昼休憩。観客が多すぎてアレク達を探すのは諦めた。だいたいの居場所は分かるので、発信の魔法を使っておいた。素直に控え室で待ってればそのうち来てくれるだろう。しかしやって来たのは……

「おい、お前! あのような戦い方をして恥ずかしくないのか!」

顔は見ても分からないが、鎧のへこみから判断すると先ほどの対戦相手か。ごっつい体に似合わず意外と童顔なんだな。顔だけ見れば私より年下か。

「勝てば国軍って言葉を知らねーのか?」

何でもアリってことは決着後の報復もアリってか。ならば場外乱闘もアリだろうな。

「うるさい! あのような勝ち方で陛下に顔向けできると言うのか! 認めん! 改めて尋常に勝負しろ!」

『麻痺』

馬鹿かこいつ。自慢の鎧をあれだけベッコリへこまされて実力差に気付いてないのかよ。最初から本気でやってたらハルバードごとブチ折ってたってのに。しかもそんなバテバテの体じゃあ勝負にならない。簡単に麻痺が効くぐらいだからな。

「カース、お待たせ。お昼にしましょう。」

「ピュイピュイ」

「ありがと。もうお腹ペコペコだったんだよ。」

コーちゃんも一緒に食べようねー。

「カース! あの勝ち方は何よ! あんなに無様に逃げ回って!」

シャルロットお姉ちゃんは面倒くさいことを言う。

「作戦だよ。あんな大きな相手とまともに打ち合って負けろって言うの?」

「いや、それにしたってアンタならもっと何とかできるでしょ!」

できるけどね。

「お姉ちゃん知らないの? 騎士や冒険者に最も必要な技能は、逃げ足の速さだよ? だから僕は誰にはばかることなく逃げて勝つよ。」

そんなことより飯だ。昼休憩はそんなに長くないんだから。昼寝だってしたいし。

「私はカッコよかったと思うわよ。さすがカース君ってとこよね。」

いつ合流したんだ、ソルダーヌちゃんとエイミーちゃん。

「ありがと。じゃあみんなで食べようか。」

「はいカース。お弁当よ。」

さすがアレク。一体いつの間にそんな用意を!?

「私からは紅茶。よく冷やしてあるわ。」

お姉ちゃんまで……

「私はペイチの実。後でカットしてあげるわね。」

ソルダーヌちゃんまで!? 至れり尽くせりじゃないか!? これがモテ期!?

「み、みんなありがとう! すごく嬉しいよ!」

幸せすぎる! 特にアレクの弁当は美味い! 料理上手だよな。その上味わい深く冷たい紅茶が爽やかな気分にさせてくれる。食べ終わりを見計らってカットしてくれたペイチの実もかなり美味しい! 最高だ、ねーコーちゃん。「ピュイピュイ」

このいい気分のまま夢見心地で寝る!

「アレク、膝をお願い。」

「もう、カースは甘えん坊なんだから。」

私の番号はアレクに伝えてあるので、ギリギリまで寝るとしよう。ぐぅぐぅ……

まさか、カースを膝枕することに優越感を感じるとは思わなかった。私の膝枕が大好きなカース。そんなカースが大好きな私。

ソルは冗談めかしてカースに言い寄ってるけど、実際は本気。でもそんなソルを私は拒絶できない。カースに近寄る女がいると考えるだけで魔力が沸騰しそうなほど怒りを感じるのに、ソルには不思議とそんな気持ちにならない。本当に側室になったらどうしよう……私からカースにお願いしてしまったのに……

そしてシャルロットお姉様。

明らかにカースに惹かれている……ゼマティス家にしては魔力も練度も低い。さすがに魔力は私よりだいぶ高いけど。

そんな彼女も私は拒絶できない。でもソルと違って側室になって欲しくない……何が違うのか、私には分からないけど、彼女は違う。きっと、カースに相応しくない……

そんなことを考えながらも私の胸に去来するのは、愛しい男の寝顔を最も近くで眺めることができる幸福感だった。

本当に無邪気な顔をして寝ている……

「カース、起きて。呼ばれたわよ。」

「おはよ……じゃあ昼からも頑張るね。」

あー、よく寝た。やはりアレクの膝枕は最高だ。

今度の相手は冒険者風だな。普通の剣、革鎧、籠手に脛当て。動きは速そうだ。

『さあ三回戦も十試合目となります。カース選手対カンバーク選手の試合を始めます。双方構え!

