Dakara, Anata o Koko de Koroshimasu

Episode 4: The Fantastic, Cecilia Waitley

再び、わたしたちは列車に乗っていた。

せっかく、ウルスまで来たのに今度は隣町の『スクルト』まで向かう。

「まさか、奴らの教会が30キロも離れた森の中にあるなんてね……」

「あくまでウルスに来ているという情報だったからね。おそらく情報の錯乱……ではなく、単純な隠れ蓑としてその森を使ってるだけでしょう」

なので、ひとまずはスクルトに行くことになったのだ。

……なったのだが。

「何でヘイゼルちゃんも来てるの?」

「私だってあの人が許せないんです! それに、帰る家もないですし……」

顔を暗くしながらヘイゼルが答える。

「ご、ごめん! 別に嫌なこと思い出させるつもりはなかったの! ただ、危険だからついてくると危ないよって思って……」

「いいんです。これは私の勝手なので。あの人に一矢報いれればそれでいいんです。そのためなら、死んだって構わない」

そう答えるヘイゼルは笑顔を浮かべていたが、強い気迫のようなものを感じた。その目には憎悪と殺意を宿しており、十四歳の少女が持つべきではない雰囲気を抱えている。

その目を見たリコは得体の知れない恐怖に駆られたのかわたしに抱きついてくる。対して、わたしの方は自分でも驚く程冷静だった。

けれど、あの目をわたしは知っている。あれはかつてのわたしそのものだ。わたしが不死者に対して抱える憎しみと同等のものを彼女は持ってしまっている。一度、『そう』なってしまった人間は戻れない、とカレンさんに言われたことがある。人しての大事なものが欠け、道を踏み外し、どこまでも転がり落ちていくという……。

「どうしたの、二人とも。か、顔が怖いよ……?」

リコの声に、はっと我に返る。わたしは震えるリコの体を抱きしめ返し、頭を撫でてあげた。

その様子を見ていたヘイゼルが何故か顔を赤らめ、かしこまった態度で尋ねてくる。

「……失礼を承知でお聞きしますが、お二人方は付き合っていますの?」

「は!?」

「うん」

「はあ!!!?」

最初はヘイゼルの質問の意味が理解できず、反射的に叫んでしまい、次にリコが即答したので同じく訳が分からなくなって叫び返してしまう。

顔が、みるみる赤くなっていくのを感じる。「熱いよー」とリコが言ってくるので間違いなく全身の体温が上がっているだろう。というか何故リコは平然としていられるのか。

「まあ……」

そして何故、聞いてきたヘイゼルが顔を赤らめているのか。何故、顔を手で覆っているのか。そんなことをしたいのはわたしの方だ。むしろ、穴があったら今すぐ飛び込みたいところだ。

ヘイゼルが指の隙間からこちらを覗き、更に一際攻めた質問をしてくる。

「そ、そのっ、交際しておられるということは、あ、あんなことやこんなことも……!?」

「な、何を聞いてるのヘイゼルちゃん!?」

「まあ、ハグとかデートとか。一緒にお風呂入ったり、ベッドで寝たり? あと、キスもしてるよ」

「ま、まあ……!」

「リコぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!?」

デリカシーのかけらもないことをつらつらとリコが口に出していく。どうしてそこまで言っても恥ずかしくならないのか。本気で死にたくなってきた。死ねないけど。

それから二人のやり取りはわたしの声がうるさいと駅員に叱られるまで延々と続いた。

※※※※

「それでねー、この間セラがさー」

「もうその話はいいでしょ! ほら、森に着いたよ!」

未だ話し込むリコを黙らせる。色々な意味で疲れた。

幸い、駅からこの森まで徒歩で30分ほどだったので時刻はまだ日没。ヘイゼルの話によれば、主な活動時間帯は夜なのでセシリアはまだ教会の中にいるはずだ。

わたしたちの作戦はこうだ。まず、森の中を探索し教会を見つける。次に彼女が出てくるまで隠れて待機。手っ取り早く教会の中に侵入し襲うという荒業も考えたが、側にはリコとヘイゼルがいる。足手まといとは決して言わないが彼女たちを危険に晒すわけにはいかない。どうやらヘイゼルは復讐がしたいようだし、その気持ちも十分に理解はできるが彼女はまだ十四歳で戦いからは程遠いお嬢様。やはり、巻き込ませたくない。

