いつものように、剣を振る。

一通りの型をなぞった後で、頭の中でドナルティの動きをなぞらえつつ、それと戦うように私は身体を動かした。

……届かない、か。

負けたことに悔しさを感じつつ汗を拭い始めた頃、お父様と同じ部隊の方々が同じく訓練をするためにチラホラ姿を現し始めた。

「……朝から頑張っているな」

 気がついたら、お父様が近くに立っていた。

「ガゼル様! おはようございます」

 一応外だから護衛の役になり切ったまま、お父様に挨拶をする。

「うむ、おはよう。……どれ、儂と手合わせでもせんか?」

「是非。よろしくお願い致します」

そしてお父様と模擬戦用の剣で戦い始めた。

ガキン、と剣がぶつかり合う音が響く。

力と力では勝てないので、私は早々に下がった。

「剣筋が変わったな」

ポツリ、手合わせの途中でお父様が呟く。

「より、実戦的になった。筋としては良い。だが……躊躇いが感じられる」

「……躊躇い、ですか?」

「そうだ。振るうタイミングでは果敢に相手の急所を狙っているというのに、相手に触れるか触れないかの直前になって、それが鈍る。その中途半端さが、隙を作っておる」

……剣が、鈍る?

確かにここ最近、自分の動きが自身の頭の中でのイメージのそれと重ならず、違和感ばかり感じていた。

その原因は、それだったのか。

「実際に命をやり取りしているところに遭遇したのだ……剣を振るうことを恐れるようになっても、仕方がないのかもしれん。だから、今まで許容してきた」

お父様の剣が、私の剣を弾いた。

「……だが、これから先もそうあり続けるのであれば……剣を、捨てよ」

冷たい視線。

まるで見下すかのように、鋭い目線が私を突き刺す。

それと同じぐらい、お父様の厳しいお言葉が、胸に突き刺さっていた。

怖いぐらいに真剣な表情。

「突き詰めれば、剣は人殺しの道具。手にするからには、相手を殺す覚悟と自らが殺される覚悟を持たねばならん。既に心算はできていると、お前は儂から剣を受け取った時に言うたな?」

「……はい」

「だが、潰れるならば剣を捨てろ。そして、二度とこの訓練場の敷居を跨ぐな」

張り詰めた空気だった。

そして次の瞬間、お父様は私に向かって剣を振るった。

それを、私は避ける。

いつものお父様とは、違う。

痛いほどの、気迫。

「どうした! お前の覚悟は、そんなものだったのか!」

弾かれた剣を手に取ることもできず、ひたすらお父様の剣を避け続ける。

その怒号が、ビリビリと私の肌を刺した。

怖い。

……怖い?

私の覚悟は、そんなものなの?

私の培ってきたものは、私の費やしてきた時は、こんなにも簡単に崩れてしまうものだったの?

……違う。

違う、違う、違う!

理不尽に負けないと、誓った。

お母様を私から奪った全てに復讐すると、誓った。

何を捨てても。

何も得るものがなくても。

よく頑張ったね、ここが限界だよね、なんて笑って諦めて区切りをつけるような、そんな柔な想いなんて最初から持っていなかった。

私は私の我儘を押し通す。

そのために必要なら、周りを利用してでも。

私は、私の目的を果たす。

……ならば、こんなところでお父様に打ち負かされるワケにはいかない。

 

そう心が決まったら、自然と手が剣に伸びていた。

そしてそれを、振るう。

頭で描いた通り、身体が反応してくれる。

お父様の動きが……否、世界が刻む時すら遅く感じた。

するり、お父様の懐近く入り込んだ。

そして、私はお父様の剣をカチあげる。

お父様は私の動きに反応が遅れ、軽く剣を跳ね上げた。

その隙を狙って、お父様の首元に剣を添えた。

「………お前の覚悟、しかと見せてもらったぞ」

 その一言を聞いて、私は引いた。

「私も、お礼を申します。……ガゼル様のおかげで、大切なことを思い出しました」

そうしてそう笑顔でお礼を言うと、私は汗を流しに屋敷に戻った。