「なんでだめなんだよ! そりゃ結局俺たちは出番がなかったさ!

だからってあれだけの魔物だ! アンタらだけで回収しきれるもんかよ!」

冒険者らしき男達が城門に殺到している。

当初の予定では、騎士団と合わせて出撃し、バラけた魔物を討つはずだった。

それが戦いが終わっても城門は開かれず、騎士団以外の外出が禁止された。

何もしなくても彼らに報酬は払われる。

しかしこのような戦いの後では、魔物の素材は使い物にならなくても魔石を集めることはできる。

それだけでもさせろ、と冒険者達は猛っているのだ。

稼げる時に稼ぐのが彼らの正しい在り方なのだから。

「先ほども言ったであろう。『パラシティウムダケ』の可能性がある。

死骸は全て焼き尽くす。魔石はその後で残っていれば勝手に集めろ。お前達がパラシティウムダケに寄生されるのは勝手だが、それをクタナツに持ち込むな。

今はクタナツ滅亡の危機なんだぞ?」

「そうと決まったわけじゃないだろう! 魔石を騎士団だけで独占するつもりなんだろ!」

「バカかお前、可能性だけで充分だ!

そもそも騎士長様からの命令だ。誰も出してはならない、勝手に出た者がいたら決して入れてはならないとな。」

「勝手なこと言うな! 騎士団だけで街を守れると思ってんのかよ!」

「今回の協力には非常に感謝している。

何もしてないのに報酬をもらうのはいい気分ではないかも知れん。

それなら火の魔法を朝まで使える魔力持ちならもう一稼ぎできるが、一度外に出たらしばらく戻れないぞ?」

「チッ、騎士団だけで解決したからっていい気になってんじゃねーぞ?

困った時だけ冒険者さん助けてーなんて言っても知らねーからよ。」

魔物と野生動物との違いは魔石の有無と言われている。

今回のように雑魚魔物が大量にいた場合、一つ一つの魔石は小さくても数だけは大量にあるため結構な稼ぎになりやすい。

また肉や皮、そして骨など魔物によっては部位が貴重な素材となることも多々ある。

ゴブリンは魔石ぐらいしか取るものはないが、オークは肉、オーガは角といった具合だ。

今回の襲撃はおよそ十数万匹、普段通り無差別、無分別に襲ってきたら陥落することはないにしてもかなりの犠牲を出していたはずだ。

内訳はほとんどがゴブリンで、一割に満たないオーク、そしてさらに少ないオーガやトロルだった。

野生動物はおらず、獣系の魔物もおらず、ゾンビ系、ゴースト系、スライム系もいなかった。

これはやはり寄生キノコが原因なのだろうか?

「ひとまず収まったか。だが依然として危機は去ってない。夜を徹しての作業となるな。

街中から燃やせる物を集めて城門まで運ばせるのだ。」

代官フレデリックは配下に指示を出し、今回の騒動を反芻していた。

(やはり報告通りパラシティウムダケなのか? 謎が多過ぎる……

攻撃をくらうまでは歩くだけで共食いをしていなかった、寄生されていたとすると死ぬまで歩く以外のことはできないはずだ。

それとも血の匂いに食欲が刺激され、本能がパラシティウムダケの支配力を上回ったか……

全く分からん、なるべく詳しく領都に報告するより他ないな。

春になればワシも引退だ、新しい代官には苦労をかけるが仕方ない……)

「ただいま、カースちゃんいい子にしてた?」

「母上おかえりー 大変だったんでしょー?」

「そうなの。一緒に夕食を食べたらまだ出かけるわね。」

姉上とオディロン兄はまだ学校から帰っていない。このまま帰ってこないだろう。

父上はもちろん帰って来ていない。

「母上はどんなことをしたのー?」

「そうねぇ、魔法をたくさん使ったの。

魔物を火で焼いたり、疲れた騎士さんを回復したりね。」

「すごーい! 母上かっこいい!

魔物って強いのー?」

「うーん、今回は弱かったわ。でもまだ終わってないの。困ったわ。」

「まだいるのー? まだ戦うのー?」

「ううん、魔物は全部倒したの。でもまだ終わってなくてね。」

「おわってないのー? だからまた出るんだね」

「そうなの。じゃあ行ってくるわね。

早く寝なさいね。」

うーん、倒したのに終わってないってことは普通の戦後処理ってやつか。

母上は軍属じゃないはずだが、大変だな。

「ねーマリー、何で魔物を倒したのに終わりじゃないのー?」

「通常魔物を倒しましたら解体をして魔石や素材を得ます。ここから遠く離れた場所ならそのまま放っておいてもいいのですが、今回のようにクタナツの目の前の場合、死骸を放置すると疫病の発生が危ないのです。

しかも今回は急を要する対応が必要なようです。」

「ふーん、遊んだ後は後片付けをしないといけない感じー?」

「だいたいそのようなものです。やはりカース坊ちゃんは理解が早いですね。

さあ、もうお休みしましょう。」

私はいつも通り魔力放出をしてから床に着いた。

こんなことが定期的に起こるのか、さすが魔境に近いだけある、恐ろしい所だ。