そんな要領で排水溝を通すこと計八本。石畳の道が四本なので、その両脇に二本ずつだ。後のことを考えると、蓋をするべきではなかった気もするが。まあいいだろう。問題が出たらその時考えよう。

さて、私の計算が正しければ今日はトールの日。アレクに会いに行くのは明日の放課後だ。それまでに基礎の嵩上げをやれるだけやってしまおう。

石畳用に切った岩はまだまだ余っているが、基礎用の直方体の岩はもうない。いつも通り集めるところからスタートだ。

勝手知ったる岩石砂漠。かなり地形を変えてしまったのではないか?

そんな調子で巨岩を物色していたら、珍しく同業者がいるではないか。こんな所で見知らぬ冒険者に会うのは初めてだ。挨拶ぐらいしておこう。向こうも気付いたようだし。

「おはようございます。クタナツの方ですか? 僕はカースと言います。」

「俺達は『ブリークメイヤー』確かにクタナツギルド所属だ。俺はリーダーのモーリス、六等星だ。」

「そうでしたか。ではお仕事頑張ってくださいね。失礼します。」

「待ってくれ。君は一人か? こんな所で一体何を?」

彼らは全部で六人、男性四人に女性が二人だ。

「はい一人です。少々岩を集めてます。みなさんは何を?」

「うるさいわね。アンタに関係ないでしょ!」

ええー? そっちは聞いといて? しかも私は答えたのに?

「おい、子供相手に何をムキになってるんだ。済まない、寝起きで機嫌が悪いようだ。俺達は調査に来ているんだ。」

気になるけど、また噛みつかれては堪らん。スルーしとこう。

「そうでしたか。こんな所で大変かと思いますが頑張ってください。」

「アンタ一人でこんなとこに来れるわけないでしょ! さては盗賊の囮なんでしょ!」

さすがに意味が分からんぞ。こんな場所に盗賊などいるはずがないのに。

「この格好が盗賊に見えますか?」

「うちの者がすまん。だが確かにヘルデザ砂漠でその洒落た格好に蛇は怪しいかな。」

「ピュイピュイ」

うちのコーちゃんは挨拶のできる精霊だ。

「どうしましょう? そう言われても困ってしまうんですが。放っておいていただければもう去りますよ?」

「アンタの余裕たっぷりの口調が気に入らないのよ! ここをどこだと思ってんのよ! ヘルデザ砂漠よ! 世の中舐めてんでしょ!」

どこからそんな話になったんだ? もう訳が分からない。

「もう行っていいですか? さすがに付き合いきれなくなりました。」

この女一人のせいでパーティーのイメージは最悪だな。リーダーも大変だな。一部のメンバーは我関せずって顔をしている。

「待ちなさいよ! 私達のことを盗賊に知らせようって言うんでしょ! そうはいかないわ! みんなこいつを捕まえて!」

もちろん誰も動かない。

「ワンダ! いい加減にしろ! 何考えてんだ!?」

「モーリスこそ分からないの!? こいつ普通じゃないのよ!? こんな所にこんな格好でこれだけの魔力! 魔王よ! 魔王が復活したのよ!」

「プッ……」

「何がおかしいのよ! 笑って誤魔化す気!?」

そりゃ笑いもするだろ。マジで頭おかしいな。

「僕が魔王ですか? 意外と近いかも知れませんよ。二週間前も誰かに魔王って言われた気がします。ちなみに僕の母は魔女です。」

「なっ、なるほど……そういうことか。俺達の調査だが、魔女の別荘についてだ。」

「はあ、何か問題でも?」

「問題だらけに決まっているでしょう。魔女様は何を考えておられるのですか? とうとう辺境を併呑するべく動き出したのではないかと疑われてます。」

「本人に聞いたらいいんじゃないですか? そんな下衆の勘繰りをするってことはロクな依頼主ではなさそうですね。本当に大変ですね。」

どうやったらこんな超僻地から辺境に攻め込めるってんだ? この女の人はメンバーではないのか? 冒険者の匂いがしない、お目付役か?

「まあ依頼主を言うわけにはいかないが、そんな理由もあって調査に来たってわけだ。君は何か知ってるのか?」

さてはギルドを通してない依頼だな? やはりロクな依頼主じゃないようだ。

「もちろん知ってますよ。何を知りたいですか?」

「アンタ! 適当なこと言うんじゃないわよ! こっちは子供なんかに拘(かかずら)ってる暇はないのよ!」

なら聞くなよ。マジで何なのこいつら。

「なら終わりだ。もう行く。勝手に別荘に入るんじゃないぞ。」

「ピュイー!」

せっかく親切に答えてあげようとしたのに。この女のせいで台無しだ。何をそんなにイラついてんだ? 多少は魔力を感じることはできるみたいだが。

「何調子コイてんのよ! こんな所でママの七光が通用するとでも思ってんの!?」

もう話すことはない。無視だ。用を済ませて楽園に帰ろう。

「待てよテメー! さっきから調子に乗り過ぎなんじゃねーのか? どうやってここに来たのか知らねーがよ!大人しく質問に答えりゃいーんだよ!」

だから答えようとしたじゃないか。リーダー以外バカばっかなのか。いや、リーダーも纏めきれてないってことで同罪だな。

ブリークメイヤーだったか、絶対中に入れてやらん!

