「レオポルドン! ひどいと思わぬか! 偉大なるアジャーニ公爵家の一門たる我がコンスタンタンが放校などと!
たかが辺境の学校教師ごときが勘違いしおって!」
コンスタンタンの父、コンラッドは突然代官府を訪れ、代官レオポルドンの執務室で叫んでいる。
レオポルドンはうんざり顔で耳を傾けていた。
そしてため息をつきつつ言葉を放つ。
「いくつか言いたいことがある。
一つ、お前ごときが私の名を呼び捨てにするな。血縁上は従兄弟だが、お前のような無能と従兄弟など虫酸が走る。」
「なっ!貴様レオポル……」
間髪入れず、
「二つ、今回の処分は私の全権委任だ。つまり校長の判断は私の判断でもある。
一生徒の進退に代官を担ぎ出すのはどうかと思うが今回は致し方ないだろう。」
「ぐっ、」
「三つ、お前はどのような条件で王都から出ることを許されたと思っている。うまく逃げ出せたのではない、逃げることを許されたのだ。そこを勘違いしているから、性根が変わらない。大人しくしていればコンスタンタンは成人し、お前は孫を抱くこともできただろうに。」
「ま、待て、話をきっげ」
最後の瞬間、コンラッドの口から飛び出たのは言葉ではなく刃だった。
副官が後ろから延髄を突き刺したのだ。
「ご苦労だった。手間をかけて悪いが掃除の手配も頼む。死体は街の外にでも捨てておいてくれ。こいつは今夜ここには来ていない、行方不明だ。」
「承知いたしました。」
なお、日没後城門は全て閉ざされているが、代官権限があれば開けて通行することは難しくない。
今後コンラッド・ド・アジャーニの残された妻子、使用人達の先行きに関心を持つものはいなかった。
クタナツは犯罪者や横暴な貴族のいない平和な街である。