母上に報告もしたことだし、今日からしばらくは泊まり込みで別荘を作る!

当分の間は城壁や基礎工事になるだろうが。

週始め、ヴァルの日。

南側と東側に杭を打つ。これで二キロル四方を杭で囲んだことになる。

ちなみにコーちゃんは来ていない……しばらく一人だ……くっ。

二日目、アグニの日。

今日から岩集めだ。城壁にはやはり岩でなければ。幸いヘルデザ砂漠の六割は岩石砂漠だ。奇岩、巨岩はいくらでもある。規格を統一するのは難しそうだが、適当にやってみよう。

たちまち魔力庫が満タンになってしまった。さすがに初めてだ。お腹いっぱいとも違う、不快感でもない変な感覚だ。収納、運搬、排出を繰り返し、柵内に大量の岩を集める。

朝から晩までで一体何トンの岩が集まったのか。見ても分からない。多分百や二百では済まないだろう。

三日目、サラスヴァの日。

岩はまだまた必要だろうが、さしあたって北側に石垣を組んでみる。まず北西の端に巨大な岩を配置する。大変なのはあまりに巨大なので私の魔力でも容易に浮かせることができないことだ。たぶん何百トンとあるのだろう。

卵のような楕円形に近い巨岩なので卵を立てるイメージで置きたい。そのためには下部を平らに加工する必要がある。いくら『石切』の魔法をミスリルギロチンにかけても無理だろう。

ならば『水滴』の魔法に金属片を混ぜてウォーターカッターだ。これで地道に切削といこう。

卵で例えると下部三割を切り落とすのに三時間近くかかってしまった。切断面は直径五メイルぐらいか、面積にして二十平方メイルぐらいと見た。この中心部に直径二十センチ、深さ六メイル程度の穴を開け、杭を覆うように突き入れる。杭に固定せずとも転げることも動くこともないだろうが慢心は危険だ。これで北西の要石ができた。外側にマーティン家の家紋を彫り込んでおこう。完成したら一家全員を招待したいものだ。もちろんアレクが先だけど。

同じ要領で北東にも同様の巨岩を固定する。こちらにもマーティン家の家紋を彫り込んでおく。少し遅いが昼ご飯にしよう。かなり魔力を使ってしまったな。昼からは北の城壁を組む作業に入ろう。岩を切る要領は分かったのでガッチリ組めるよう、ほんの少し複雑な形でも何とかなりそうだ。ちなみに午前中は魔物が来なかったので気楽に進めることができた。

昼食後は比較的大きい岩に穴を開けて等間隔に打ち込んだ杭に固定していく作業だ。両サイドほどの巨岩ではないにしろ百トンはありそうな大岩が整然と並ぶ奇妙かつ荘厳な光景が出来つつある。

ちなみに岩の掘削作業だが、以前泥沼を作った時の水の魔法を応用した。直径二十センチ圏内で金属片を含む水を高速回転させたのだ。ドリルのように硬い金属に水を流しながら削るのがベストなのだろうが、そんな金属はない。いや実はその程度のミスリルはあるのだが、もったいなくて使えないのだ。削るとなくなるという現実を前に小市民っぷりを発揮してしまったのだ。だから時間をかけて水と金属で地道に削っているのだ。

昼からの時間で東端から中心部まで、つまり約半分に岩を固定することができた。

四日目、トールの日。

昨日の続きだ。昼までに西端はおろか、そこから南下し、南西の要石まで大岩の固定が終わった。

昼からで南東の要石まで達し、夕方までに北東の要石まで終了。これでどこから見ても囲われていることが分かる。

ちなみに南西の要石にはローランド王国の紋章を彫り込んでおいた。こんな所に城壁を築いて謀叛を起こすつもりかと言われたら堪らないからな。私は忠実なローランド王国民ですよ〜というわけだ。

五日目、ケルニャの日。

さすがに疲れが溜まってきた。毎晩贅沢にマギトレントの湯船で露天風呂を楽しんでいるが見えない疲れが出ているのだろう。

昼前には終わろう。それから夕方までに領都に行くつもりなのだ。

それまでは北の城壁を積み上げよう。

既に固定してある大岩に凹凸の繋ぎ目を作り、それに噛み合うよう岩を配置する。上下にズレるのは構わない。前後にズレないように上から見て凹凸に削り、上からはめ込むことは容易い。

こうして北東の要石から西へと高さ五メイルにも満たない石垣が出来つつある。岩と岩の隙間にはコンクリートでも流し込みたいが、そんなものはない。砂と小石と石灰と砕いたオマケを水で練って代用する。これが固まるのかは知らない。何となく石灰があれば固まりそうな気がするのだ。

ちなみに石灰岩はいくらでも落ちていた。

昼までの時間では北の城壁が三割も終わらなかった。先は長そうだ。どこかで石垣、城壁作りについて調べてみようか。図書館にあるだろうか。

アレクとの合流は今日の放課後なので、領都に先に到着して昼ご飯にしよう。ここからなら直線で三時間もかからないはずだ。

ついでに領都のギルドに最近の獲物を納品しておこう。このせいで魔力庫が満タンになるのが早かったんだよな。

到着。まずはギルドだな。納品後に遅めの昼食にしよう。何を食べようかな。

「素材の買取をお願いできますか? 少々数が多いもので直接倉庫に出した方がよいかも知れません。」

「ではこちらにどうぞ」

案内された場所はクタナツの解体倉庫の半分もない汚い部屋だった。温度も常温、こんな場所で解体なんかしていいのか?

私の納品数に多少は驚いていたようだが、平然と「来週末に結果が出ます」と返事をもらった。えらく遅いな。

さて、昼飯はどこにしようかな? ギルド併設の酒場でもいいが……

「いよぉ〜ボウズ〜、派手に狩ってきてんじゃねぇか〜。ありゃどこの素材よ?」

あぁ? なんで倉庫で出した情報をもう知ってんだよ? あれか? 職員もグルってパターンか?

「どこかと聞かれたらノワールフォレストの森なんだが……」

「ほほう、やるじゃねぇか〜。で、誰の使いだ? パーティーなんだろ? パーティー名を教えてくれやぁ〜」

「すまんな、俺はソロだ。だから旨味なんかないぞ?」

「おいおい、冗談はなしにしてくれや〜。ボウズ一人でノワールフォレストの森まで行ってあれだけの素材を狩ってきたってかぁ?」

まさにその通りなんだが……

こいつは何を聞きたいんだ?

「その辺りは好きに判断するといい。用件を言いな。」

「おう、ガキが調子くれてんじゃねぇぞ? 見ねぇ顔だが新人だろうが! ギルドのルールってもんを教えたろうか、あぁ!?」

「用件を言えって言ってんだが……用がないなら行くぞ?」

知り合いがほぼいないせいか、領都のギルドではよく絡まれる。

「新人研修だよ! 訓練場に来な! 稽古をつけてやるからよ!」

「間に合ってる。帰るわ。」

帰ろうとすると周りをぞろぞろと囲まれた。

「先輩の好意には甘えるもんだぜ?」

「そうそう、人生は甘くないからよぉ」

「おっ、お前インテリだな」

「このまま帰れるなんて甘いこと考えてんじゃねぇだろな?」

「またうまいこと言いやがってー」

何だこいつら? お笑い集団か? 面白くないぞ?

「オメーらもしかして金に困ってんのか? それなら貸すぞ?」

「ほほ〜素直じゃねぇか。新人はそうでねぇとな〜」

新人研修はどうした……