それならば森の外で待機していればいいのだが、どうしてもついていきたいという二人の言葉に折れてしまい、せめて目がつく所でという形でこのような作戦になってしまった。ついつい甘くなってしまうのはわたしの悪い癖だ。とりあえず、ヘイゼルの護衛はリコに任せ、セシリアをわたしが引きつけ殺す。

殺す。果たして可能かと尋ねれば、不可能というのが正直な答えだ。殺す算段がまったくもって見つからない。けれど、殺す。軍の命令違反だろうが何だろうが関係ない。――――不死者はわたしを含め、生かしておくわけにはいかない。

そして時刻は夜。

確かに森の奥に素朴な教会を見つけ、わたしたち三人はセシリアが出てくるまで見張っていた。

「(でもさ、せっかくホテル予約したのに利用しないなんて悪いことしちゃったね)」

「(仕方ないじゃない。こんなことになるなんて想定外なんだから)」

「(あ、セラさん、リコさん。扉が開きました!)」

小声でリコと話していると、ヘイゼルに袖を引っ張られた。

教会の方に目を向けると確かに扉が開き、光が薄く漏れている。そこから一人の修道女が姿を現した。

「……っ!?」

その姿を目にした途端、わたし含めた三人が同時に息が詰まるのを感じた。

その修道女は確かに模範となるような清楚な出で立ちをしていた。長い緑色の髪をウィンプルに包み込み、菫色の瞳には全てを慈しむような優しい光を宿している。

だが、同時にその瞳は異様にぎらついており、その柔和な笑みからは同時に至極残虐そうな嗤いが浮かび上がってくる。まるで天使と悪魔が同時に存在するかのよう。そんな相反する二面性を彼女は抱えていた。

その修道女を筆頭に中からぞろぞろと他の修道士たちも出てくる。

「さて。皆さん、お揃いですね」

異様な修道女は口を開く。

「ご存知の通り、我々は神の威光のままに皆様を導いております。神の言葉が絶対。故に、神の言葉を否定する異教徒には相応の罰、いや、裁きを受けなければなりません」

裁き。その言葉から嫌な予感をせずにはいられない。

「本日も神の意向に背き、神を侮辱した下劣なる異教徒と話をしました。一度、彼には神の教えを伝えさせていただき、確かに信じると仰ったのです。私は彼に神に『贄』を供えなさいとおっしゃいました。ええ、『贄』とは選ばれし聖女、彼の娘のことです」

その言葉に思わずヘイゼルの方を向く。

ヘイゼルは顔を青ざめ、彼女の言葉をじっと聞いていた。

「そして彼はその要求に応えると仰り、確かに『贄』を供えようと彼女を捕らえようとしました。結果的には失敗しましたが。その後、お聞きし所、彼はこう仰るではありませんか! 『俺の娘を確かに渡そうとした。でも、無理だった。金ならいくらでもある。それで見逃してくれ』と! なんと、彼は神の意向など信じておらず、ただ我々の元を離れようと神の教えに従った『ふり』をしたのです!」

おお、おお、と彼女は体を揺らし、掌で顔を覆って大げさに嘆く。

「ああ、いけない! いけないことです! そのようなつまらない『嘘』で神を愚弄することなどあってはならないことなのです! ええ、ええ誠にあってはならないことなのです!! ……ですから、彼にはその命で贖(あがな)ってもらいました」

……は?

思わず、出かかった言葉を飲み込む。だが、こいつは最後に何と言った?

まさか、殺した、と言うのか? 命が惜しくて逃げた、それだけの行為を死に値する理由だとでも言うのか!?