バカ女とダメ男が私に近付いて来る。やる気か?

「やめんか! お前ら何考えてんだ! こんな子供に何をしようとした! 恥ずかしくないのか!」

おっ、リーダー頑張れ。

「モーリス、こんなガキに舐められっぱなしっでいーのかよ! こんな口だけのガキに!」

「モーリス! 何ビビってんのよ! 魔女がいるわけでもあるまいし!」

「この子は何か疚しいことを隠しています。だから語らないのです。このまま行かせるわけにはいきません」

だから! 答えようと! しただろうが! バカだろこいつら!

「もうとっくに時間切れだ。お前らそこから一歩でも動いてみろ。パーティー丸ごと敵対したと見なす。」

「はぁ? アンタごときに敵対したからって何よ? やれるもんならやってみなさい!」

「ママぁ〜助けて〜って泣かれるとお兄さん困っちゃうなー。参ったなー」

「逃がしません。正直に言いなさい!」

「俺は知らんからな。君、俺は助けてくれよ」

「俺も俺も」

「お前ら……」

でも誰も動いてない。

「メイスン! エルク! アンタら恥ずかしくないの! こんなガキに舐められてんのよ! 魔女がどれだけのモンだってのよ! あんなクソババ『狙撃』ア……」

このボケ女……母上のことを……

『狙撃』

「お前らはどうすんだ? やるんなら言え、苦しまないように殺してやる。」

まだあの女は殺してない。両肩と両膝を撃ち抜いただけだ。

「ワ、ワンダ! テメーこのガキャあ……」

『狙撃』

ダメ男も動いた。だから両肩を撃ち抜いた。

「正体を現しましたね! やはりお前は魔王! ここで成敗し『狙撃』て……」

お目付女も両肩を撃ち抜いた。

「リーダーはどうすんだ? こいつら殺していいのか?」

「降参だ。すまない。俺達が悪かった、許して欲しい。」

「アンタが初めから敵意がないことぐらい分かってる。この役立たずどもの落とし前をどうつけるが聞いてん『狙撃』誰がポーション飲んでいいって言ったかよ。」

お目付女が這うようにしてポーションを飲もうとしやがったから両膝を撃ち抜いておいた。そしてポーションは没収。おっ、結構いいやつだ。もーらい。

先ほど助けてくれと言った男二人はだいぶ後ろに下がって両手をあげている。邪魔をしないなら構わない。言葉一つ間違えただけで死にかけるなんて、冒険者の命って軽いんだなぁ。恐ろしいことだ。

「じゃあ今度こそ行くからな。命だけは助けてやるからこのまま帰れ。せっかく別荘は立ち入り自由なのに、馬鹿どものせいで大損だったな。」

「まさか本当に? 確かにギルドで立ち入り自由だという噂は聞いたが……」

「自由だよ。汚さなければいいって話も聞いてないのか? バーンズさんと受付にはきっちり伝えたんだがな。残念だがお前らは出入り禁止だ。怖い狼もいるぞ。」

「あ、ああ、確かに聞いた。」

「それなのに何を調査することがあるのやら。まあいいや、このポーションは返してやるから約束だ。今日ここであった出来事はきっちり正確に組合長に報告しておけ。嫌なら構わんが。」

「あぁ、分かったっぉっ契約魔法か……」

「はいポーション。こいつらを助けるか見捨てるかは好きにしな。組合長に正確に報告するなら後は任せる。じゃあな。」

と言ってもそれほど離れるわけじゃないんだよね。ここに岩を物色に来たんだから。

よし、収納完了。さあコーちゃん帰ろうか。「ピュイピュイ」

岩を収納するところは見られたようだが、飛ぶところは見せてない。死角に入ってから隠形を使って低空を飛んだからな。しかし馬鹿な女だったな。何がそんなに気に入らなかったのやら。

モーリスは剣を抜き問いかける。

「ワンダ、言い残すことはあるか? お前を助けることはできない。」

「ま、待ってよモーリス! 私はただあのガキがっ」

「お前達もだ。勝手な行動をしてくれたせいで依頼は失敗。俺達三人はこんなヤバい場所で全滅の危機だ。」

「待てよモーリッ」

「待ってくだっ」

「さあ、帰るぜ。クタナツによ」

「おお……何しに来たんだか」

「結局ワンダの奴は何であんなにカリカリしてたんだ?」

「分かるかよ。俺が精一杯優しく接してんのに台無しにしやがって! こんな場所に子供一人だぞ? まともなわけないだろ! 誰でも分かるってんだ! それをあのボケ女がぁ!」

「魔力がどうとか言ってたよな。なら何で絡んでんだって話だよな!」

「挙句わざわざ引き止めて怒らせて……何だよあの魔法はよぉ? 一瞬で両肩に穴が空いてたぜ?」

「しかも見たかよ? あの服。かなりの大物素材だったぜ?」

「マジかよ。ヤバいな!」

「伊達や酔狂であんな格好してるわけじゃないってことか……」

「伊達や酔狂、そして実用性。全部欲しいんだろうぜ。大したガキだ……」

「早めに白旗揚げてよかった……」

「俺もだ。さて、こいつらがぶちまけた荷物を拾ってと、帰ろうぜ!」

彼等が全滅を免れたのはカースの慈悲か、それともリーダーであるモーリスの判断か。二代目ブリークメイヤーの前途は多難である。