Continuity is the Father of Magical Power
Episode 12 Bandits Kicked Out
SIDE:アルマ
遂に、私たちが盗賊たちを迎え撃つ日になった。
あと二時間もすれば、盗賊を寄せ集めた王国の大軍がやってくる。
事前に知らされていた情報で、今回王国は一万の兵を引き連れて帝国に入ったらしい。
そして、その中の四割の四千人は盗賊だったとか。
さて、王国はその内何人を初戦に送り込んでくるかな?
私の予想だと半分。
これからの流れに影響する初戦だってことと、レオンス様に盗賊たちの存在感をアピールする必要があることを考えると二千は必要だと思う。
正直、後の二つは勝っても負けても、あまり本隊には関係はないだろうからね。
そんな私の予想が正しかったことを知らせに、ユニス様がやって来た。
「今、盗賊たちの人数の報告が届いた。数は、約二千だ」
「やはり。とすると、一人二十人がノルマになりますね」
王国の二千に比べて、私たちの人数は百人。
ギーレがいなかったら、私たちは二十倍の戦力に死を覚悟していただろうね。
「私がドラゴンになれば千人は倒せるから、他は十人程度倒せれば問題ないと思うぞ」
予想通り、隣に座っているギーレが余裕の表情で半分は自分が倒すと言ってのけた。
それでも……残りの千人は私たちで倒さないといけないのよね。
まあ、私のスキルと剣も今回みたいな乱戦向きだし、私一人で少なくとも百人は倒したいな。
「そうね。それと、私には仲間を強くするスキルを持っているから、普段より楽に動けるはずだわ」
「ほう、強化のスキルを持っているのか?」
強化のスキルは確か、自分以外の仲間を強化するスキルだったはず。
どのくらい強化するのかとかは知らないけど、スキルというのは大抵強大な力だから、期待しても大丈夫なはず。物知りなギーレの反応を見ても、凄そうなスキルだし。
「ええ。イヴァンと……私の旦那とダンジョンを踏破したときに手に入れたわ」
「ほう、あのレオの兄も強化を持っているのか。それなら、お父様の方も心配しなくて大丈夫だな」
ギーレのお父さん、ギルさんはイヴァン様と南の都市を守っている。
まあ、あっちには千人だし、イヴァン様のスキルはあまり関係無いかな。
問題は、ヘルマンとベルノルトさんの方かな。いくら千人と言っても、剣だけであの数を倒すのは大変なはず。
「ふん。所詮、盗賊なんて社会からあぶれた者たちの集まりだ。戦争に耐えられるだけの根性なんてあるはずがない。どうせ、これからの戦いも私がドラゴンになって二割倒せば、もう盗賊たちは逃げ始めるだろうよ」
「そうね。でも、一人たりとも盗賊を逃がしてはいけないわよ? レオくんの命令なんだから」
「はい!」
「ユニス先輩! 盗賊達があと十分ほどで到着します!」
「了解。それじゃあ、二人とも頑張るわよ!」
特殊部隊の新人の報告に私たちは城壁とは言いがたい、形だけのボロボロな壁の外に向かった。
「うん……思っていたよりも弱そうね。王国も、少しぐらい防具と武器を渡してあげても良いじゃない」
ユニス様の言う通り、盗賊達が身につけている装備はどれも、今から戦争をする人たちの物ではなかった。
中には素手の人まで……。
