アレクと水入らずの夜を過ごした翌日、ケルニャの日。王都に滞在するのも後二日か……
「おはよ。今日は道場とゼマティス家に寄っていいかな。結局まともに稽古をしてないものだからさ。」
「もちろんいいわよ。またカースのカッコいいところを見せてよね!」
「ピュイピュイ」
コーちゃんは先生が好きなんだよなー。浮気者……
先にゼマティス家に寄っておばあちゃんにあらましを伝えておく。ついでに賞金もプレゼントするつもりだ。
そして道場へ。
やはり夏休みだけあって、大勢の子供達が外で木剣を振っている。参加したいが、先生への用が先だ。ツカツカと中へ入りこむ。
「押忍!」
正直なところ、昨日からずっとこの魔剣を収納せずに鉄板で巻いたまま持っている。だから重くてかなわない。早く先生に見せたいのだ。
先生は……いた!
指導中か……しかしこっちも緊急なんだよ。魔剣を抜き、先生にアピールする。お願い気付いて。
「よーし、五分休憩!」
よし、気付いてくれた!
「先生! これを見てください!」
「カース君よく来てくれた。しかしそれは困……魔剣かい?」
「そうらしいんです。だからぜひ先生に見て欲しいと思って……」
「以前私がムリーマ山脈でブルーブラッドオーガを倒し魔剣を手にしたことは言ったね? その時の魔剣よりは……禍々しくない。」
「何てことない使い手だったのに、まるで先生みたいな威力だったんです。エルダーエボニーエントの籠手が無かったら危なかったです。」
シルキーブラックモスのシャツの袖が切り裂かれてしまったんだよぉー。防刃を付けてたのに! しかもこれには自動修復が付いてないってのに。あーあ、籠手にも傷が付いてるし。恐ろしい切れ味だ。
「ふうむ。持ち主を知っているかい?」
「はい、ニコニコ商会の斬り裂きキンキーって奴です。そいつはもう死んでますけど。」
ついでに昨夜の出来事も説明しておく。
「なるほど、そんなことがあったのかい。偽勇者ね……少し気になることがある、この魔剣を借りてもいいかい?」
「いや、貸すどころが差し上げるつもりだったんですが、ぜひお持ちください。」
「ふふ、気持ちはありがたいが私にとっては役に立たない下らない剣さ。じゃあせっかくだ、買い取るとしよう。白金貨十枚でいいかい?」
「いえ、先生からお代をいただくなんて……じゃあペイチの実を十個なんてどうですか?」
「はっはっは。ではお言葉に甘えさせてもらおう。」
やった! ペイチの実を十個ゲットした!
「じゃあ僕も外の稽古に混じってきますね。」
「ああ、頑張っておいで。夜まで居れるかい? それなら先生のご長男を紹介できるが。」
「はい! ありがとうございます。よろしくお願いします。」
それから麻の上下に着替えて庭に出る。コーちゃんは先生に巻きついている。浮気者ー!
アレクもアクティブな格好に着替えて私と庭に出る。どうやら魔法学校の運動着らしい。
この間の先生に挨拶をして、列の後ろに付く。それから一通りの稽古が終わり昼休みとなった。王の海鮮亭で弁当を作ってもらってあるので食べよう。
「どうアレク? 疲れてない?」
「何とか大丈夫。こうやって体を動かすのも大事よね。アイリーンに負けないためにもね。」
「そうだよね。魔法使いにも体力は大事だよね。」
昼からもアレクはしっかり頑張った。とても頑張った! 素晴らしいことだ。頭を撫でてあげよう。よしよし。
日が沈み、再び道場内に入るとだいぶ人数が減っていた。先生に呼ばれて近寄ると大柄でごつい男性を紹介された。
「君がアランさんのご子息カース君だね。私はコペン・アッカーマンの一人息子、ダイナストだ。ようこそ無尽流へ。」
「初めまして。アラン・ド・マーティンが三男カースでございます。アッカーマン先生のみならずフェルナンド先生にも一方ならぬお世話になっております。」
「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルでございます。カースをよろしくお願いいたします。」
「よし! では挨拶はここまでにして夕食にしよう! 他のみんなもアランさんのご子息ってことで楽しみにしてるんだから。」
やはり父上は門下生に人気らしい。ウリエン兄上も時間ができたら顔を出すらしいが、王太子の近衛になってからは一度も来ていないらしい。
宴会と言うには賑やかではないが、夕食会と言うには賑やかな夕食だった。
現在の道場主はダイナストさんではなく、アッカーマン先生の高弟の一人らしい。今日は不在か。
そのダイナストさんはなんとアジャーニ家の娘さんと結婚して小さい道場を構えているらしい。すごい……! まだお子さんは生まれてないようだが、アッカーマン先生も楽しみにしているとか。
やがて酔いが回った皆さんが順番に宴会芸を披露することになった。
木刀でジャグリングをする方、木刀をぶん投げてウィリアム・テルオごっこをする方。漫談をする方に手妻をする方、無尽流の皆さんは芸達者だな。
私にも回ってきたのでアレクのバイオリンを弾いてみた。曲は先生が退治したブルーブラッドオーガにちなんだ曲だ。何とかブーイングが来ないまま乗り切った……! 次のアレクのバイオリンは拍手喝采だった。アレクなら当然だ、悔しくなんかないっ……
コーちゃんは私のバイオリンでは踊らないくせにアレクのバイオリンでは踊り回っていた……
そしていよいよ先生の番となった。すると皆さん場所を広く開けだした。先生は酔って上機嫌な顔をしている。そして目隠しをして木刀を構えた。
いきなり先生に向かって様々な物が投げつけられた。いつものように打ち落とすのかと思ったら、木刀は動かさずフットワークのみで躱しているではないか。しかも構えがブレていない。凄すぎる……
私もやろう。『狙撃』
よし! 先生に木刀を使わせてやった。ふふふ。次々いこう。『狙撃』
木刀を使わせたことを喜んでいたけど、目隠しをした先生に完全に防御されてるんだよな……うーん悔しいな。
「カース君、室内でそれはやめてくれ。道場主が泣くぞ。」
あ、そりゃそうだ。あちこちに穴が開いている……しまった……「ごめんなさい。」
みんなが大笑いしてくれた。やはりみんなでワイワイ盛り上がるのはいいなぁ。いつの間にか宴会以上のノリになっている。楽しいなぁ。