始め!』

いきなり突っかけてきた。上段からの振り下ろし。中々鋭いな……

よし、本気だ。打ち下ろす彼の剣に合わせて虎徹を振り上げる。弾かれて剣が遠くに飛んでいった。大抵は折れるのに上手く手を離したのか、それとも握力が弱かったのか。唖然とする彼に構わず虎徹を切り返し首元に命中。彼の顔が下がった、チャンス。顔を下から蹴り上げる。持ち上がった顔を横から虎徹で薙ぐ。終わりだ。

『勝負あり!』

一気に勝負をつけられてよかった。あの手のタイプはきっと奥の手をたくさん持ってそうだ。長引くときっと面倒だ。

「カース君、凄かったね! 速攻だったね!」

「スティード君、昼に探したんだよ。どこ行ってたの?」

「いや、ごめんよ。控え室には行ったんだけど、あのメンバーには混ざれないよ。だから兄上達と食べてたよ。」

「あー、ソルダーヌちゃんがいたもんね。緊張するよね。」

やっぱり辺境伯家、最上級貴族だもんな。それよりも残り十三人。これからどうやって対戦が続くのだろうか。

『三回戦が全試合終了いたしました。これより敗者復活戦を行います。三回戦の敗者達は武舞台に上がってください。はい、後三分! 急げ!』

過激なアナウンスだな。ギルドの人気ナンバーワン受付嬢だったか。やはり領都の黒百合さんみたいな感じなのだろうか? 結局あの人の顔って見てないんだよな。ギルドに行っても受付はたくさんいるから分からないんだよ。

それから三分以内に武舞台に上がった者でバトルロイヤルが行われた。そして勝ち残り三名が決勝トーナメントへと進出することになった。

『さあ! 盛り上がって参りました! ご来場の皆様、ご機嫌いかがでしょうか。いよいよ決勝トーナメントとなりました! ここからは積極的に実況、解説をしていきますよ! それでは決勝トーナメント一回戦の抽選を行います! 参加者はそこの箱から一人一枚ずつ引いてください。』

なるほど、この十六名で改めて抽選をするのか。私が引いたのは六だった。三試合目ってことだな。相手は誰だ?

『決勝トーナメント第一試合に先立ちまして、国王陛下よりお言葉をいただけることになりました。ご起立、脱帽の上、静聴!』

二万人あまりの人数が水を打ったように静かになる。やはり国王の権威、人気は絶大なようだ。

『皆の者、楽にするがよい。今のところ余は満足している。例年に比べ多少は腕が上がったようにも思う。さて、勝ち上がった十六名よ。ここからが本当の勝負である。最後まで勝負を諦めるでないぞ? お前達の勇戦に期待している。』

『さあ、国王陛下のありがたいお言葉もいただきましたところで、決勝トーナメント一回戦第一試合を始めます!』

それから第一試合、第二試合と終了して、ようやく私の出番となった。対戦相手は私と同じぐらいの体格で軽そうな革鎧を身につけていた。武器は鎌槍か、厄介そうだな。

『決勝トーナメント一回戦、第三試合を始めます! 一人目はビッケイン選手! 弱冠十五歳ですでに七等星の冒険者! 五年目の若手有望株だぁー!ここまで無傷で勝ち上がった槍の遣い手です!

