?」

「……ち、父が……軍の関係者で。私も連れられて来たことがあって。門番の方も知り合いだし……」

とても、言いにくかった。

私が八つ当たりをした男の子は、理由があってここに来ていた。

けれども、私は単に独りになりたいからという私の我儘でここにいる。

それも、父親の名があるからこそできることで。

さっきまで父親の存在の大きさに迷い、彼の手から羽ばたくことができない自分の弱さを恥じて泣いていたというのに、結局私は父親の名を使っているんだ。

そう思ったら、さっきまで爆発しそうなぐらい熱かった感情が、急にサッと冷えた。

「それで、ここに入れたのか」

「……ご、ごめんなさい。私ったら、私用でここに入り込んでしまったのに、貴方に向けてあんな口調で誰だ、なんて。今すぐ、出て行きます……」

「……待て」

 立ち上がった私を、彼が止めた。

「俺も格好をつけて役目と言ったが、正式に任命されたワケじゃない。ここから見る景色が好きで、父親にここに立ち入る許可を貰った時にその交換条件でここの様子を報告する……なんて、そんな緩い条件を突きつけられただけなんだ。だから、お前がここにいることを咎める資格は俺にない。最も、お前がここと全くの無関係で、冒険ついでにコソコソ忍び込んでいたのなら、ここの警備はどうなっているんだと頭を痛めていたところだが……」

……私、門番の方にも迷惑をかけたんだな。

今更ながらのことに考えが至って、自分の馬鹿さ加減に私こそ頭が痛くなった気がした。

「……むしろ、済まなかった。声をかけず、盗み見のようなことをしてしまった」

「貴方は、悪くない。悪くないのに……私は……」

それから、ポツリポツリと私は彼に自分の身の上話をした。

お父様が作った護衛の設定で。

途中、彼は私の横に座って黙ってそれを聞いてくれた。

「……それは、言われて当然だろうな」

私の話を聞いて、一番に彼が言った言葉はそれだった。

やっぱりそうか……と、胸の中に重石が乗ったような心地がする。

「何をそんなに、泣く必要がある?お前が恵まれた環境にいるのは、事実なのだろう?それに対して男が言った言葉は、真実だ。まあ……聞く価値のない戯言だがな」

「真実なのに、戯言?」

「真実だから、だ。事実は起こった事柄。決して覆ることのない、ただ一つのことだ。それに対して真実は、個人の主観的結論だ。お前がお前の父に剣を習った事に対する、その男の解釈に過ぎない」

「……難しい」

「要するに、嫉妬しているだけのことだ。事実を盾に、自分の感情を言葉にしてぶつけただけ。そんなの一々気にしていたら、身がもたないぞ」

「でも、私の力が足りていないっていうのは、本当のことで……」

「だから何だ?」

彼の問いに、私は言葉を失う。

「己の力が足りないことを恥じるのは、良い。けれども、卑屈にはなる必要はないだろう。目的に向かって、前だけを見据えて進めば良いんだ。戯言など、気にする必要はない」

「……前だけを見据える……」

「そうだ。お前は、何のために武術をやっているんだ?……譲れない何かがないのなら、さっさと辞めろ。この先、その男のような奴は、沢山、出てくるだろうからな」

男の子の言葉は、酷く私の胸に響いた。

……そうだ、私には目的がある。

どんなに苦しくても辛くても、例えその先に得るものがなかったとしても。

私は、私の大切なものを奪ったものを許さない。必ず、報いを受けさせる。

そう、覚悟を決めたのだ。

だからこそ、あの優し過ぎる光景からも目を背けたのだ。

力が足りない?……ならば、つければ良い。

周りに認められない?……はなっから、そんなの求めてなかった。

私は、私の求める結果を残すために力を求めるだけ。

そう思ったら、私の視界が開けた気がした。

「……ありがとう。とても、スッキリしたわ」

「そうか」

「随分と、実感のこもった助言だったわ」

「……いつもそう、自分に言い聞かせているからな」

「……なら、私とあなたは同じね」

「そうだな」

ジッと、私は彼を見る。

端正な顔立ちだけれども、美しいというよりかは怖いという印象を与えるのは、彼が常に鋭い雰囲気を醸し出しているからだろうか。

身体つきを見る限り、武術を本格的にやっていないだろう……まず、私は負ける事がなさそうだ。

けれども、何故だろう。

そういう次元ではなく、私は彼に勝てない。

そう、感じてしまった。

「……私の名前は、メリー。また会えるかは分からないけれども、よろしくね」

メルではなく、何故かお父様から呼ばれる愛称で私は名乗っていた。

「俺の名前はルイだ。……よろしく」

 そうして、私たちは握手を交わした。