「ご覧下さい、こちらが彼の首です。くひひ、綺麗に脊髄を切り離して抜き取るのは非常に難しいんですよ。特に、生きている人間は抵抗が激しいですからね」

「っ!!!?」

咄嗟に飛びかかろうとしたヘイゼルを必死で抑え込む。声も漏らさないように口を手で押さえる。

彼女は、涙を浮かべて何かを叫ぼうとしていた。いや、声にならない、意味すらない罵詈雑言をひたすら上げようとしていた。

彼女の激動は強く理解できる。だが、動いてはならない。残酷なことだが、今は耐えてもらわなければならない。

隣では、リコが口を手で押さえて必死に吐き気を抑えようとしていた。無理もない。未だ修道女が持つ生首からは血が垂れている。きっと、殺してまだ数分としか経っていないのだろう。生きたまま、首を切り抜かれる。その苦痛など想像できないし、したくもなかった。

「こうなってしまった以上は仕方ありません。今度は我々が直接『贄』を迎えに行かなければなりません。ええ、彼女は神に選ばれた聖女です。偉大なる神の意思を継ぐ者です。故に、その狭き肉体から魂を救済しなければならない」

狂っている、と思った。

いや、最初の言葉からおかしいとは思っていたが、今の言葉でもう理解することを放棄した。結局、信者だろうがそうじゃなかろうが死ぬしかないってことじゃないか。何が、神の教えだ。そんな都合のいい言葉ばかり並べてただ人殺しがしたいだけじゃないか。

懸命に怒りを抑えつつ、心の中で罵倒する。もう少しだ。彼女たちが散る瞬間、一人になる瞬間を狙うまで動かなくてはいけない。

ようやく落ち着いたのか、涙を流したまま茫然とするヘイゼルを離してやる。彼女を慰めてあげたいところだが、時間がない。再び隙を伺おうと修道女の方に目を向けた時だった。

「ええ、実を言うと皆様。本日、お集まり頂いたのは『贄』をお迎えに行くためなんですけども」

そこまで言った直後、修道女の姿が消えた。

「実はすでに、『贄』の方からお越しになれられているんですよねえ」

そして、その声はわたしのすぐ隣から聞こえてきた。

「――――っ!?」

即座に振り向くと、そこにはヘイゼルの眼前にまで手を伸ばし歪に笑う修道女の姿があった。

考えるより、先に動いていた。

「ぁあ!」

意味もなく叫びながら、即座に抜いた刀で肩を貫く。勢いを止めぬまま、わたしは背後にそびえ立つ木まで彼女を突き刺した。

「あなたはっ、何なんですかっ!!」

沸き立つ感情に従うまま、彼女を睨みつけ質問する。

対して、修道女は笑顔を崩さぬまま答えた。

「セシリア。セシリア・ウェイトリーです、お見知りおきを」

直後、わたしの胸が引き裂かれた。

何が起きたのか理解できないまま、痛みと熱で意識が朦朧となり、仰向けに倒れ込む。

「くひひひひ、ああ、ああ! ご覧下さい、神よ! 最大の罪、殺生を行わんとする汚れた異教徒はこのセシリア・ウェイトリーが裁きを下しました! くひ、くひひひひひひひひ!!」

「あなたも、同じ、でしょうが……っ!」

多量出血と激しい痛みによろめきながらも、何とか立ち上がる。

それを見た、セシリアは驚いた顔を浮かべた後、笑みを浮かべた。

「くひひ、ああ、そうですか! あなたも私と同じく、神から天啓を授かった『救世主』なのですね!?」

「意味が、分からない……!」

このような奴と一緒にされてたまるか。

未だ体がふらふらとするが、再び刀を構え目の前の敵を睨み付ける。

「あなた、お名前は?」

「そんなの、何だっていいでしょ……!」

「くひひ、ならば仕方ありませんね。神の威光に従い、あなたを『裁き』に下します。くひ、くひひひひひひひひひひひっ!!」

耳障りな笑い声と共に、セシリアが向かってくる。

死なない狂人同士の、殺し合いの始まりだ。