自宅に帰り、風呂に入る。まだ昼にもなってないが構わない。かわいいカムイが無事だったんだからな。アレクと二人でカムイをわしゃわしゃ洗ってやる。気持ち良さそうに目を細めるカムイ。体はデカくなったけど、お前は何歳なんだい?

朝風呂は気持ちいい。そのままカムイには留守番を頼んで私とアレクは行政府に行く。

コーちゃんはカムイと戯れている。

行政府、総合受付にて。

「カース・ド・マーティンと申します。モーガン様はいらっしゃいますか?」

「し、少々お待ちください!」

珍しい対応だな。あのジジイの部屋なら案内はいらないのだが。

「どうぞこちらへ」

騎士がわざわざ案内してくれるらしい。

到着したのは辺境伯の執務室だった。中には当然辺境伯と、モーガンがいた。

「失礼します。」

「失礼いたします。」

「ピュイピュイ」

「よく来てくれた。カース君、この度は領都とダミアンを守ってくれてありがとう。アレックスちゃんもだ。」

「いえ、当然のことかと。」

「私は何もできませんでした……」

ええーい! アレクのトラウマを刺激するんじゃない!

「恩賞、表彰は当然なのだがそれとは別に何か希望はないか? 何でも言って欲しい。」

うーん、急に言われても……あっ! これにしよう!

「では一つ。来月末で私は貴族ではなくなります。その場合、自宅に税金がかかると思いますので、それを免除していただければ。」

「何と!? まさかマーティン卿の身に何か!?」

「いえ、退役するだけのようです。」

軽く事情を話しておく。アッカーマン先生のことについては知ってるかも知れないが、話さない。

「そうか。分かった。ならば爵位はいらないか? そうすれば労することなく免税となるが?」

「申し訳ありません。実は国王陛下や宰相閣下からも似たようなお話をいただいたのですが、全てお断りしております。義務が伴う権利は欲しくないもので。」

我ながら酷い言い草だがな。爵位なんか貰ってしまったらどれだけ面倒なことに巻き込まれるやら分かったものではない。

「そうか……もったいない気もするが、仕方ないな。では免税許可証を発行することにしよう。しかし、それだけでは足らんな。他に思いつかないのであれば、また後日ダミアンにでも伝えておいてくれ。」

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」

「もちろん王都の上屋敷やソルダーヌを守ってくれたことも感謝している。君のみならず、魔女殿にもな。この恩は忘れぬ。」

「ソルダーヌちゃんが無事でよかったです。」

義理堅いな。さすがは辺境伯。

「さてカース殿。この度の貴殿の勇戦、ワシは生涯忘れぬだろう。二匹ものドラゴンを相手に真っ向から立ち向かう、英雄の戦い方であった。」

やっとモーガンが口を開いたな。

「恐縮です。」

アレクが聞いてないわよって顔で私を見る。言ってなかったっけ?

「まずはこれを返しておこう。盗まれでもしたら大変だからな。」

モーガンが魔力庫から取り出したのはあの時使ったオリハルコンの塊。とどめにこいつをぶつけてやったからな。きっとこのジジイが回収しておいてくれるだろうと確信して放っておいたのだ。ちゃんと戻って来て嬉しい。かなり変形してしまっているが……いくらオリハルコンと言えどドラゴンとぶつかるとタダでは済まないんだな……

「ありがとうございます。きっとモーガン様が回収しておいてくれるだろうと思ってました。」

「モーガンから聞いた時には驚いたぞ。まさかこれだけのオリハルコンの塊を所有しておるとはな。しかもそれを打ち捨ててまでダミアンを助けようとしてくれるとは、もはや言葉もない。」

「ダミアン様は友人ですから。」

そう言いながらオリハルコンを収納する。これで新しい武器を作るのだが、何にしようかな。

「それからクリムゾンドラゴンの素材だが、ロクな物が残っておらぬ。拾えるだけ拾ってはあるが、肉類はその場で食える物は食べてしまった。すまぬがな。」

ほう、あの赤いドラゴンはクリムゾンドラゴンと言うのか。色んなドラゴンがいるものだな。

「いえ、全然構いません。何か使える素材って残ってました?」

「散らばった骨、砕けた牙、折れた角ぐらいだの。皮や鱗は使い物になりそうにない。せいぜい錬金術の材料にするぐらいか。後で倉庫に寄ってもらおうか。」

こいつはありがたいぞ。やるなぁジジイ。

「わざわざありがとうございます。」

「それからワイバーンやその他の魔物だ。解体すら済んでいないものも多々ある。何せ量が量だからな。こちらで買い取ってもよいがどうする?」

「ではワイバーンの肉だけ欲しいです。解体費用は適当に引いていただいてその他を買い取りでお願いします。」

かなりの数を仕止めたからな。これで一気に財産が復活だ。領都も守れたし、私も儲かって一石二鳥だな。

「では最後にカース君に仕事の依頼だ。」

おっと、辺境伯直々に何事だ?

「どんなご依頼でしょう?」

「実はな……」

何と! ムリーマ山脈をぶち抜いてトンネルを作るだと!? もしもそれが実現したら南北の物流に革命が起こる。王都へのルートもかなり短縮されるだろう。いくつも問題はあるだろうが、よくそんな無茶なことを思い付いたものだ。辺境伯としてもクタナツ代官に負けるわけにはいかないもんな。あの代官が北へ開発を進めるならば、自分は南の貴族達を巻き込んで発展を画策するってわけか。マジで時代が動き出してやがる……

あの時……転生管理局の役人『かなや=さぬはら』はこの世界のことを『魔法を中心に発展しつつある世界』って言っていたな。まさにその通りではないか。これからどうなっていくのか……

「そこで君に依頼したい仕事だが、現場の警備だ。はっきり言ってトラブルが魔物の襲来だけとは思えない。山に穴を通すわけだからな。様々な問題にぶち当たるだろう。そんな時、君に現場の人間を助けてもらいたいのだ。予測不可能なトラブルに際して皆の命を救うことは君にしか頼めないことだと思っている。」

えらく高く買ってくれてるな。しかし……

「うーん、依頼を受けるのはいいんですが、毎日現場に居るわけにはいきません。せいぜい週に2日ぐらいですし、一ヶ月留守にすることもあります。また、こちらのアレクサンドリーネの卒業に合わせまして旅に出ますので、それまでならどうにかってところです。」

「そうか。それは残念だ。まだ計画段階だしいつから動き出すかも分からぬからな。いち早く君を確保しておきたかったんだ。」

「ならばこの件は黙っておきましょう。もし、動き出す時があれば改めてお声掛けいただければ。私は無理でも妹のキアラならどうにかなるかも知れません。」

「それはいいことを聞いた。妹御も勲章を貰ったそうだな。まだ四年生なのにすでに二つ名までも。」

『氷獄の魔導士』だもんな。ただの『氷獄』ではなく魔導士までがセット。どんだけ宮廷魔導士に気に入られたんだよ。

問題はキアラが卒業した後、どこに進学するかだ。とても普通に領都の魔法学校とかに行くとは思えないんだよな。

本命は王都の魔法学校、対抗は領都の魔法学校。大穴は王都の貴族学校ってとこか? 後一年半か。あんなに小さかったキアラも卒業か……