先生が来たり来なかったりで一ヶ月が過ぎた。

午前中は経絡魔体循環をしてもらい、午後から先生がいる日は狼ごっこ、いない日は引き続き経絡魔体循環だ。

もう全然苦しくない。初日の地獄が嘘のようだ。

オディロン兄や姉上は相変わらず苦しそうだが。

やはり年齢が低い方が有利なのか。

ちなみに先生達との狼ごっこで私がペイチの実を食べられたのはわずか一回、それも多分お情けだろう。

弾力があるのに瑞々しく、すっきりとした甘さが食べるほどに食欲をそそった。

絶対いつか飽きるほど食べてやる。

そんなある日、変化が訪れた。

「さあカースちゃん。今日から次に行くわよ。

もうカースちゃんに私の経絡魔体循環は必要なくなったの。

今までは私の魔力をカースちゃんに流していたわよね?

それを今日からは自分の魔力を自分で流してみましょうね。」

「じぶんでー?」

「そうよ。魔力を自分でグルグル回してみるの。首の後ろに手を当てて魔力が流れるようイメージするといいわ。」

「ううーん、こう?」

そう言って私は右手を首の後ろに当てる。

魔力を流すのか、手から出るイメージかな。

あーじんわり暖かくなってきた。

これは母上が最初にやったあの状態なのか。

おお、何かがゆっくりと流れていく。

母上の魔力は蛇に例えたが、自分のこれは素麺のようだ。

これが私の魔力なのか?

ひどく細いし遅いが、不快感はない。

こりゃ素麺どころか髪の毛か?

たぶんナメクジより遅い。

「きゃーっ! カースちゃんすごいわ!

もう魔力を流せてるのね! やっぱり天才なのね!

お母さん嬉しくてどうにかなってしまいそうだわ!」

母上は私の額とヘソに手を当ててそう言った。

「こうなったらしばらくはお母さんが教えることはないわ。自分で頑張りましょうね。

手を首につけたまま、最後にお母さんがやったぐらいのスピードと量で回せるようになったら合格よ。」

「押忍! がんばるー」

おお、最初の関門クリアか!

妙に嬉しいぞ。

「カースちゃんは天才だから一年かからないかもね。楽しみだわ。来年の誕生日が待ち遠しいわね。」

「押忍、ぼくがんばるよ」

そんなにかかるのか、いや本物の天才ですら一年かかるのか…

私にできるのか?

母上のあのスピードはまるでモーターをぶん回しているかのようだった。

気楽に生きたくてこの世界に転生したのに二歳の時点でえらくハードだ。

いや、これを乗り越えたらきっと楽な人生が待っているに違いない。

前世のように適当に気楽に生きるんだ。

気楽に生きたいのなら始めからそんな個人魔法を手に入れればよかったものを。

しっかり考えているようで、考えが浅い元カス教師。

幸いな事に周りの環境や人間関係に恵まれており、このまま順調に成長して行けば英雄五歩手前程度の人生は送れるだろう。

はたして世界は彼に優しいのか?