Demon Lord Wants to Laze

[Chris Chapter] Chris is the final story of normal driving

帰路は急がず並足だったため、行きよりも時間がかかった。

今は戦闘から一日経った夕暮れ時である。

レジスタリアの街が朱へと染まる。

子供たちは帰宅を急ぎ、家々からは炊事の煙が上がり、露店や商店は店じまいを始める。

今日という日が終わる事を物語っている。

逆に酒場などは次第に騒がしくなり、今日も飲んだくれが集まるようである。

私はどこにも立ち寄らず、真っ直ぐに執務室へと戻った。

もちろん、目減りした生クリームの補充である。

政務などはどれだけ溜め込もうが、どうとでもなるのだ。

部屋に戻ると、給仕のものに補充を命じた。

彼女らも慣れたもので、詳細を口にしなくても行動してくれる。

煩わしくなくて結構である。

ーーコンコン。

いつもと違うノック音が鳴る。

給仕のものたちではない。

この感じは、もしや……。

「空いております、どうぞ」

「失礼いたしますわ、クライス様」

現れたのは給仕ではなかった。

予見した通りシャルロット様であった。

その手には、クリームが満載された皿がある。

「下女のような振る舞いをなさいますな。然るべき者にお任せすれば宜しいのです」

「いえ、こちらは私がクライス様にと……」

「なんと、こちらをシャルロット様が?」

「何かお役に立てればと思いまして、ご用意いたしました。出過ぎた真似でしたでしょうか?」

「とんでもない。いただきましょう」

見たところ問題は無さそうである。

新雪のように純白で、きめも細かく、ひと掬いするとツノも立つ。

口に含んでみても、見た目に遜色のない味わいだ。

程よい甘味に、深いコク、ミルクの風味も際立っている。

非の打ち所のない一品である。

二口目に手を伸ばそうとしたとき、口内に衝撃が走った。

なにやら細かい粒のようなものがあった。

それを噛み締めてみると、仄(ほの)かな香ばしさに包まれる。

ーーこれは、ローストナッツ?!

なんと爽やかな味わい。

大きく主張して邪魔することなく、それでいて味の変化を確実にもたらしている。

わざわざ辛味でワンアクション取る必要もない。

この組み合わせで効率良くプロセスを辿ることが出来る。

なんという完全食品か!

「以前試したときに、評判が宜しかったのでご用意しましたが。いかがでしょうか?」

「あぁ、なんと素晴らしい! 私は今、ひとつの完成形を見たのだ!」

「えぇと、喜んでいただけたようで……何よりですわ」

それから私は3杯もお代わりしてしまった。

シャルロット様はお嫌な顔ひとつもせずに、申し出に応じてくれた。

忠義心よりも食欲が勝ってしまうのだから、私も立派な俗物である。

翌日。

領主様がやってきた。

珍しい果物を携えて。

何はなくとも、その土産だけは無事であって欲しい。

そのように神に祈った甲斐があったというものだ。

それらを預けつつ、領主様は問われた。

「留守中、何かあったか?」

一巡り記憶を辿ってから、私は答えた。

「いえ、特にお変わりなく」

ー完ー