デメテの日、私達は同時に目を覚ました。
「おはよ、いいことを思い付いたよ!」
「おはよう。何かしら? どうせ下らないことなんでしょ?」
「そうなんだよ。王国一武闘会ってあるじゃない? あれの領都版を開催するんだよ。優勝者にはアレクとの一日デートと賞金として大金貨一枚なんてどう?」
「本当に下らないじゃない! どうせカースが優勝するに決まってるんだから!」
「うん、もちろんそのつもりだよ。面倒が増えそうで嫌なんだけど、アレクに纏わりつく男共を何とかしたくてさ。それにどうせ卒業したら領都なんてそうそう来ないだろうしね。」
「なるほどね。面白いかも知れないわね。私との一日デートならそこまで大物冒険者が参加するってことも無さそうだし。」
「そうなんだよ。一流どころに参加されたら困るから賞金も大金貨一枚だけなんだよね。どうかな?」
「いいわ! でも絶対勝ってよね! カース以外とデートするなんて嫌なんだから!」
そうと決まれば場所、日時、ルールを決めなければ。当然私に有利なルールを……
この手のイベントはダミアンが得意そうだな、相談してみようかな。
「よし! ダミアンのとこに行ってみようか。あいつってこんなことが得意そうだし。それに例のミスリルもそろそろ用意できた頃だろうし。」
「そうね。ダミアン様に相談するのはいいわね。悪ノリしなければいいけど。」
悪ノリか……あり得るな……
朝食後、馬車にて辺境伯邸に到着。門番さんに挨拶をすると、セバスティアーノさんが出てきた。
「おはようございます。カース様、アレクサンドリーネ様。ダミアン様はここ四、五日お帰りになられておりません。何か言付かっておきましょうか?」
せっかくなので詳しく話しておいた。
「それはそれは面白いことをお考えですな。確かにお伝えしておきましょう。」
「ありがとうございます。ついさっき思い付いたもので。ミスリルの件もサボるなよ、とお伝えください。」
「承りました。分かり次第ご自宅へお伝えいたしましょう。」
これでいい。アレクに纏わりつく男共は尽く皆殺しにしてやる!果たして何人ぐらいが参加してくれるだろうか?
それからはカスカジーニ山で狩りデートを楽しんだ。例によって私は見てるだけだが。
アレクの氷弾の威力が増したように思える。練習の成果が出ているのだろうか。
そろそろ夕方なので領都へと帰る。自宅に戻ると馬車が止まっていた。来客とは珍しい。
「はっはっはー、だからカースの奴はよー」
「おほほほ、もう坊ちゃんはー」
ダミアンとマーリンが仲良くお茶してた。すごい組み合わせだな。ダミアンの背後にはセバスティアーノさんが立っている。
「来てたのか。セバスティアーノさんもようこそ。」
「おう、邪魔してるぜ!」
「お邪魔いたしております。」
「お帰りなさい坊ちゃん。お嬢様も。」
普通メイドとゲストが同じ卓でお茶をするなどあり得ない。マーリンは厳格ではないが軽々しくそんなとこをする人間ではない。つまりダミアンが口八丁でマーリンを卓に着かせたのだろう。
「まずは夕飯にしようか。食べていくだろ?」
「おう、ご馳走になるぜ。」
「せっかくですので私は別室にてマーリンさんといただきましょう。」
食べながら説明をする。
「オメーも変なことを考えるよな。俺はオモシレーからいいけどよ。」
「場所は任せる。開催日はどこかの週末、二週間後か四週間後。時間も任せる。ルールは……魔法学校でやった相手を円から出したら勝ちにしよう。もちろん降参もあり。後は何か決めておいた方がいいことはある?」
「賞品だがよ、アレックスちゃんとの一日デートはどこまで許すんだ? 勘違いした馬鹿が集まるぜ?」
「そんなもん本人の口説き次第でいいだろ。せいぜい高い店で散財するのが関の山だろうがな。いや、それすら絵に描いた飯だよな。」
「魔法使いに有利なルールだな。オメーも中々ズル賢いじゃねーの。」
「当たり前だろ。剣鬼、フェルナンド先生みたいな人が参加してみろ! 最悪だからな!」
まあそのような凄腕が少女目当てに参加するとは思えんが、賞金も安いし。
「あ、あと参加費は一人金貨一枚、代理参加は不可。代理や替え玉がバレたら罰金として大金貨二枚、そして失格にしよう。」
「そんなところか。俺が主催者ってことでいいんだな?」
「おお、頼むよ。さすがに俺が主催して参加までするのは恥ずかしいわ。あ、それから凄腕の治癒魔法使いを用意できない? 治療は各自が自腹でやってもらうとしても、さすがに死なれるのは困るからな。」
「おお、任せとけ!」
「面白くなってきたわね。私も学校で話しておくわね。絶対勝ってね!」
私も面白くなってきた。アレクの期待に応えよう!