さあ対するはカース選手! 十三歳の十等星冒険者! なんだそのオシャレな服装は!? ここは戦場だぞ? 大丈夫なのでしょうか!?』

やはり私のコーディネイトは王都でも通用するオシャレさか。流行り物で身を固めた節操なしなんて言われなくてよかった。

『双方構え!』

『始め!』

『おぉーっとビッケイン選手! いきなりの猛攻だぁー!連続突きが止まらなーい! どうですか解説のベルベッタ様!?』

『基礎を疎かにしていない好感の持てる動きだ。あの槍は極蔵院流のようだが、あの歳で実戦でも鍛え上げているようだな。』

『ありがとうございます! おおーっと! この間にも戦況が変わっています! ビッケイン選手の鎌槍が、なぜかただの槍になってしまっているぅー!』

『見事だ。鎌槍は避けたつもりでも首をかき切られる危険な武器だ。だからカース選手はその出っ張り、鎌の部分を正面から叩き折ったのだ。あのような木刀でな。見たところ無尽流か……ふふ。』

鎌槍は厄介だ。避けたと思っても首や目を切られたり、突きの後、引く時にも再び狙われてしまう。だから叩き折ってみた。どうやら数打ち品だったようで、案外簡単だった。これでただの槍だ。私の姿を見てメインの武器を温存しておいたのだろうか? しかし油断はしないぞ。

『さあ膠着してきましたね! ここから主導権を握るのは一体どっちだ!?』

『ここまでの攻防は互角。武器や体力の消耗の分だけカース選手がやや有利と言ったところだ。』

動きがなくなってきたことだし、私から攻めてみよう。でも槍って近寄りにくいんだよなぁ……

だめだった。全然近寄れない。参ったな。槍も叩き折ってやりたいが、さっきので虎徹の威力は分かっただろうし警戒してるよな?

それなら……

『あーっと! カース選手、唯一の武器である木刀を投げたー! それを槍で弾くビッケイン選手! その間にカース選手が間合いを詰める! 組み打ちに持ち込む作戦か!?』

『槍の遣い手というものは、懐に入られるのを嫌う。しかしそれだけに入られないようにするし、入られた時の対策もしっかり練ってあるものだ。ビッケイン選手はどうだろうか。』

間合いを詰め、槍を掴もうと手を伸ばすとむしろ相手の方から槍をパスされてしまった。つい反射的にその槍を受け取った瞬間、脇腹に強烈な蹴りを食らってしまった。そのまま槍ごと吹っ飛ばされた私。あまりダメージはないが普通なら肋骨骨折だろうな。この槍は場外へ投げておこう。虎徹も場外へ飛んで行ってしまったことだし。

ここから肉弾戦かと思ったら相手は短剣を取り出した。さすがに用意してあるよな。私もだが。まあほとんど肉弾戦みたいなものだな。体格はほぼ互角、装備的には私が有利だが……

『素早く立ち上がったカース選手! あれだけの強烈な蹴りをくらったにも関わらず何というタフさだぁー!』

『勢いよく吹っ飛んだのがよかったのだろう。他にも理由がありそうだが、解説という立場からは少々言いにくい。』

サウザンドミヅチを装備しているので、よほどの業物でない限り短剣など怖くはない。体を低くしてタックルから入る! 私の背中に短剣を突き刺そうとするが、刃が当たる感触がない。いける!

彼の腰から下、大腿部を捉えて倒す! そのまま態勢を変えてマウントポジション! さらにどさくさで短剣を奪い取り喉元に突きつける!

「ま……参った……」

『勝負あり! カース選手の勝利です! どうでしたか、ベルベッタ様!?』

『非常に見応えのある勝負だった。ビッケイン選手の強烈な蹴り、あれで勝負あったと思ったのだが。次回からは装備のレギュレーションを見直した方がいいかも知れないな。もっとも装備を整えるところも含めて実力なのだが。』

『と、言うことはカース選手の服装はオシャレ全振りに見えて、実はすごい装備だと?』

『どうやらそのようだ。見たところ私の愛用ワイバーンスカートより数段上だ。侮れない選手だな。』

余計なこと言わなくていいのに。解説が仕事なのだから仕方ないか。まあ実際反則だよな。ルールを見直した方がいいんじゃないか? 装備を統一するとかね。

さあこれでベストエイト進出か。やはり手強くなってきたものだ。