「反逆されるのが怖いのだろうよ。なんせ、数だけは多いからな」
まあ、敵地で反逆されたら、王国は戦わずして負けてしまうからね。
それでも……何か武器を持たせてあげたら良いのに。
「単純に盗賊たちの防具や武器を用意するほどのお金が王国にはないのよ。はあ、思っていたよりも楽勝そうね。まあ、だからと言って油断する気はないけどね」
「そうですね。ギーレ、作戦通り初撃をお願い」
「わかったわ。だが、あの程度……私の攻撃で本当に逃げ出す可能性があるぞ?」
レオンス様の命令では盗賊は皆殺し、絶対に逃がすなと言われている。
もし逃げられれば、後々面倒になることはわかっているからね。
「そうね……。私も、ギーレがドラゴンになれば、あいつらは逃げ出してしまうと思います。ユニス様、どうしますか?」
「仕方ないわ。最初は私たちで数を減らしましょう。数が半分になったら、ギーレが相手の後方から追い込むように攻撃して。リスクは凄く上がってしまうけど、私たちなら大丈夫だわ」
「了解しました」
「ふう。それじゃあ、行くわよ! 強化!!」
ユニス様が声を上げると、急に体が軽くなった。
「わあ。これが強化のスキルですか」
「どう? 力が湧いてくるでしょ?」
「はい」
本当に凄い。これなら、二百人は余裕で倒せるはずだわ。
ユニス様のスキルに少しだけ浮かれながら、私は先頭に出た。
『うおおお!』
「来たわね。総員、一人残らず斬り殺せ!」
盗賊達が向かってくる中、私は剣を天に突き刺しながら後ろにいる仲間達を鼓舞した。
そして、私は盗賊達に向かって走り始めた。
そして、私に続くように大きな雄叫びが鳴り響いた。
『うおおお!』
流石、帝国のエリート達だわ。
「女だ! おい、女がいるぞ!」
「こいつは俺の獲物だ!」
「いや、俺がやるんだ!」
お互いの顔が目視できるくらいの距離になると、盗賊達が私を見て争い始めた。
本当、あいつらは戦争をなんだと思っているのかしら?
「ふん。狩られるのはお前達の方だ」
衝突と同時に、私は言い争っていた奴らを纏めて斬り倒した。
何人か致命傷にならなかったけど、もちろん毒ですぐに死ぬ。
まずは五人、これからどんどんいくわよ!
私は、敵が密集した場所に向けてどんどん斬撃を飛ばしていく。
「こ、こいつ、変な魔法を使っているぞ! 気をつけるんだ」
「囲め囲め! 所詮、剣でしか攻撃できないんだ。背中から攻撃しろ!」
盗賊達はやっと私が驚異であることを認識できたのか、五十人近く倒されてようやく数の有利を使い始めた。
それでも……
「へへへ。も~らった」
効果はないんだけどね。
「残念」
背後からの攻撃を透過で避けながら、私は後ろから攻撃してきた男を斬り倒した。
「ぐへ」
「ど、どういうことだ? 攻撃がすり抜けたぞ!?」
「流石に……流石に気のせいのはずだ。ほら、お前ら攻撃してこいよ」
「はあ、俺に押しつけるな。ビビってねえでお前が攻撃しろよ」
「はあ? ビビってねえから」
「敵の前で喧嘩するなんて、やっぱり所詮チンピラね」
そう言いながら、更に私を囲っていた三人を斬り倒した。
そして、更に斬り進めていく。
「本当、数だけは多いわね……」
やっと百人は倒せたかな? という頃、流石の私も疲れてきた。あと百人……いけるかな?
