八月七日、パイロの日。

結局昨夜は教授の研究室で話が二転三転してしまい夜を徹して魔法工学の基礎を教えてもらった。

みんなには合間に洗濯魔法と乾燥魔法をかけておいた。教授は少し驚いたようだ。

例えば貴族の邸宅は夏は涼しく冬は暖かい。これは馬車でも同じだ。クーラーや暖房があるわけではない。建材そのものに魔法処理で温度調節が付いている、つまり私のサウザンドミヅチの装備と同じなのだ。魔石を利用してそのような処理を行うことが魔法工学なのだ。厳密には職人はそれを経験則で行なっているのだが、その原理を解明することが魔法工学の真髄らしい。

だから窓が無くても明るいし、換気をしなくても匂いが籠らない。やはり魔法を中心に発達しつつある文明とは凄いものだ。

これだから今さら安宿や平民宅には住めないってものだ。

セルジュ君が珍しく興味を示しており、教授を質問責めしていた。教授もセルジュ君の熱意に絆されたのか詳しくじっくりと説明していた。

私はと言うと、途中で理解できなくなり『顕微』の続きをしていた。私の魔力が切れることなどないのだから。断じてない!

余談だが、ローランド王国にもダイヤモンドは存在する。ただでさえ希少な上にカットするにもかなり苦労するらしく恐ろしく高い。

もしも私が顕微の魔法でダイヤモンドの結晶構造を確認できるようになり、炭から黒鉛、黒鉛からダイヤモンドを人工的に合成したら凄くないだろうか? 理論的な方法は知っているので、逐一結晶構造を確認しながら進めれば意外とできたりしないだろうか? そんなことを考えながら顕微をしていたら朝が来た。

全く……夏休みだってのに。

明日からは別行動だし、今日はみんなで何して遊ぼうか。ちなみに私とサンドラちゃん以外はそこら辺で寝ている。サンドラちゃんは教授と何か議論をしているようだ。粒元体を砕くとか粒元体を動かすとか聞こえてきた。レベルが違う……少し寝よ。

「カース起きて。お昼にしましょ。」

「おはよ。もう昼?」「ピュイピュイ」

アレクが優しく起こしてくれた。コーちゃんも今起きたようだ。

みんなも起きてるな。

「ねーねー今日は王都の外の方で狼ごっこやらない?」

相変わらずのセルジュ君だなぁ。でもやりたい!

なぜか今日は新しいことに挑戦したい気分だ! でも昔から馴染んでいる遊びもやりたいぞ。凧揚げ、羽根つき、コマ回し。それはさておき……

「賛成! やりたい!」

「たまにはいいよね。」

「私もたまには体を動かさないとね。」

「私だって負けないんだから!」

人に見られたらかなり恥ずかしいが、知ったことではない。私達はやりたいことをやるのだ。

昼食を『王の海鮮亭』で済ませてそのまま第一城壁より外に出る。まだまだ周りには田園風景が広がっているので、さらに外へ。

「みんなは明日から何するの?」

セルジュ君が問いかける。

「僕は母上の実家に顔を出すよ。ゼマティス家だったかな。」

意外とドキドキなんだよな。祖父母と初対面だ。

「私はアレクサンドル本家の上屋敷ね。たぶん一泊ぐらいするかしら。その後はカースとデートね。」

「僕は卒業した先輩のところだね。将来のこともあるし挨拶しておかないとね。」

スティード君は本当に真面目だよな。

「私は変わりないわ。ひたすら勉強ね。教授の部屋にいるだけで給料取り放題だから便利なのよね。セルジュ君は?」

サンドラちゃんが悪い女になっている。まさか押しかけてるのか?

「僕は姉上と一緒に挨拶周りかな。これでもミシャロン家の長男だからさ。」

すごいな。私達はまだ十二、三歳だぞ? みんな大変そうだよなー。

そんな話をしているうちに人気のない、だだっ広い場所へと到着した。ここなら丁度いい! さあ勝負だ!

やはりと言うか当然なのか……

身体能力ではスティード君が圧倒的だった。そしてサンドラちゃんが圧倒的に劣っていた。無理もない……

そこでルール変更。サンドラちゃんは魔法あり、スティード君は右手禁止にしてみた。

サンドラちゃんから水球がバンバン飛んで来る! 最初の犠牲者はセルジュ君だ。飛んで来る魔法をひたすら避けるのは大変だよなぁ。その上、風壁をあちこちに配置されてしまい私達は見えない迷路に迷い込んでしまった。ここまでやるのか!

そんな感じでようやくサンドラちゃんの勝利。満足そうだ。

コーちゃんを捕まえられないのはノーカウントだ。それは仕方ない。

「ねえ、次は魔法対戦やらない?」

アレクが妙なことを言い出した。ルールは王国共通だから問題なく開始できるけど。

「いいけど使う魔法は水系だけにした方がいいよ。」

スティード君の飛突は危ないからな。総当たり戦でもたった十試合、中々面白そうだ。

その結果、私が三勝一敗。セルジュ君の水弾で足元を崩されてしまいフラついて負けてしまった。

アレクは私だけに負けた。

セルジュ君は私だけに勝った。

スティード君はサンドラちゃんに勝った。

さあスティード君とサンドラちゃんは何勝何敗でしょう?

よって今夜の夕食はサンドラちゃんとセルジュ君の奢りとなった。

そして私達は来週のパイロの日の朝、王の海鮮亭に集合することを約束して解散となった。私とアレクは同じ宿だけど。