五月も終わり六月。クタナツに梅雨はないし雨季もない。

冬よりは夏の方が雨が多い程度だ。

この一ヶ月というもの私はひたすら錬魔循環に明け暮れた。ろくに廻らない魔力を無理矢理ブン廻し銀湯船に魔力を込めたり、木刀や籠手に通したり。木に向かって魔力放出したりなど入学前のように地道に頑張っていた。

ギルドにも顔を出さずクタナツから出ることもなかった。その甲斐あって錬魔循環に進歩が見えた。以前とは比ぶべくもないが髪の毛のようだった魔力はうどんぐらいには太くなった。ナメクジ並みの速度も亀よりは速くなった。

そして明日、待ちに待った服が完成する。仮縫いを何度も繰り返したためデザインは分かっているが、どのような着心地になるか楽しみで仕方ない。

そして夜には首輪も外れる。苦難の一ヶ月だった。空中露天風呂には入れない。魔力庫に物を出し入れするのも一苦労。魔法の授業でも先生から『外せばいいのに』と言いたげな視線を受けた。

そして何より大変だったのはトイレ、つまり肛門魔法の制御だ。細心の注意を払いつつも全力を尽くさないと水すら出せない。温水はさすがに諦めた。肛門から出た水がどうにか爆裂することがなかったのは幸運ゆえか私の実力か。

そして現在、私とアレクはファトナトゥールに馬車で到着した。

「いらっしゃーい。できてるよー。」

「楽しみにしてました。じゃあアレクのコートから着てみようよ。」

アレクのコートは真っ赤だ。作る時に何色のコートを着て欲しいか聞かれたので真紅と答えた。アレクのフワリとした金髪は赤に映えると思ったのだ。

「ど、どう?」

「すごく似合うよ。やっぱり真紅にして正解だったね。髪の色がコートに映えてゴージャスアレクだよ。」

いくら顔が真っ赤になると言ってもコートほどは赤くない。そんなアレクも可愛い。

次は私だ。まずは飛膜のトラウザーズを履きウエストコートを着る。パッと見は普段と変わらないが着心地が全然違う。

仕立てた服とはこうも違うのか。

体にピッタリ沿っているため動きやすさが桁違いだ。これは冒険者には嬉しい。その上防刃、防汚。この上はサイズ調節に温度調節をつけたら一生物だな。

「カッコいいわよカース。一見普段と同じ服装なのに、よく見たら細部まで拘った逸品だと気付くの。その上全体のバランスが整ってて凄くカッコいいわ。」

こんなにストレートに言われると嬉しい。

「そう? 嬉しいな。ありがと。」

これに純白の耐火コートを羽織る。

イメージは少しビジュアル系のトレンチコートだ。ガイアが私に何か言いそうだ。

「すごいわ。このまま王宮のダンスパーティーに出席できそうよ。斬新なデザインなのに上品に仕上がってるわ。」

予想以上の高評価だ。しかしさすがに王宮は無理だろう。

「こうなるとシャツにも拘りたくなるよね。何かオススメの素材って知ってる?」

「聞くところに寄ると、ノワールフォレストの森のどこかにいるシルキーブラックモスの幼虫が身を包む繊維から作った肌着は絶品らしいわ。」

「なるほど。要は蚕だね。一体どの辺りにいるんだろうね。僕でも手に入りそうなのだと?」

「南の大陸に自生するケイダスコットンとか。肌触りが素晴らしく汗もしっかり吸ってくれて暑くても快適らしいわ。」

「なるほど。綿の一種かな。僕でも手に入りそうなのを知りたいな。」

ノワールフォレストの森だとか南の大陸だとかおいそれと行けるはずがない。

「だったら普通のシャツを魔石で快適にしたらどうだいー?」

おお、まともな意見。

「汗でベタつかないようにできますか?」

「もちろんできるよー。君の服装はシャツにウエストコートが主体だよねー。なら胴体から吸った汗を袖の先から蒸発するようにすればいいよー。」

「それはいいですね! 何の魔石が要りますか?」

「イービルジラソーレだねー。大物でも小物でもいいよー。魔石なしだと金貨十五枚、ありだと金貨一枚でいいよー。」

「なるほど、分かりました。色々魔石を集めてまた来ますね。」

「待ってるよー。毎度ありー。」

前世では社会人になってからもファッションなど興味なかったのに、少しだけブランドに拘る人の気持ちが分かったかも知れない。

こんな着心地の良い服を着てしまったら、もう戻れない。靴下やパンツ、靴やベルトにまで拘ってしまいそうだ。