ユニス様の強化も少しずつ切れてきたし、思っていたよりもキツいかも。
「仕方ない。少しペースを……」
ペースを落とすか。と言い終わるよりも早く、私は大きな斧で真っ二つにされた。
「ちっ。お前は不死身か?」
私が透過で斧からすり抜けると、背後には大きな男が立っていた。
「さあ? どうでしょうね。あなたがリーダー?」
「ああ、そうだ。どんな魔法を使っているかはしらんが、俺はさっきまでの男たちの様にはいかないぞ?」
「本当にそうかしら?」
そう言いながら、私は斬撃を飛ばしてみた。
すると、男は私が斬撃を危なげなく避けてしまった。
「へえ。やるじゃない」
本当に盗賊の親玉みたいね。
「はっ。女のくせに生意気な奴だな。気に入った。一生、俺の女として飼ってやろう」
「残念。あなたには私を飼い慣らせることはできないわ」
何を手加減した一撃を避けたくらいで偉そうに。
今度は避けられないよう、複数の斬撃を飛ばした。
「ぐっ」
一つ、二つは避けられたけど、それ以外は全てヒット。
盗賊の親玉は倒れた。
「お、お頭がやられたぞ!」
「ひい! 近寄るな!」
「こ、殺さないでくれ!」
「今まで、あなたたちはそう言われても殺してきたんでしょ? 自業自得よ」
完全に闘志をなくし、助けを求めてくる盗賊達を片っ端から斬り倒していく。
やっぱり、こいつらは思っていた通り弱かったわね。ギーレを出さなくて良かった。
「ふう。そろそろかな?」
目標の二百人。たぶん達成できた。
たぶん、盗賊達の数も半分を切ったはずだ。
盗賊達は、まだまだ圧倒的な数の差があるにも関わらずちらほらと私たちに背を向け始めていた。
「総員! 退避しろ!」
予想通り、ユニス様の号令が飛んできた。
もう、私の出番は終わりね。
『グルアアア!』
ドラゴンになったギーレが盗賊達の退路を防ぐのを見ながら、私は後退した。
流石に私でも、ギーレの魔法を貰って無傷ではいられないからね。
「ド、ドラゴン!?」
「なんでここにドラゴンがいるんだ!? く、くそ! 逃げ道がねえぞ!」
「ど、どうする?」
「くそ……王国の奴ら、俺たちを騙しやがったな」
そんな最後の言葉を残して、盗賊達は氷の彫刻となっていった。
本当、恐ろしいドラゴンだわ。
「大方片付いたわね。もう、これ以上は殺す必要ないわ! 生き残りは捕縛しなさい!」
盗賊達が氷漬けにされたのを確認して、すぐにユニス様が次の命令を出した。
ええ。この中から生き残りを探すの? この中で生き残れた奴がいるとしたら、相当運が良いわね。
「助けてくれ……。お願いだ」
意外と、運が良い奴はすぐに見つかった。
まあ、死なない程度に凍らなかっただけだけどね。
もうこの人、両手両足のどれも使い物にならないわ。
「生き残りの捕縛と、死体の片付けが終わりました」
あれから見つかった生き残りは八人。
もしかしたら他にもいたかもしれないけど、他はもう今頃死体と一緒に灰になってしまったはずだわ。
「そう。こちらの被害はどうだった?」
「六人の騎士が怪我を負いましたがどれも致命傷ではなく、聖魔法で回復可能な範囲です」
新人の騎士にはやっぱりキツかったわね……。
リーナ様の聖魔法で治せる範囲だったから良かったものの、六人は今日が剣を握れる最後になっていたかもしれない。
まあ、それでも生き残れたのだから褒めてあげないと。
「やっぱり、レオくんの騎士は皆強いわね。全員、今すぐにでも特殊部隊にスカウトしたいくらいだわ」
「やめてください。ただでさえ人手不足なのですから」
今日みたいなことにならないよう、これからもっと数を増やしていかないといけないのですよ? 本当にやめてください。
「冗談よ。でも、あなたは本当に欲しいわ。私より活躍していたじゃない」
「いえ。今回は、私のスキルと戦い方が乱戦に向いていただけです」
あと、ユニス様の強化がなかったらここまで上手くいかなかったと思う。
途中から、強化の効果が切れてから本当にキツかったし。
「ふふ。あなた、凄く気に入った。戦争が終わったらちょっと相手してくれない?」
「それは光栄です」
「やった。よし。それじゃあ休憩はこの辺にして、次の仕事に向かうわよ!」
「はい!」
さて、次からの相手は今回みたいにいかないからちゃんと気持ちを切り替えないと。
勇者カイト……今回は絶対に負けないからね。